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すべてが終わったそのあとで  作者: 北田 龍一
何とか辿り着いた安全地帯っぽい所

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空っぽの騎士団

少し慌ただしくなる砦、不穏な対応の騎士たち。あてがわれた部屋の中で俺は、カーネリアの帰りを待った。幽霊になった彼女が見て回ったここの様子は、やはり何かがおかしいらしい。早いとこ抜けてしまおうと決めた時、騎士の一人が扉を開けて、カーネリアを見た途端襲い掛かった。咄嗟に俺は倒しちまったんだが……中身がなかった。

 塔を守っていた騎士サンことエイトには、人のガイコツが中に残っていた。

 王城を守る近衛兵士は、鎧の隙間から触手やら肉やらがはみ出していた。

 要は魔物化こそしていたけど、中身がちゃんと……ちゃんと? 残っていたんだ。

 だから俺たちは本当に仰天した。想像していた中の人がいなかったんだもの。砦を守っていた人と思い込んでいたけど、正体は空っぽの鎧と知ればそりゃあビビる。カーネリアが口元を押さえて絶句し、俺も呆然としちまった。

 でも驚くにはまだ早かったらしい。頭のない鎧が、立ち上がって俺たちの下に寄ってくる。そこに痛みも恐怖も感じた様子はなく、淡々と作業をこなす様にカーネリアへ槍を向けた。


「すぐに隠れて! そのまま離れずついて来てくれ!」

「はい!」


 穏便に済ませるのがベストだけど、もう無理だろう。会話中に攻撃してきたマナー知らずの騎士の、槍を片手で掴んで握り潰す。へし折れる鋼鉄の槍にも怯まずに、頭のない鎧が組み付いてきた。

 力加減をして鎧を押し倒す。石床に叩きつけられた鎧が四散し、空っぽの中身を俺たちの眼前に晒した。頭がない時点でわかっちゃいたけど、こいつら人形みたいなモンだったのか。

 彼女が追従していると信じて、俺は部屋の中から脱出する。曖昧な記憶で出口を探す俺の前に、ぞろぞろと騎士たちが整列した。

 ヤバイ。完全にやる気だ。危険を感じる俺だけど、けれどギラギラした殺気は感じられない。牙を剝く獣みたいな感じじゃない、冷たく凍り付いた殺意……


「道を開けてくれ!」


 あぁ、まだ俺の中に躊躇いがあるのか。無意識に最大パワーを発揮できずに、軽く払うだけの俺だけど……強靭な体と力のお蔭で、深手を負う事はない。ドミノ倒しのように崩れて散る騎士鎧たちは、一人も中身が入っていなかった。

 ひとまず来た道を戻ろうとするけれど、砦の中は入り組んでやがる。初見の場所なのもあいまって、俺はスムーズに砦を出れなかった。

 カーネリアもじれったいだろうけど……あちこちから騎士鎧たちが出張ってきちゃ、迂闊に俺に指示も出せない。真っすぐ脱出しようにも、次々絡んで来る空鎧たちがうざったい。敵を振り払い進む俺の前に、騎士団長の鎧が俺の眼前に立って告げる。


「警告する。これ以上の攻撃行動は敵対と判断する。我々の目的は生存者の保護と、魔物の撃滅である。あなたが保護しようとした人物は魔物だ」

「……ふざけんなよ。ちゃんと話せて意思疎通できるだろうが! 魔物と戦った事があるならわかるだろ!?」

「人間には存在しない部位を視認している。変異が始まっており、いつあなたを襲うかもわからん。すべての生存者の安全のために、そして規範を厳格に維持するためには排除せねば」

「生存者だって……? 俺たち以外は誰もいないんだろ!? 俺らはこの砦を通りたいだけだ! アンタらが道を開けてくれるなら、今すぐにでも俺たちはすぐにここを出るよ! それじゃダメなのか!?」

「我々は、無事な人の保護を目的に活動しています。砦から出ることは、おすすめ出来ません」


 ダメだ。話がまるでかみ合わねぇ。いくら何でも頭が固すぎるだろ!? 話しても無駄だと判断した俺は、エイトの騎士剣を構えて、苦く顔を引き締めた。

 ――済まない、エイトさん。アンタの仲間を切っちまうかもしれない。

 この国の騎士や軍隊の仕組みは知らないけど、同じ国の騎士である事に違いない。心苦しくはあるが……カーネリアや俺自身を守るために、斬るしかない。

 深く息を吸い込んで、吐き出すと同時に剣を真っすぐに突き出す。騎士団長の鎧の中心を突くと、残った四肢と頭部が空しく地面に落ちた。

 喋れるから、騎士団長さんだけは生身かもと思ったんだけどな……騎士団長さんも鎧だけだった。まだチートパワーを全開にしていなかったけど、これなら加減は必要なさそうだな。

 現にリーダー格を倒しても、周りの連中はビビらない。予想はしていたけど、全く怯える様子は無かった。違いがあるとすれば、周りの連中が積極的に俺を攻撃するようになった所か。金属のマネキンどもに、俺は騎士剣を構え直した。


「邪魔をするなら……!」


 もう容赦はしないぞ。と、最後の警告を語尾に込めたけど、やっぱり鎧たちは怯みはしなかった。こいつらは人でもないし、魔物でもない何かなのだろう。感情を置き去りにした動きは……SFモノで出て来る、自動機械のロボット兵士を思わせた。

 誰の命令なのか知らないけど、中身がないなら……不謹慎だけど俺も気が楽だ。まともな人を倒して進むのは嫌だけど、空っぽの人形相手なら心は痛まない。

 そうと決まればやることは同じだ。お化けの木や、禍々しく変異した魔物か、殴ればよく響く空洞の、感情のない鎧かの違いだ。なんにしても強靭な体と力、そして自動回復能力持ちの俺には、等しく雑魚敵だ。

 やがて戦いが終わると整列された砦の中が、飛び散った鎧で激しくとっ散らかる。一仕事終えた所で汗をぬぐうと、カーネリアが複雑な顔で、それでも俺を労ってくれた。


「こういう事だったんですね……大丈夫ですか?」

「傷はないよ。ないけど……生き残りがいなくて、残念だ」

「……そうですね」


 一息ついた俺たち。だから……俺たちは気が付かなった。

 ――倒したはずの騎士団長の鎧が震えて、徐々に元の形を取り戻していることに。

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