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すべてが終わったそのあとで  作者: 北田 龍一
空気がクッソ悪いけど、研究所が生きてるのを願うしか……

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喋る魔物

隠し階段の先にあった地下室。三階建てのダミーの下にあったのは、圧倒的冒涜感を漂わせる研究所だった。挙句の果てには、研究所周りを守っていた魔物の生産設備まで……マーヴェルの所業に失望する俺たちだけど、俺は何かの気配を不意に感じた。

 最初は、幻聴か聞き違いかと思っていた。自動で動くシリンダーや設備の音と、聞き間違えたのかとも思った。それぐらい微かで、些細な音。

 ふと天井を見上げて、周囲に耳を澄ませる。もしかしたら実験体がうろついているのかもしれない。そんな不安と恐怖から、俺は当たりをきょろきょろと見渡した。


「どうしました?」

「シーッ……何か聞こえた気がする」


 緊張が伝わり、カーネリアも頭部を動かす。水色の髪が揺れる音に混じって、ピカピカに磨かれたタイルから、確かに何かの音が聞こえた。


 ぺたたっ……ぺたたっ……


 足音がする。何かが動く足音が。だけどそれは、とびっきり妙な足音だった。

 二足歩行や四足脚の動物なら『ペタペタ』だろうし

 もっと小さい小動物なら『タッタッタッ』て具合に、素早くてリズミカルな筈。

 大型の動物なら一つの足音に重厚感があるし

 蛇や芋虫みたいに、床を引きずってるなら『ズルズル』って音のはずだ。


「何だ……?」


 さっぱり正体が分かんねぇ。俺は未知への恐怖から、物音を立てないようにテーブルの下へ潜る。カーネリアも姿を消して、慎重に何かの様子を探った。


 ぺたたたっ……ぺたたたっ……


 何なんだこの足音は? 姿が見えないだけあって、滅茶苦茶気味が悪い。視界の悪い机の下でも、音が近付いてくることははっきりした。

 やっぱり全滅していたなかった。見回りの魔物が残っていたのだ。エイトの騎士剣をアイテムボックスから取り出し、いつでも戦えるように準備する。相手の特性が分からない以上、出来れば奇襲一発で仕留めたい。すっかりやる気になっていた俺は……その声を聞いて驚いた。


「研究……研究だ……実験を、解剖を、解析を、開発を……進めるのだ。進めるのだ。それが世界の未来のため……」


 若い男の声がする。所どころ呂律ろれつが怪しいが、確かに人の言葉を話している。まさか研究者マーヴェルか? 迷った俺の耳に届いたのは、複数の足音を独りで生じさせる、異形の姿だった。


 ――魔物に分類するなら『多脚型』だけど……量産型が六本脚に対して、ちらっと見えた足の数は十本はある。蜘蛛やら蟹やらを思わせる足の数で、研究所内を無数の足で徘徊している……それが『ぺたたたっ』という、奇妙な足音を発生させていたのだ。

 胴体にいくつもの頭部も見えた。こっちも量産型と比べると、頭の数が過密な感じがする。けれど目玉や鼻、耳はそぎ落とされていて、口だけがだらしなく舌を垂らしていた。


 両腕も改造されてやがる。肘の所から先が、細い触手状にうねうねと波打っていて……それぞれが独立して薬瓶やペン、記帳用の用紙をしっかりと握りしめている……思わず奥まで引っ込んじまった。


(な、な、何だよあれ……!?)


 身長は二メートルはなさそうだけど……誰がどう見たって魔物だ。なのにその魔物の頭部から……人間の頭が生えていて、その口から言葉をぶつぶつ喋ってるってのはどういう事だ? あからさまな異形でも、これじゃあ倒していいものか考えちまう。魔物は言葉を喋らないが、アレの見た目は化け物としか……


「時空振動……この付近? 痕跡有り……侵入者……?」

「!?」


 やばい!? コイツ俺達の侵入に気づいてやがる! 言葉を喋れるだけあって、人間の知性を残してるのか? 握った剣に力を込め、テーブルの下から化け物をしっかりと覗き込む。

 所どころ残った布切れは白く、実験用の白衣を思わせる。両腕から伸びた触手を高々と掲げ、先端に握られた明るい茶色の金属棒を、まるで打楽器のバチのように交差させた。

 奇妙な音と波動が、周辺に広がる。なんだ? 攻撃か? それともエコーみたいに、反響でこっちの位置を探る気だろうか? 警戒を続ける俺のすぐ目の前で……小さな悲鳴が聞こえた。


「……っぅっ!?」

「えっ!?」


 悲鳴を上げて、実体化するカーネリア。水色の髪と紫色の着衣を揺らし、片方の角を押さえて、急な頭痛に呻くように膝をついてしまう。化け物研究者は、ぎょろりとその瞳を向けた。生身の眼球なのに、ぞっとするほど生気がない。淡々と事実を述べるように、触手と一緒にカーネリアを見つめる。


「侵入者……魔物化した王族?」

「何を言って……」

「訂正、魔族化した王族。超高濃度汚染への耐性個体? リオネッタ騎士団長の情報と合致……結論は、極めて貴重な検体」


 ぺたたたっ……ぺたたたっ……

 淡々と語りながら、ソイツは触手をうねらせる。俺も野郎の最後の一言で躊躇を捨てれた。

 判断に困ったけど――どっちにしても『カーネリアを検体扱い』した時点で、お前は俺の敵だ! 


「ふざけんじゃねぇぞクソ野郎!!」


 一息にまくし立てて、俺は隠れていたテーブルを持ちあげる。色々と物品が乗っていたけど、知ったこっちゃない。怪しげな薬やら標本ごと、俺は化け物目がけてブン投げてやった。

 そのままエイトさんの騎士剣を抜き、化け物の胴体目がけて切りかかる。しかし信じられない事に、剣とテーブルが直撃するタイミングで……その化け物は天井に触手を伸ばして張り付きやがったのだ。


「侵入者……二体目を発見。貴重な検体、捕獲を試みる」

「あぁ!? やってみろや!!」


 天井に触手を絡めて、大量の足と頭部を向ける怪物。

 眼鏡をかけた痩せこけた顔だけが、元の人間の名残に見えた。

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