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すべてが終わったそのあとで  作者: 北田 龍一
どんどん状況の悪さが分かってきちまったけど、止まるわけにはいかない……

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旧境界線の町へ

渓谷の砦から次に目指す場所を考える。この砦にある地図の方が新しく、今まで目指していた研究所は『旧』研究所となっているようだ。しかし新しい研究所への道のりは遠く、結局予定通りに進むことに。立ち去る前に、騎士団長さんのマントをアイテムボックスにしまってから……俺たちは砦を後にした。

『渓谷の砦』を出た後の道筋は、かなり順調だったと言える。

 魔物との接触回数は少なかったし、道中の村も比較的安全だった。……もしかしたら人形化した騎士団が、定期的に討伐していたのかもしれない。

物資の方もしょっぱかったけど、ある程度安全な道のりを行けたのだから、これで文句言ったらバチが当たる。地図上の道はそこそこあったけど……塔から砦の道筋と比べれば、砦から『旧境界線の町』は楽な道のりだ。


「こんなに魔物が少ないなんて……」

「あぁ。かなり驚いたよ」


『旧境界線の町』一つ手前の村で休んだ時、俺とカーネリアは感想を言いあった。結界装置の防護も効果がある事も、その時確証が持てた。

 何せ村で結界を展開した時、光の壁に触れちまった魔物がそこそこいたんだけど……どいつもこいつも、急にくるりと方向を変えるんだ。俺たちのことも認識できていない。バリアを張るイメージだったけど、暗示とか感覚を狂わせるタイプなのかな。仕組みはともかく、退散し消えてくれたのならそれでいい。

 これは朗報でもあるけれど……同時に俺は気を引き締めた。

 今までは村に結界を張っても、襲ってくる程の魔物はいなかった。でも砦から離れるにつれて、魔物の数は増えている。騎士団の地図に『旧境界線の町』への記述は無かったけど、これじゃあ期待は出来ないだろうな……


「これぐらいが普通なのだろうけど……嫌になるな」

「……そうですね」

「『旧境界線の町』に入ったら、しばらく隠れていて欲しい。これは多分……無理だろう」


 憂鬱な顔で頷くカーネリア。明るい話題じゃないけれど、身を護るために、心構えをするために必要な事だ。手前の村を日が昇る前に出発し、昼前ぐらいには『旧境界線の町』に到着した。

町の周辺には柵が敷かれ、他の村と比べると物々しい。魔族の領域のそばだからか、遠目で敵を見つけるための監視塔っぽい物も立てられてる。俺たちの前にある問題は、その塔に人じゃなくなった人影が、周囲を見渡している所だろう。


「村より大きいですけど……これは」

「もうダメっぽいな……全滅させる。隠れていて欲しい」

「……お願いします」


 悲しい事だけど、魔物と化した者を救う方法は今のところない。いつも通りにカーネリアが亜空間に飛び、俺は静かに騎士剣を握る。ゆっくりと近づいた俺は、見張り台の上で鐘がなるのを聞いた。

 カララララン

 カララララン

 強く鳴り響く鐘の音が、『旧境界線の町』に響く。

 閉じた木製の門が開くけど、それは俺の歓迎を意味しない。ぞろぞろと群がる直立二足歩行が、爪なり武器なり構えて大量に眼前に現れる。

 一応、飛びかかっては来ないけれど、俺に対する圧力はひしひしと感じる。誰が見ても敵対心むき出しな事は明らかだ。

 けど俺はちょっと妙に思う。こいつら統率が取れているのか? 積極的に襲ってこない所もそうだけど、見張り役がちゃんと機能していたり……魔物は魔物なんだけど、今までの奴らとは違うのだろうか?

 物は試しだ。殲滅戦に入る前に、ダメ元で警告をしてもいい。油断なく剣を構えたままに、俺は全員に聞こえるよう大声で告げる。


「意思が残っている人はいるのか? いるなら下がれ! むやみに殺す気はない! だけど邪魔するなら……押し通るぞ!」


 旅を続ける内に、自分の声が野太くなった気がする。圧力に負けないように声を張り上げ、逆に強く俺は威圧した。少しは効果があったのだろうか? 僅かに隊列が乱れるけれど、逃げ出すような輩は一人もいない。

 やっぱりダメか? どことなく知性を感じさせる動きが見えたから、期待したんだけどな……肌にまとわりつく殺意が、現実に動き出すまで時間はかからなかった。

 だったら是非もなし。次々と飛び出す禍々しい人型に、エイトの騎士剣を一閃すると……群れが半分に砕け散った。が、怯むことなく左右に別れたまま俺を狙ってくる。牙をむき出して噛みつき、刃物を持って振りかぶり、爪を立てて俺の目を抉り出そうとする魔物たちの、強烈な殺意が俺を取り囲んだ。


「えぇい! 邪魔をするな!!」


 何度か戦いを繰り返したもんだから、俺も慣れたもんさ。ビビりを捨てた俺が剣と拳を振りかざす。噛みつこうとした奴は逆にあごが外れ、刃物は腕ごと殴って二度と物を持てないように潰し、目を狙う爪は頭突きで粉々にしてやる。それでも残った部位で殺しに来るんだから困ったもんだ。

 きっちりトドメを刺して回る俺の背中に、一本の投げ槍が飛んでくる。チート防御力に油断していた俺は、軽く腰に刺さったソレに呻いてしまった。


「痛ってぇ!?」


 刺さったっつっても、本当にちょっと切れたぐらいだ。でも俺にとっちゃ驚きの事で、何せかすり傷さえ滅多に負わない身体だ。背中側に振り返ると、深紅の羽が生えた魔物が、フォークみたいな先端の槍をいくつも投げつけて来やがる。

 当たると軽く刺さるソレは、俺に忘れていた恐怖を少し思い出させた。


「やりやがったな……!」


 けれどビビるな俺。唾をつけるまでもなく、俺の身体は自動で傷が塞がってくれる。取り囲まれて投げられたら危ないけど、この数ならやられる前にやればよいのだ。刺さった槍を握り返し、全力投球でお返しだ。

 爆ぜろ! と念じたわけじゃないけど、過剰にパワーの乗せた槍が空中で爆散し、周辺の魔物を纏めて吹き飛ばした。

 それでもビビらず、集団できっちり俺を狙ってくる魔物は、やっぱりちょっと妙な感じがする。感じた違和感を胸にしまいながら、俺は『旧境界の町』の入口の魔物を殲滅した。

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