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すべてが終わったそのあとで  作者: 北田 龍一
転生したら世界が終わってる。俺が来た時にはもう遅い件について
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塔を目指して森へ

城下町の化け物を蹴散らた所で、俺は周りに声をかけた、反応は微妙な感じだけど、その時に俺は……化け物どもはきっと、元々は人間だったと察しちまった。心が折れかけた時に……無傷で輝く白い塔が見えた。

 俺は走った。遠目に見える白い塔に向かって。

 デカい建造物だからか、思ったよりずっと距離がある。壊れちまった城下町を駆け抜けて、塔へ一歩ずつ進んでいった。

 城から遠ざかり、町もどんどん離れていく。一軒一軒の間も広がっていったけど……でも、化け物が出て来る頻度だけは変わらねぇ。種類は増えたけどな。

 それで気が楽になる訳じゃねぇ。化け物の種類が元人間から、別の動物に変わっただけさ。ドロドロに溶けた毛皮の狼に、皮膚の全身から棘を生やした豚、頭をカチコチの鉱石に変えた馬、羽を毒針にして飛ばす鶏……


 本当に気分が悪い。何が最悪かって、絶妙に元の動物が想像できちまう所だよ。きっと平和な暮らしがあったのだろうに……俺はそれを、薙ぎ払い進み続ける。そうする事しか、俺には出来ない。

 化け物になっちまった日常を踏み超えて、俺はそびえ立つ白い塔を目ざす。多分独立した建物なんだろう。塔に近づくほど町が遠ざかっていく。不安は強くなっていくけれど、それでも歩き続けるしかない。


 見えてきたのは森だ。うっそうと生い茂る暗い森。遠巻きに見えていた塔はずっと大きくなった。良かった。めちゃくちゃ距離がある訳じゃなさそうだ。多分森を抜けた先か、森の中心に塔の根元がある。そうに違いない。

 希望的観測もほどがあるが、うるせぇこっちは必死なんだ。暗い所で、絶望しっぱなしよりマシだろう。森に足を踏み入れると、今度は『元』森の動物たちがお出迎えだ。

 リスが首筋を狙って、前歯をむき出しにし

 巨大なクモが毒液をまき散らす

 ウネウネと触手の生えたモグラが、地面から奇襲してきたり

 巨大なセミが爆音を立てて、俺の鼓膜と脳を破壊しようとしてくる。

 そして何よりやべぇのは、細い木が根っこを波打たせて、歩きながら枝や蔓で攻撃してくる所だ。


「植物まで化け物になってるのかよ……!?」


 俺の身に危険はねぇが、絶望感を追加しないでほしい。幸いチートパワーで上限いっぱいの筋力で殴れば、カッチカチに固まった樹木も、一撃で粉みじんに出来る。

 問題は数の暴力が凄まじい事で、一匹見つけたら三十匹はいるんじゃないか? 視界一杯に木の化け物が群がり、時々腕や足に絡みついてくる。


「触るな気持ち悪い!!」


 触手とたわむれる趣味はねぇ! 鳥肌の生えた左手が、伸びた木の根をプチプチと引きちぎる。千切った部位を投げつけて返してやれば、幹に穴を空けて動きを止めた。

 けれどやっぱりビビらねぇ。俺にとっては謎の雑魚軍団だけど、蠢く森が侵入者を殺しにかかる光景は……B級ホラー映画になりそうな勢いだ。

 俺が体を動かすたびに、植物モンスターが爆散する。どれだけ殺しても殺しても、全然数が減る気がしねぇ。逃げた方がいいのかもしれないけど、こんな数を塔に引き連れていくのも嫌だ。

 殲滅するしかないのか? ためらいがちに覚悟を決めた俺は、ボコボコに怪物植物を破壊していく。こんな世界観なら火炎放射器が欲しくなるぜ。森も化け物も、全て燃やし尽くしてしまいたいよ。

 余計な事考える余裕はあるらしい。痛みも苦しみも疲れもあるけど、実際の所。全く体が傷つかない。無敵の勇者様の殲滅戦だ。死に晒せ雑魚ども!


 そんな気分になれるか馬鹿野郎。

 守るべき相手も、語り合う相手もいない。右も左も敵だらけ、びっくりするほどディストピア。孤立無援は慣れてるけどさ、ここまで絶望的なのは初めてだよ。

 それでも……歩き続けるしかない。

 敵を蹴散らして前へ、前へ。ちょっとずつでも、塔は大きくなっていく。見れば見る程綺麗な塔は、明らかに他の建物とは違う。風化してないんだ。壊れてる様子もない。可能性は、あの塔の根元に残されているんだ……!

 本当に存在するかどうかじゃない。そこに何かあるかもしれない。それだけで俺は前に進んだ。ないかもしれない、と囁く絶望的な声を無視して、俺は化け物の森を進む。

 途中から面倒になって、俺は前に進むことを優先し始めた。よくよく考えたら絡まれ続けても、俺にとっては脅威じゃない。何か人の気配がした時点で、反転して殲滅してやればいいのだ。もう一つこいつらに対して、気が付いた習性もあるしな。


 多分だけど……こいつらには、縄張り意識があると思う。

 城を出た時だってそうだ。城の外には巨大ガイコツは出てこなかったし、城下町の連中もむやみに入ることが無い。木の化け物どもだって、森から出てきちゃいなかった。

 だから……塔の周辺なら、こいつらの縄張りの外である可能性が高い。こんな化け物どもがうろついていたら、あの塔は倒されていたり、オンボロになっているに違いない。希望的観測とは思うけど、根拠や勝算はゼロじゃなかった。

 息を切らしてお化けの木々をなぎ倒し、どれだけ進んだだろうか……ある時ぴたりと、化け物が追撃しなくなった。予想通り、縄張りの外に入ったらしい。急に興味を失ったかのように、ゆっくりと森の中へ消えていく。


 光の塔は、すぐそばまで来ている。もう少しで、新しい何かを見つけられる。

 期待した俺を出迎えたのは――町で突然消え去った、あの骸骨の騎士だった。

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