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すべてが終わったそのあとで  作者: 北田 龍一
どんどん状況の悪さが分かってきちまったけど、止まるわけにはいかない……

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何の慰めにもならなくとも

俺は……すべて自分のことを吐き終えて、カーネリアに馬鹿にされるのか、それともトンチンカンなことになるのかと思っていた。でも彼女は……仕方なかったって、慰めてくれた。……悪い、これ以上は勘弁してくれ。

 すっかり毒気が抜けた俺は、そのままずっとグズっちまってどうにもならなかった。

 もう日が落ちて、とてもじゃないが移動する気も起きない。幸いこの教会は綺麗なままだし、魔物も無残に殺した後だから、結界さえ張れば安全だ。

 何をどう話したのとかは、ちょっとぼんやりしていて覚えていない。でも……カーネリアは俺を捨てて、一人でも進む気にはならないらしい。


 旅にも慣れて来てるし、便利な道具と彼女の魔法なら、不可能じゃないと思う。俺の力が必要だからとか、色々俺は勝手な想像を巡らせていた。

 ……何で素直に、良かったって思えないかって? そりゃ失敗者って烙印の下、散々痛めつけられてるやつってのは、性根がひん曲がってるに決まってら。曲がってるから失敗したのか、失敗してから曲がったのかは知らんけどな。


 そんなことのあった翌日……不思議と目覚めはすっきりしていた。

 暗い気分が消えたわけじゃない。過去にケリを付けれたわけでもない。

 でも……自分の腹の中で渦を巻いていたモンをゲロったおかげか、体調やら気分は悪くない。同じように喚き散らして壊した時と、やってる事変わらないはずなんだがな。

 小部屋から起きた俺は、教会正面の広間に向かう。先に起きていたカーネリアが、日の光に照らされていた。何か物倦ものうげな表情だ……ちきしょう綺麗だな。


「……おはよ。昨日は、その……」


 なんてこった、言葉がつまっちまう。

 謝ればいいんだろうか、それとも……素直にありがとうでいいのか? ああくそ、なんで今更になって恥ずかしがるんだよ。昨日のは絶対悪く取られたに決まってるのに……

 と、俺の葛藤している間に、カーネリアはぼんやりと目線を上げて……慌てて手に持った大きめの本? を背に隠した。

 なんだなんだ? 隠されると逆に気になるんだけど……朝からなんか微妙な空気だけど、曖昧に、でも怯える様子はなく彼女は笑う。


「……おはようございます。大丈夫ですか?」

「あぁ……まぁ、その、おかげでよく眠れたよ。こっちに来てから、一番良い睡眠だったかも」


 これは本当にそうだった。胸の中身云々もあるけど、この世界に来てからと言うもの、全然心が休まった事がなかった。安全な結界や無敵の身体があっても、心の奥は気を張るもんさ。そんな中で重しを吐かせてくれたのは、本当にありがたい事だと思う。

「良かった」と頷くものの、彼女は隠した本を見せてはくれない。何がマズイのだろうかと尋ねると、その書物の正体を教えてくれた。


「これは……女魔族さんの日誌みたいです。幻術? が使える人だったみたいです」

「………………そっか」

「色々書いてありますけど……今のクジョウさんには……」

「……そうだな」


 俺の地雷を踏みぬいた相手の記録……か。確かに今俺が飲み込むのは、辛いことだろう。

 魔物と化した時点で、意識はほとんどなくなるっぽい。だから戦ったやつとは別人だとも言えるけど、そう簡単に割り切れるなら苦労はしない。

 目を閉じた俺は、すぐにアイテムボックスから彼女の箱を渡して言った。


「時期が来たら……俺にも内容を教えてほしい。それまでは……」

「そう……ですね」


 彼女専用の箱の中に、女魔族の記録を収納する。一通り準備を済ませ、立ち去る前に……俺は思い出したように教会の外へ歩み始めた。彼女は隠れることなく、そっと俺の後ろをついてくる……心配なんだろうな。

 もう魔物の気配は影も形もない。完全に殲滅し尽したのか、俺の暴れっぷりに逃げ出したのかは分からない。でも……この光景を見たら、ほとんどのやつは逃げ出すだろう。

 チートパワー全開で暴れた爪痕が、『旧境界線の町』に無残に刻まれていた。

 劣化度合がマシだったのは、元魔族が手入れしていたんだろう。でもその光景はもう存在しない。目につくような家は悉く倒壊し、気まぐれな破壊神の手によってバラバラに破壊されていた。


「これが……これが、俺がやった事か」


 他に犯人候補は一人もいない。カッとなってやらかした後に、冷えた頭で自分の所業を見つめると「なんて馬鹿な事したんだ」と後悔するけど……俺がこの町でやったことは、一人の人間がやった破壊じゃなかった。その場で見なくちゃ、誰も納得はしないだろう……

 元々酷い物だったけど、さらに無残に壊れちまってる。廃墟と化した町を見据えて、深く俺は溜息を吐いた。ちらりと後ろで見守る女性は、目を合わせた所でそっと目を閉じた。


 これが俺の、力の産物。

 貰い物の力とはいえ、それを感情のままに振るえば、簡単に何もかもを壊せてしまう。それが……ガキめいた癇癪一つでもたらされるんだから、やられる側としては納得いくまい。不幸中の幸いは、相手がまともな意識を失っていた事だろうか。


「……今更偽善だって分かってる。アンタの事を今は、詳しく知る気になれないけど……」


 俺が探していたのは、頭が吹き飛んだ一つの女の死体。

 修道服に身を包んだ、女魔族の亡骸だった。

 既に骨だけになっているけど、身に着けていた物で分かる。そっと腰を下ろして、首に残った銀色のメダルを手に取った。

 ――子の亡骸を失った母親。可哀想だとも同情した相手を、俺はトラウマ一つで無残に壊せちまった。

 この女魔族が何を願い、何を求めて、生きていたのかは分からない。いっそ全部「お前のせいだ」って開き直って、ここに置いて行ってもいい。


 でも、さ。

 そうして置いて行かれる苦しさを、押し付けられる苦しさを知ってる俺は……やっぱり知らんぷりして生きていくことが出来なかった。ひっでぇ偽善者だと笑いたきゃ笑え。それでもやっぱり……誰にも同情されず、見向きもされず、ただ壊れて朽ちていくだけの怨みと悲しみは、俺は痛いほど知っている。

 こんなことは慰めにもならないけど

 俺は遺品の一つとして、女魔族の銀メダルを持って行く。

 ……せめて、無意味に朽ちることがないように。

 俺の中てとどめて置けるようにと、アイテムボックスの奥に、そのメダルをしまい込んだ。

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