表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すべてが終わったそのあとで  作者: 北田 龍一
空気がクッソ悪いけど、研究所が生きてるのを願うしか……

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/77

隠された研究成果

慎重に慎重を重ねて研究所内に入ったんだけど……瘴気研究所内は静かすぎた。中は割かし綺麗なんだが、魔物一匹出て来やしない。見つかるのも旧境界線の町にあった、旧研究所の内容と被っているし、研究者マーヴェルの姿もない。このまま骨折り損は嫌だと、念入りに探す俺たち。何度も探すと階段の脇の薬棚に、引きずった跡が見つかった。

 痕跡を見つけた時、俺は小躍りしたくなったね。

 なーんにも成果得られず帰りそうになった所で、遂に手がかりへの入口を見つけたんだからそりゃそうよ。俺が指摘したその場所を見て、カーネリアの顔も一気に明るくなる。手ぶらで帰りたくないのは、彼女も同じだ。灰色の瞳を輝かせて頷く。


「『旧研究所』と隠し方が似てますね」

「作ってる人が同じだからなぁ……」


『旧境界線の町』にあった研究室は、民家の本棚の裏に隠されていた。作った奴のセンスは、簡単には変わらないって事なんだろう。以前よりずっと重い薬棚を、傷跡に沿ってゆっくりと動かす。もう一度俺達を出迎えたのも、旧研究所と同じ扉だ。


「それじゃあ、私が開けて来ますね」

「周囲に気を付けてな」

「はい!」


 青白い光を発して、幽霊になるカーネリア。前の時より時間がかかったのは、しっかりと警戒していたからだろう。しばらくして開く扉と、無事な彼女が俺を迎えてくれる。水色の髪の脇を通って、秘密の隠し研究所へと足を踏み入れた。

 下り坂の階段……どうやらそのまま地下に研究所があるらしい。なるほど隠し通路の位置は、下階層行きの階段と同じだ。そしてもう一つ驚いたのは……こっちの研究所は、光源が生きている点だった。


 地上階の三つは、綺麗だけど完全に設備が死んでいた。標本は古いし明かりもない。時間が止まっているような印象があったけど、こっちはやや赤目の明かりがついている。何かよくわからない蒸気の音もするし、まだ施設が動いている、生きていると実感できた。


「何かありそうですね……」

「この地下が本命っぽいな。上の研究所は……なんだったんだ?」

「ダミーじゃないでしょうか? 本当の研究所を隠すための」

「手の込んだ仕掛けだぜ」


 面倒なことをと思いつつ、研究者マーヴェルならやりそうだ。これもこれで悪辣な罠の一つと言えなくもない。本命の研究所へ、俺達は抜き足差し足忍び足で、恐ろしく遅く慎重な歩みで進んでいく。

 地下階段から、地下研究所への入口。普通の木の扉を俺はそーっと開いた。


 生臭い臭いがした。血と臓物の臭い。旧研究所の中で漂っていたのと似ているが、腐った感じが薄い。言ってしまうなら『新鮮な』臭いがする。反射的に俺達は、口と鼻を塞いだ。

 こしゅーっ……こしゅーっ……

 仕組みなんて知りたくもないが、何かが動いている気配がする。人が動いてる感じはないが、自動で動く装置が生きていた。


「これは……うぇ……」

「は、ははは……やり過ぎだろ……」


 いくつも並んだ、大きなガラス瓶。

 小型のネズミサイズから、人間より二回り以上大きい動物サイズまで揃ってやがる。

 何がマズイってその中に……魔物化した生き物が収められているところだろう。透明な液体に漬けられたソレは、生きているのか死んでいるのかは分からない。


 ……ここだけ世界観が違うんだか? ゾンビ映画の悪の研究所めいている。研究者マーヴェルの素性を知らなければ、一発で誤解されかねない。いや……だからこそ入口を隠したのだろうか? 華やかな研究の裏で、犠牲が生まれるのも仕方ない事なのか……?


「とりあえず……目についた物は拾っておこう」


 机や試験管、薬瓶を適当に拾わせていただく。稼働している施設を見て一瞬考えたけど……それでもやはり、誰も出てこない事から「マーヴェルはもう生きていない」と考えるしかない。顔色の悪いカーネリアは、頷く余裕すらない。震える唇が、奥の方にある巨大なガラスのシリンダーを指差した。


「クジョウさん……あ、あれ……」

「こいつは……外にいた魔物じゃないか……」


 首なし筋肉ダルマ・強酸性昆虫眼球・立体機動ワンコ・多脚型胴体顔面人間・有毒ガス植物……

 冒涜的な魔物たちは、シリンダーの中で『造られて』いた。

 製造を終えた魔物が、上の方へと押し上げられる。地上階……つまり外のどこかに放出され、恐らくはこの研究所を守る兵隊として、またうろつくのだろう。


 多脚型は、腕に有毒ガス植物の苗を持って運ばれていく。目立った攻撃をしてこなかったが、こいつが植林してやがったのか。沢山頭もついているし、賢い奴だったりするのかな……考えたくない。

 そして空になったシリンダーに、下の方からドロドロの肉塊が注がれていく。ミンチ肉を注いで、わざわざ魔物を作っているのか……


「こんな……こんなのが研究成果だってのかよ」

「………………」


 冗談じゃない。人工的な魔物生産のために協力する気はないぞ。護衛の兵隊は必要とは思うけど、あんたは……瘴気の謎を解く研究をしていたんじゃないのか? マット・サイエンティストなのは知ってたさ。でもアンタは……アンタは、この世界をどうにかするために研究していたんだろ? 冒涜的な内容も、世界を救うためって理由なら、まだ納得できたけどさ……こんなことのために、研究を続けてたなんてのは……

 隠された研究所、そこで広がる魔物生産施設に失望を隠せない俺達。

 自動で動き続ける装置の脇で……研究所を蠢く『何か』の気配を俺は感じ取っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ