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すべてが終わったそのあとで  作者: 北田 龍一
どんどん状況の悪さが分かってきちまったけど、止まるわけにはいかない……

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躁鬱ハイテンションの中で

心の中にある怒り……いいや、憎しみに任せて俺は魔物どもをブチ殺していた。あんまりにも憎しみが強すぎて、カーネリアに窘められても、彼女にさえ矛先を向ける始末。豹変した外道っぷりに失望したのか、彼女は俺の前から消えた。

 遊び相手の消えた『旧境界線の町』を、俺はむしゃくしゃしたまま壊して回る。

 元々朽ちかけている町並みを、完膚なきまでに壊してく。

 怒りと憎しみは収まらないので、家を壊すときは頭の中で悲鳴を作る事を忘れない。知った顔のアイツ、同級生のアイツ、嫌いな有名人のアイツ、そして両親を浮かべながら、ひたすら破壊衝動に身を委ねて遊んでいた。


 もうまともに逆らうやつもいやしない。誰も咎められる事もない。また一つ家が支柱を砕かれて壊れていくのに、俺のイライラは増々高まるばかりだった。

 一番高いテンションは過ぎていた。後はゆっくりと、ダウナーな気分に沈んでいくだけ。例えるならそうだな。吐き出した自分のゲロの臭いを嗅いで、さらに追いゲロしちまう感じが近いのか?


「ああああああぁあぁあぁあぁぁぁぁあっ!!」


 どうして?

 どうしてどうして?

 どうしてどうしてどうしてっ!!

 胸の奥で決壊したダムは、まだまだ治りそうにない。この絶望は、この憎しみは、いつになれば底が尽きるのだろう。あるいは底なんてものはないのかな? 人間ブラックホールが通行中! 今の俺は破壊の化身と化してるし、案外間違ってねぇや、あははははっ!!


 まぁいいや。もうカーネリアも俺を見限ったみたいだし。当たり前だの義昭よしあき君! 一体誰だよ義昭君!!

 もう何だってどうでもいい。疲れた。

 最初から俺には何もない。

 人生の意味とか、自分が自分である理由とか、そんな上等なものは何一つ残っちゃいないんだ。俺を殺した母親の言う通り、俺なんて生まれてこない方が良かったんだ。

 そんな俺の憎しみを駆り立てる存在が、視界に入った。


「ははは……俺を救って下さるんですかぁ!?

『旧境界線の町』にある教会に今日行こうかい!」


 ふはは! 今作った自作のギャグだ! いや早口言葉か? 何だっていい! ヤケクソ懺悔の時間だコラァ!! 情緒不安定な俺は、不良よろしく右足で扉を蹴破る。割と綺麗だったその場所に、残念ながらシスターはいない。多分魔物だったんだな! 悪いなもう殺しちまったよ!! オラ裁けるもんなら裁いてみろや! 出来るわきゃあ、ねぇだろうけどさぁ!!

 躁鬱ハイテンションここに極まれり。一応扉は閉めておく。うーん俺様っていい子! ん? 良い子は最初から扉を蹴破らないって? 見えてるところでいい子ぶる子がいい子です!! まぁ誰も見てないけどさぁ!!


「見てるわけないよな、神様よ? ちゃんと見て下さっているなら、俺なんてのは絶対産まれちゃいけねぇモンな。あ、だから見て見ぬふりするのかな? なーんだ人間と変わんねぇじゃん。俺達人間の不出来な所は、あなた様のダメな所の、鏡だったりするんですかね?」


 天罰が下る? アホ抜かせや。本当にバチが当たるのならこんな考えに至る前に、裁かれてなきゃいけない輩はいくらでもいる。あぁ、ちょっと静かで落ち着いて来たけど、やっぱり腹が立ってきたな。そうだ焼き討ちにしよう。ここを本能寺とする!

 早速道具をカーネリアから取り出して貰い……ってあぁ、そうだった。カーネリアもういないんだった。彼女専用のアイテムボックスを取り出した所で、またしても乾いた笑い声が止まらなくなる。だったらしょうがない、適当に火種をいただくか、ないなら力ずくですべて壊すしかあるめぇ。狂気に取りつかれた全身凶器の恐ろしさ、とくと思い知るが良いわフハハ!


「クジョウさん……」


 声が聞こえた。俺を呼ぶ声だ。

 つい……祭壇の前で俺は固まってしまう。

 なんだよカーネリア。俺はもうてっきり、一人でどっか遠くに行ったもんだと思ってたのに。


「まだ見てたのか? こんなクズ置いてどっか行く気にならないの? あぁそっか。これ返してからじゃないと」


 そういや彼女の私物を持ったままだったわ。そりゃ離れられないでしょうよ。別に容量を喰うわけじゃないし、開けれもしないので返す事にする。さぁ行った行った! 俺は見世物じゃないんだぞ?

 灰色の瞳は、静かに一度だけ箱を見たけど……すぐに俺の方に向いた。憐れみかと思ったけど、彼女は色んな感情に揺れているように見える。


 そりゃ怖いだろうさ。目の前の男はいきなり豹変して暴れ散らかしたあげく、まともに理性が働いていなかったとはいえ、彼女を嬲ろうとするそぶりさえ見せた。普通は見捨てると思うんですけどね。

 でもどうやら、彼女は距離を保ったまま俺を見つめるばかり。あなたも大概人がよろしい事で。だから今日まで、一緒にやってこれたのかもしれないけどな。


「何を……クジョウさんには何が見えてたのですか? 私も目が合ってから、なんだか変なものが見えましたけど……」

「……昔住んでいた俺の部屋と、俺を殺した母親の幻」

「…………え?」

「あれ、言ってなかったっけ? 実は俺、一回死んでるんだよ。その後まぁ、可哀想だからって神様からお慈悲を頂いて、王城の魔法陣でこっちに来たのが俺の正体で――」

「待って……待って下さい! 母親に殺されたって……」

「あぁ、それも全部自己責任で自業自得さね。別れのセリフは素敵だったよ?」


 俺の人生の事なんだから、全部俺の責任さね。まぁ全然納得なんて出来ないけどな。だから早いとこ出て行ってくれ。このままじゃ気持ちよくこの場所を壊せない。

 そっぽ向いて拗ねる俺。ガチクズムーブをかましている最低男から、何故かカーネリアは逃げなかった。


「話して、貰えますか」

「え、やだよ」


 突然の裏切り行為。いや俺がヘタレなだけなんですけどね。カーネリアを……他人ってやつを、信じきれないんですよ。当然カーネリアは水色の髪を困惑に揺らした。


「……えぇ?」

「俺に味方なんていないですし? 聞いた途端君も、俺が悪いって言いだすんだろ?」

「でしたら……うぅんと……あの部屋を使いませんか?」


 いやなんで付き合うんだよ? ツッコミを入れたかったけど、彼女が示した部屋を見て笑ってしまった。

『懺悔室』――なるほど丁度良いかもしれない。顔も相手も見えないし、これなら向こうの匿名掲示板とそう変わらない。いったいどんな反応するんだろうな? カーネリアは。でも自信はないから、一応釘は差しておこう。


「クソつまらない話だよ? ありふれたつまらない話さね」

「それでも……クジョウさんには重しでしょう?」


 なんとまぁ、お優しい事で。これなら君、聖職者でやっていけるんじゃないんですかね。

 皮肉とへそ曲がりを止められない俺は、立て付けの悪くなった懺悔室の扉を開く。

 見えないベール越しの視線を感じながら、俺は胸の中に溜め込んだ過去を、静かに吐き出し始めた。

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