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すべてが終わったそのあとで  作者: 北田 龍一
何とか辿り着いた安全地帯っぽい所

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不死身の騎士団

渓谷の砦で蠢く空っぽの騎士たちが、俺たちに襲い掛かってきた。カーネリアを魔物と誤認しているようで、説得を試みたが話が通じやしない。唯一話せる騎士団長さんも、正体は空っぽの鎧だったが、チート持ちの俺の敵じゃない。全員蹴散らして一息ついたんだが……戦いはまだ終わっていなかった。

 カタカタと何かが揺れるような金属音に、俺たちはゆっくりと振り向く。

 大量にとっ散らかった金属鎧の欠片が、胴部胸部に集まっていく。磁力? 魔法? 原理は全然わからないが……おおよそ人なら立ち上がれない奇妙な動きで、鎧が一か所に集まり形になる。

 かたり

 かたり


 人じゃない事は分かっていたけれど、こうも見せつけられると恐ろしくなる。倒したと思った騎士団は、次々とパーツを集めて起き上がってくるではないか……!

 生気のない様子は、いわゆるゾンビと変わらない。違うのは生々しい気配が一切ないぐらいで、むしろそれが……コイツらの不死性と不気味さを際立きわだてている。

 不死身の騎士団かよ。冗談じゃねぇ。すぐにカーネリアに目線で合図し、数秒で彼女は亜空間に退避。騎士剣を構え直した俺は、淡々とした音声を聞いた。


「危険人物と認定。対象人物を排除する」


 騎士団長の声は、発音は人の感じがする。でも今聞けばわかる……あの鎧の中身は録音された音声を、組み合わせて使っているようなものだ。多分騎士団長本人の声だろうけど……中身を見た今なら言える。もう騎士団長さんはとっくの昔に死んでいるんだ……!

 そこにどんな過程があったのかは分からない。けれどようやくその様子を見て、心を決めることができた。

 こんな風になっちまったら……彼らはもう、人間じゃない。

 口ぶりからして、人を保護する目的があるのだろうけど……今の環境で、いったい何人がここにたどり着ける? 俺たちはあくまでイレギュラーで、普通は町一つ越えて『渓谷の砦』まで足を運べない。道中の村や町も、みんな全滅しちまってて……実質この砦は、意味をなしていなかった。そりゃあ保護した生存者もゼロだろうよ。


「もう……加減しないぞ」


 おい、覚悟決めたんじゃなかったのかよ? 何を今さら躊躇ってやがる。俺。

 もう確認は済んだだろ? こいつらにも恐怖はない。生きてすらいないし、警告も無為意味だろう。現に復活した騎士が、丸くて太めの騎士槍を突き入れて来る。身体にちょっと刺さって痛かったけど、逆に槍は歪んで曲がった。


 苦痛を浴びてプッツン来た俺は、ようやくそれで戦闘態勢に入る。これで間に合うんだから、チートパワー様様だよなぁ。曲がった槍を突き出されたので、そのまま掴んで別の騎士へ投げて飛ばす。

 軽快な音を立てて、人型のピンが綺麗に四散する。見事なストライクと自分を褒めたいけれど、マナーの悪いギャラリーが迫ってて浸れやしない。槍を取り上げた騎士にチート鉄拳をお見舞いし、これまたバラバラに吹っ飛ばす。


 耳障りな足音は止まらない。次々と群がる騎士たちを、時々エイトの騎士剣を振るってなぎ倒す。騎士団長だけは少し動きにキレがあるけど、残りは全く大したことが無い……そう思っていた時期が、俺にもありました。

 倒したと思いきや、四散した鎧の部位が繋がって再生していく。倒しても倒しても部位が繋がって、時間さえ経てば簡単に復活しやがる。不死の騎士団は男心をくすぐるけど、敵に回すと厄介この上ないな……!


「えぇい! しゃらくさい!!」


 でも、弱点というか欠点というか、俺は想像が出来ちまった。容赦のないやり方だから、気が進まないけど……長期戦になったら、俺も持つか分からない。無敵の体でも精神は鍛えられちゃいないんだ。だから――やるしかない。

 俺はある程度騎士の数を減らしてから、鎧だけ騎士の胴体を捕まえる。仕組みは詳しくわからないけど、奴らは胴を中心に復活をしていた。だったら――復活の中心点を潰せば、この再生能力を失うんじゃないか? 両手に力を込めて、ミシミシと鎧を両手で圧壊し、完膚なきまでに粉砕する。

 効果ありだ。くっつきかけていた足がボトリと落下し、騎士の一体が完全に機能を止める。わかりやすい弱点だけど、魔物退治にはこれで十分なのだろう。

 あいつらには知性がない。単純な仕掛けでも、永遠と復活する機能があれば負けずに済む。この砦はそうやって、魔物たちの手から守られていたんだ。


「こうなったのは……多分、誰かの意思だったろうけど……」


 守る人もいないのに、砦で彷徨い続ける騎士たち。魔物からここを守り抜いたけど、生き残りがいなければ虚しい。ただ役割だけをこなそうとする、空っぽの人形の群れを……俺は

 潰して

 潰して

 潰して潰して

 ひたすら潰して、一体ずつその役割を終わらせていく。

 俺が確実にトドメを刺していく間も、特に騎士たちは焦ったり妨害する様子もない。

 本当に……ただ、与えられた役割をこなすだけの、人形になってしまっていた。

 ――潰して回る俺の感情は、俺自身にもよくわからない。

 元々は人だったのか……少なくても騎士団長さんだけは、元人間だろう。他の騎士が人形っぽいのに対して、彼だけは戦い方にセンスを感じる。そこに人特有の判断がない分、多分当人よりは弱いんだろうな……


 悲しい、とは思う。でも俺の中にあるのは、それだけじゃない。

 そこまでして守ろうとした意地や覚悟。

 哀れだと感じるか? あぁ。普通の人間ならそうなのかもしれない。

 俺は……多分、少し嫉妬していたと思う。

 だから砦から逃げずに、完全に破壊する事を選んだんだ。

 救済だったのか、それとも俺の憂さ晴らしだったのかは分からない。

 一体ずつ潰して、ちょっと強い騎士団長さんも――

 俺は、あっけなく、その胴を完全に粉砕した。

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