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すべてが終わったそのあとで  作者: 北田 龍一
空気がクッソ悪いけど、研究所が生きてるのを願うしか……

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瘴気研究所の素敵な警備員

カーネリアは……自分自身の心の歪さを語る。確かに外との関係性が薄いのに、妙にこの世界を救うことに拘っている。まさか塔が、自分を操っているのではないだろうか……? そんな不安に駆られるカーネリアに、クッソ情けない言い分をぶちまける俺。笑われちまったけど、多少は気持ちが落ち着いたみたいだから良しとしよう。うん。

 長い長い道のりを経て、ようやく俺たちは『瘴気研究所』へと辿り着くことができた。

 周辺は背の高く、禍々しく捩れて生える木が、暗く鬱蒼と生い茂っている。あからさまに魔界……って空気の中に、白く塗装されたデカい建造物がある。森の中に隠れているのに、肝心の研究所はバリバリに目立っていた。

 隠す気があるのかないのか、判断に迷うところだ。そして判断に迷う要素はもう一つある。この施設が無事かどうか、マーヴェルが生きているかどうかも悩みどころだ。


「カーネリア……これ、どう思う?」

「施設は……綺麗ですけど……」


 確かに施設は割かし綺麗だ。今まで見てきたどんな建物より、塗装も周辺も立派なもので、警備兵だって見るからに多い。問題はその警備兵が、禍々しい姿のキモい魔物って事だろう。

 元魔族が統率しているのか、それともマーヴェルの素敵なお薬が効いてるのかは知らないが……『旧境界線の町』と比べても、魔物たちは綺麗に隊列を組んで周辺を見て回っている。ちゃんと『警備』する魔物たちは、露骨な異形な事が不気味で仕方なかった。


 無数の人の腕を背中から生やした魔物犬。

 腹部と胸部に、ブドウのように人の頭部を生やした、腰から六本の足を生やして歩く人型。

 トンボの目みたいな球体が、よくわからん原理でふわふわ浮いていたり。

 ボン・ボン・ボンと全身が過剰な筋肉で覆われた、二メートル超えのモリモリマッチョメンは首がない。


「見るからにヤベー奴らが徘徊してるな……」


 正気度チェック不可避だろコレ。今までの経験のおかげか、そんなに動揺はしてないけどさ……なんて言えばいいんだ? 造形が冒涜的過ぎる。

 そう……気になる所は『造形』なんだよな。

 今までの魔物どもは、元々の生物の形がある程度予測できるっつか……ちょっと化けたぐらいだった。凶暴になって攻撃のための部位が増えてたりしたけど、過剰にゴテゴテと部位が生えそろったり、逆に極端に部位が減っている事もない。


 でもこの魔物どもは何か違う。まるで……センスのない芸術家が、独創的と称して滅茶苦茶に作ったような……化け物は化け物なんだけど、誰かの意志で捻じ曲げられたような、そんな感じがする。肌感覚だから何とも言えないが……


「何にせよ……俺のやる事は同じ、でいいよな? 一応話しかけてはみるが……」

「アレに話が通じるのでしょうか……?」

「期待はしていないけど……万が一向こうがまともなのに、こっちが魔物と勘違いされるのは避けたい。魔物は基本、相手と話すことないし……まともな判断力が残っているなら、それで通じるはずだ」


 俺達の経験上、魔物は他人と言葉を交わす事はなかった。『渓谷の砦』にいた鎧たちは例外だけど、そもそも魔物化とは違う状態だったしな。

 何にせよ……相手にまともな理性が残っているなら、言葉を話せるだけで証明できると思う。それで慣れ合えるかは別の話だが、少なくても研究者が残っていれば、訪問者を悪くは思わないだろう。ちらりと後ろに目線をやると、いつも通り彼女は亜空間に隠れた。アイ・コンタクトも慣れたもんだ。


 さぁ、もうひと踏ん張りだ。俺は堂々と正面から歩いていく。話し合う気でいるなら、変にコソコソして誤解されるよりは良い。無敵の身体を正面から晒し、気持ちの悪い魔物の群がる、純白の研究所へと歩んでいく。

 そして――俺を歓迎したのは、凶暴さ三倍の魔物どもだった。


 まず浮かんだトンボの目玉が、ぎょろりとこっちを見た気がする。目玉だけの部位で、眼球もないのに『見られた』って感じた。本当に妙な話だが。

 すると、キーンと高いモスキート音がして、思わず俺は頭を押さえた。なんでか知らんが鳥肌が止まらず、危険な予感がひしひしと伝わってきやがる。程なくして地響きめいた遠吠えが聞こえると、異形の造形をした魔物がわらわらと出現して取り囲んだ。


「あー……その、俺は敵意がある訳じゃ……」


 んな事言ってる場合か阿呆。話が通じる手合いじゃねぇ。誰がどう見ても殺気ビンビンだろうが。平和な時代なんてとっくに終わっちまってるんだ。問答無用と大兵力で、向こうは一斉に飛びかかってきやがった。

 まず先陣を切りますのは、背中に腕を生やしたワンワンでございます。地面を蹴っていたと思いきや、ちょいと高めに跳躍したところで、背中の手が周辺の木の枝に伸びた。器用なサルが樹海の中を器用に渡って行くような動きで、俺の構えをすり抜けで首筋に牙を立てる。


「ぐっ……!?」


 チートが無ければ即死だった……冗談抜きでそう思う。もし普通の人間だったら、今の一撃で首を千切られていたんじゃないか? チート防御越しにも傷かつき、しかも浅い傷の当たり所が悪かったのか、妙に勢いよく出血した。


 ぐらりと揺れる視界。貧血でふらつく感覚が近いけど、実際身体から血が出て行っているのだから、そりゃそうなりますわな。ぐらりと膝をつく俺に隙ありと、首なし筋肉ダルマが体当たりを仕掛けた。メキメキと森を引き倒しながら、重トラックめいた馬力が俺に迫る。

 悪いな、転生トラックはもう間に合ってるんだ。両手を突き出し、貧血気味の頭に血が上っていく。傷口はもう塞がった。まだ本調子じゃないが、俺のパワーは健在だぞ……!


「おるるぅあぁあぁっ!!」


 明らかに体格差のある俺が、真正面から筋肉を押し返す。そのまま両手で張り手をブチ込み、化け物をこの世から退場させた。質量たっぷりなおかげか、後ろに控えてた魔物も何人か巻き添えになった。

 だがしかし、怯えたりしないのも魔物の習性。まだまだ魔物たちはわんさかいる。一筋縄ではいかない予感に、俺の肌に汗がにじんでいた。

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