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すべてが終わったそのあとで  作者: 北田 龍一
空気がクッソ悪いけど、研究所が生きてるのを願うしか……

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マーヴェルについて

丸一日休んだ俺たちは、旧境界線の町を出る前に……俺が荒らしちまった街中を眺める。俺の地雷を踏み抜いた、女魔族の記録はまだ読む気になれないけど……でも、ただ朽ちさせたくない。そう思った俺は、遺品の銀メダルを拾い上げた。

『旧境界線の町』を出た後、俺たちの関係は微妙な感じになっていた。

 微妙ってのはその……本当に表現に困る距離感なもんだから、こう言い現わすしかない。ドン引きされたり、軽蔑の眼差しじゃないのは救いだけど、けれども全く思うところがないかって言うと、そうでもない……みたいな?


 とはいえ、目標地点の『瘴気研究所』まではあと少し。現れる魔物の質が上がったところは不安要素ではあるけれど……取りあえず俺の攻撃が当たれば、一発で沈むことには変わらない。

 ただ、その一発が簡単に当たらない環境になった。やみくもに飛び込んでくるんじゃなくて、俺が構えると回避してくるんだよな。そうなると一回の戦闘に取られる時間が伸びて、進む速度は落ちていく。今日も今日とて魔物だらけの道を進んだけど、やっぱり予定よりは進めていない。


「クジョウさん。そろそろ日が……」

「ありゃ? もうそんな時間? そんな距離ないはずなのに、やたら遠く感じるな……」

「しょうがないですよ。魔物が強くなってますし。今日はこの辺で休みましょう」

「…………そうするか」


 本当はもっと進みたいけれど、焦ってもしょうがない。最初は強行軍気味で良いと思ってた俺だけど、カーネリアが止めた方がいいと俺を引き留めた。

『塔』の中にあった道具を使えば、夜の闇を照らすことも難しくない。とっとと進むことも出来たけど、魔物が手ごわくなってきているのだから、今までと同じペースを維持するのは危険だと彼女は言った。『瘴気研究所』の様子もさっぱりな以上、そこをゴールのつもりで、進まない方が良いとも。


「研究者のマーヴェルは……こんな魔物の群れに囲まれて平気なのかな……」


 結界を張り終えたところで、俺がぼそりと口にする。そりゃ一般人と比べれば、研究熱心で、色々と撃退用の道具も作れるのだろうけど……あんまりにも魔物が多いもんだから不安になる。対面の倒木に紫の衣服をなびかせ、彼女も少しばかり不安を漏らした。


「マーヴェルさんもそうですけど……研究所そのものも心配です。魔物に壊さたり、見つかってたら……」

「あー……荒らされちまうよなぁ……一応、旧研究所は大丈夫だったけど……」


 入口を本棚の裏に隠す、古典的な方法だったけど……放棄された旧研究所は、ほとんど荒らされていなかった。お陰で知れたこともあるけど、本腰を入れた施設なら目立っている可能性もある。行ってみなければ分からないけど、こんな不安が俺たちの胸にあった。

 ――もし、研究所について、何一つ得る物がなかったら……


 そうなったら、完全に俺たちはお手上げだ。

 生きる目的や目標もなしに、人間は生きていけない。とりあえずは生きて行けるけれど、ただ生きているだけとしか言えなくなっちまう。ましてや辛い環境であるなら、それがどんなに馬鹿馬鹿しい希望であろうとも……必要なんだよ。人間ってやつには。


 そして俺には、もう一つ不安な事がある。

 よしんば研究所が無事だったとして、今度はカーネリアに対する、研究者マーヴェルの態度も考え物だ。赤ん坊の死体を実験に使った野郎なら、彼女を……いや下手したら俺も研究の実験台にしかねない。『渓谷の砦』で少し話したことだけど、改めてはっきりさせた方がいいだろう。そう考えた俺は、真剣な目つきで切り出した。


「研究所が……マーヴェル含め無事だったら、どうする?」

「どうって……行ってみてから考えるしか……」

「それはそうだけどさ、ある程度次の事は考えておきたい。

 一番ベストなのは――治療薬やら解毒薬が完成していて『自分の代わりに薬を世界に配ってくれ』って展開だと思う。これなら俺は喜んで協力するよ。世界も徐々に復興できるし文句ない。大量の物を運ぶのに、俺達以上の適任はいないだろうから」


 現に無数の物資を軽々運んでいる。薬がかさばったり、何か特殊な保存方法があろうとも、容器ごとチートで運んでしまえば、何の問題も起きないだろう。けれどカーネリアは浮かない顔だ。当然だよな。俺だってこれは言ってみただけだし。


「言いずらいですけど……それは……」

「分かってる分かってる。こんな都合の良い話は、俺も本気では言ってない。ここまで理想的な話じゃないにしろ、マーヴェルが無事で研究を続けていて『薬の材料が足りないから取って来てくれ』とかでも全然良い。そのぐらいの事ならお安い御用だ。問題はその材料に、俺達を使いたいって言い出した時だよ」


 灰色の瞳を伏せて、カーネリアも唇を曲げてしまう。彼女も流石に考えているようだ。

 旧研究所に残された資料や、他の人達が残した証言を合わせると……研究者のマーヴェルは間違いなくマット・サイエンティストに分類されるだろう。成果さえ出せれば、何だってやるタイプと考えて間違いない。


 となれば……俺たち二人は、マーヴェルにとって格好の検体だ。俺は彼の作った召喚魔法で、彼女は厄災の予言された伝説の塔で……何にせよ瘴気の影響を全く受けていない。大真面目に俺達の事を解剖しかねないとさえ思える。

 俺の言いたい事は、当然カーネリアにも伝わっている。しかし中々言葉にできないのか、頭を振ったりして、まごつくばかりだ。

 ……俺の結論はもう決まっている。

 更に嫌われるのを覚悟したうえで、俺は俺の意志を先に語り始めた。

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