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すべてが終わったそのあとで  作者: 北田 龍一
空気がクッソ悪いけど、研究所が生きてるのを願うしか……

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静かすぎる研究所

左手を負傷してしまったカーネリアを、慌てて俺は手当てした。どうやらガス系の攻撃は、亜空間に隠れても食らっちまうらしい。塔の物品も併用しつつ手当てし、改めて注意深く『瘴気研究所』に近寄った。

 カーネリアの痛みが治まったところで、改めて俺たちは『瘴気研究所』へ近付いた。

 ひとまず警備の兵士は打ち止めらしい。接近しても新手の気配はなかった。罠っぽいのはいくつかあったけど、最大限警戒していた俺たちはちゃんと回避する。今まではさほど危険を感じなかった……いやそうでもないけど、でも心のどこかで『俺もカーネリアも大丈夫』って感覚があった。超強力な力なり魔法なり、塔の道具なりがあるから、何とかなるさと慢心が生まれていた。


 ここから先は温い覚悟で進めば、普通に死んでしまうかもしれない。そういう意味じゃ、研究所内を調べる前に、痛い目に合ったのはちょうど良かった。俺たちは今までにない緊張感で、真っ白な建物の正面入り口に進む。鉄の門で閉じられた大きな入口は、僅かにだが開いている……


「……俺が調べる。下がってて」

「はい!」


 今までなら、カーネリアを偵察に出していたけど……もう絶対に安全ではないと知った以上、やみくもに彼女には頼めない。左手に巻かれた布に目がいき、自然と俺はそう思った。

 鉄だろうが木製だろうが、チートパワー持ちの俺なら開ける事は簡単だ。だがこの僅かに開いてるってのが曲者で……何かの仕掛けや罠なんじゃないかって疑っちまう。ゆっくり慎重に鉄扉を動かすと、思ったより手に伝わる感触は滑らかな感じがした。


 軋むような嫌な音もしない。放置され錆びたりしていない。手入れがされてるのか、良く使われているから錆びが付きにくいのか……ともかく、使われている感触を確かめた俺は、まず片方の扉を限界まで引っ張った。

 けたたましい警報が鳴る事もなく、一見研究所は死んでいるようにも見える。忍び足で踏み入れても、特に危険な反応は見られない。しばらく様子見を終えてから、俺はカーネリアを手招きした。


「罠は……なさそうですね」

「でも暗いな……頼める?」


 彼女の手当てを終えた後、この後必要になる道具を出してもらっていた。動力無限の不思議なランプを取り出し、静かに彼女が掲げる。暗闇が明かりに照らされ、薄暗い研究所内部に視界が通るようになった。


 やはり中は綺麗だ。誰かに荒らされたような跡もない。放置された旧研究所を見ている俺たちは、その違いをはっきりと認識した。

 入口に小さな受付のようなカウンターがある。病院やホテルって言ってしまうと大げさだけど、雰囲気はそんな感じだ。受付のねーちゃんは当然いないが、案内板が残っている。


「三階建てみたいだ。地図もないか?」

「こっちにあります。結構広いですね……」


 ちょいとばかりゲンナリした。一階の広さだけでもかなりある。全部探すのは骨が折れるけど……歓迎がないなら、しらみつぶしに探すしかない。

 ここに入る前に、大まかな流れをカーネリアと確認していた。入口に入った時点で、何らかのアクションがなかった場合……マーヴェルは既に死んでる前提で、ここを調べようと決めていた。


 だってそうだろ? 研究者マーヴェルはキチガイ学者だが、同時に間違いなく有能で真剣な学者だ。自分の研究成果の詰まった本拠地に、誰かが入って無反応はありえない。出て行けと騒ぐなり、要件は何だと質問を飛ばしてくるのが普通だ。

 それがないってことは……もう死んじまったのだろう。


「研究者マーヴェル……生き残ってる可能性もワンチャンあったが……」

「残念ですけど、諦めた方がいいでしょう……」

「そうだな」


 少しばかり残念だけど、それならそれでやる事がある。

 残された研究成果を拾い集め、何らかのヒントを得なければ。そうでなくちゃ、ここまで俺達が旅してきたことが虚しくなっちまう。手ぶらでは帰れない。せめてマーヴェルが残したものを、一つでも回収せねば甲斐がない。


 二人で歩調を合わせ、一切の明かりの失せた研究所内部を探して回る。もしかしたら潜んだ魔物がいるかもしれない。俺が先頭で、いつもより執拗なクリアリングで研究所内部を探す。しかし……ここで妙な事が起きた。

 いないのだ。一匹たりとも魔物が。

 あれだけ周りの警備が厳しかったのに、肝心の中の警備兵がいない。外での戦闘は激しかったけど、中の兵隊まで全部使うか普通? 魔物は恐怖を感じないし、敵を見つけたら襲ってくるもんだけど……この研究所の魔物たちは一味違う。見張りの兵隊まで全部出ていくとは思えない。


 それどころか、トラップさえ一つもない。

 悪辣な敵配置から、むしろ俺はこっちを警戒していたんだが……いきなり扉が閉まって閉じ込められるとか、天井裏から魔物が降ってくるとか……いくらでも仕掛けられそうなもんだけどな。

 そして残念なことに……資料らしい資料もあまり残っていない。


 一応、薬瓶や標本は置かれているけど、意味を俺たちはわからないからなぁ……研究メモやノートも拾えたけど、その内容は『旧研究所』の内容と被っている。

 オイオイちょっと待ってくれよ。ここまで苦労したのに冗談じゃない。もう一度地上三フロアを探し回るけど、開かない扉や秘密の鍵も見つからない。俺だけじゃなくカーネリアもガッカリだ。入口の受付に戻り、俺達はもう一度地図とにらめっこする。


「これで終わり……?」

「んな訳ない。魔物どもが警備していて、劣化した様子だってないんだ。絶対……絶対何かあるはず……」


 それは願望か真実か、いまいち判別がつかなかったけど……もう一度俺たちは研究所内を探す。

 何も見つけられなかったと思ったその時……一階から二階への階段、その行き止まりにある薬棚に目が行く。

 ――床下に、何か引きずったような跡が残っていた。

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