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すべてが終わったそのあとで  作者: 北田 龍一
どんどん状況の悪さが分かってきちまったけど、止まるわけにはいかない……

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すべてを吐き終えて

 両親との喧嘩を経ましたが、俺は人生に失敗しましたとさ。何せ……自分自身の夢がなかった。儲けたいとか楽に暮らしたいとか、俗な願望ならいくらでもあるが……俺らしさや望みってのは、ちっともありはしなかった。

 だから失敗した。何もかも捨て鉢になっちまった俺は、両親と俺、さらに両親同士まで険悪な仲になっちまった。

 で、ストレスによっておかしくなった母親によって、穀潰しの俺は首を絞められて死にましたとさ。めでたしめでたし。つまらない話だろ?

 所どころ前世の用語があったもんだから、カーネリアに伝えるのは苦労した。

 話のテンポが悪いったらありゃしないし、俺の馬鹿なもんだからたとえに時間かかるしで、すっかり外は日が落ちている。でも言いたい事、伝えたいことはすべて言葉にして出せたと思う。

 とんでもない重労働だった。主に精神的な意味で。

 自分自身でも見たくないもの

 自分自身でも思い出したくないもの

 それを全て掘り起こしたあげく、相手に伝わるように翻訳するってのは本当に難しい。また何もかもブチ壊しかねない程、荒れる内面を抑えるのには苦労したよ。


「これで全部ですよ。全くつまらない懺悔だったろ?」

「………………」


 こんなのはありふれた事さね。そして分かり切っていた事だ。

 生きていくには、自分の体験から見つけた願望が必要なのに

 俺がやってきたことは、自分の心を深く沈めて殺す事だけ。

 辛く苦しい現実でも、夢か希望か願望があれば生きていける。

 逆にそうした自分の意志を見失ってちゃ、降り積もるのは生きる苦しみだけってこった。


「全部は俺が悪い事さ。結局俺の人生だ。俺の望みを見つけられなかったのは、俺の怠惰って事だろう」

「クジョウさんだけが、悪かったとは思えませんよ」

「いいや、俺が悪いんだとさ。自己責任だよ自己責任。当人の人生なんだから、そこで負った落ち度はぜーんぶ俺のせいなんだってさ」


 ネット掲示板で軽く自分語りしたら、あっという間に叩かれちったよ。後々学習したけれど、あそこにいるのは……誰にも胸の内明かせず弱り切った奴か、そうした弱り切った奴を嬲って遊ぶ奴のどっちかだ。要は自分の話を聞いて欲しい奴と、他人を貶めてスッキリしたい奴の巣窟。あるいは両方の連中なのかなぁ?

 え? そういう相談はネットじゃなくて、リアルの関係でやれば解決って? ハハ、出来ないからネットでやってるんじゃん。馬鹿なの? 俺死んだよ?


「弱った人間を救う奴なんていない。むしろいくら殴っても、いくら暴言吐いても、安全だってわかった途端、牙をむき出しにするんだよ人間は。そして一番弱ったところは、みんなの感情のゴミ箱として、ボロボロにちぎって使い捨ててスッキリするってわけよ。

 どうやら人間なんてどこにもいないみたいだな? そんな気持ちの悪い生き物は、人間とは思えないし……ボロ雑巾扱いされる俺も、きっと人間じゃないんだろう。ま、人間ってのは一番悪い奴一人に、責任を押し付けたがる生き物ですし? へーへー私が悪うございました。生きるのなんてこっちから願い下げだ」


 マシンガンヘイトを垂れ流す俺。王様の耳はロバの耳と言わんばかりだぜ。カーネリアの反応はないけど、知ったことがもう止まらないぜこの情熱ぞうお


「憐れみの異世界転生も、壊れて朽ちた素敵な世界だし? ある意味俺には、この景色がお似合いって事なのかな。思えば行き当たりばったりだったよなぁ……適当に暴れて、適当に逃げ回って、たまたま託された言葉と思いを拾って、今まで君と共に歩いて来た。

 分かるか? 俺は俺の意志で生きた事なんてない。せっかく力を手に入れたってのにさ、俺の願望は空っぽのままなもんだから……エイトさんや君の意志に従ってる。主体性なんてものはないんだ。あるとすれば……俺に安全圏から石投げたやつとか、俺を置いて流れる、当たり前の日常への憎しみぐらいだ。

 だからさ――確かにきっかけは幻覚だけど、あの時荒れ狂った感情は……間違いなく俺の本心だよ。あれが――あれが俺の、憎しみだよ」


 カーネリアは俺に気を使ってくれるけど、あれを本心じゃないって思いたいみたいだけど、俺はその幻像は壊さなくちゃいけない。そんな綺麗事で纏められるのは屈辱の極みだ。町を壊して回ったのも、魔物どもを必要以上に虐殺したのも、俺の本当の感情がやったことだ。変に否定される方が腹立たしい。

 もうとっととどっか行ったのかな? 何も返ってこないし。そりゃそうだ。今まで長いこと、付き合ってくれてありがとうだぜ。変な暴言で潰してこなかっただけ、俺としてはありがたい話――

 ふと、俺の肩に髪が触れた。水色の、女性の長い髪が。

 いきなり背後に現れたカーネリアが、俺を抱きしめて耳元で言う。


「私は……多分全部は分かってません。あなたの人生は……あなただけが悪者だったとは思えません。でもあなたが全く悪くなかったと言えば、多分それも違うんでしょう。

 運がなかったんです。ほんの少しずつ、みんな運がなかったんです。だって誰も……話聞いた限りですけど、誰も悪気があった訳じゃないじゃないですか……クジョウさんの我慢だって、ご両親だって……間違えこそしましたけど、悪気なんでどこにも……」

「その優しさと気遣いが、俺の人生を生んだんだ。何の役にも立たないよ。そんな言葉は」

「それを……悲しむのはダメですか?」


 ――参ったな。

 なんで俺を捨てていかないんだよ、カーネリア。

 こんなおっかない化け物なんて、見捨てちまえばいいじゃないか。今更何したって、取り返せるものなんて何もない。俺の失態も何もかも、やり直せやしないことだろ? 困惑し唇を震わせる俺に、そっと彼女は告げる。


「あなたは、自分の事を悪く言いますけど……もし最初から乱暴する人でしたら、私はクジョウさんを信じなかったと思います。確かにあなたの性格で、あなたは失敗したのでしょうけど……でも私はエイト様を継いでくれたのが、あなたで良かったと思います」

「やめてくれよ……見捨てられたって、文句は言えない事をしただろ」

「そうかもしれません。でも……でも私は今回の事も含めて……仕方がなかったんだと、思います」


 そんな言葉で、何も取り返せるわけじゃない。

 そんな言葉で、現実が変えられるわけじゃない。

 あぁ、ちきしょう。なのになんで俺は……

 背中を丸めて、泣いているんだろうな……

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