表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すべてが終わったそのあとで  作者: 北田 龍一
何とか辿り着いた安全地帯っぽい所

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/77

ようやく見えた『渓谷の砦』

 敵を倒し続けた俺は、日が落ちて来た事に気が付く。適当に開けた場所を片付け、魔物も蹴散らした俺の前に、カーネリアのアイテムボックスから、便利……を通り越して明らかに技術レベルが違う道具が、いくつも出てくる。何故が疑問を持っていなかったカーネリアの事はとりあえず置いといて、俺達は往くべき先へと進んでいった。

 ここ最近、ずっと上り坂が続いていた。

 ずっとの期間がどれぐらいかって言うと、二日か三日ぐらい前からかな。詳しくは知らないからはっきり言えないけど、生えてる普通の植物も種類が変わった気がする。空気は涼しくなったし、天気が急に変わる事も増えたんじゃないかな。偶然や気のせいの可能性も否定しないけど……

 そうして雑草が生え始めた道を進むと、長くて頑丈な石の橋が姿を現すようになった。相変わらず魔物たちが我が物顔で、そこら中うろついていてうんざりするぜ。

 橋の下は霧が濃くて見えない。落ちたらただじゃ済まないだろう。橋の上での戦闘は、俺も気を使わないといけないから困る。

 何せ今の俺は馬鹿力だ。うっかり加減を間違えたら、石橋だろうと叩き割りかねない。そこで俺が取った戦法は……


「そぉい!」


 魔物どもを千切っては投げ、千切っては投げる。揶揄でもなんでもなく、本当に俺はこれで石橋の上から魔物をどかしていった。今は魔物のクマと取っ組み合って、肩から後ろへ投げ飛ばした所だ。ショルダースルー……って言っても分からないか。ちょっとマイナーなプロレス技だし。投げ飛ばされた魔物クマが橋の外へ落下し、悲鳴は遠く消えていった。

 剣を使ったり、変に魔物を切り飛ばしたりすれば橋にダメージが入っちまう。一回それで崩しちまって、俺はカーネリアに申し訳なかったからな。

 そこで彼女が提案した方法がこれだ。橋が架かってるところは、渓谷か川とか……ともかく間違いなく高さがある。だったら橋の外に投げてしまえば、安全に通れるって寸法だ。崖に叩き落としたり、水の中に落とせば敵を無力化できるしな。


「フハハハハハ! 次はどいつだ!?」


 恐れを知らない魔物たちは、真正面から突入してくる。チートで手にした力なら、片手で敵を持ち上げる事も簡単だ。掴んだ敵を投げればボーリング出来るけど、ぐっとこらえて橋の外へリリース! 今日の俺は紳士的だ。いやそうでもないな。直接殺してないだけで、結果として魔物が死ぬことに変わりない。

 魔物百人組手は、当然の如く俺の勝利で終わる。橋も無事だしこれで先に進めそうだ。すっきりした道筋を進み、対岸へ渡り切ると彼女が出現して告げた。


「クジョウさん。もうすぐ渓谷の砦が見えてくるはずです」

「え、本当か?」

「はい、ようやくです。生き残った人がいるといいですけど……」


 朗報だけれど、彼女の声色は冴えなかった。仕方ない事だと俺は思う。道なりに進んでいれば、小さな町や村に何回かぶつかったけど……出迎えたのは元村人ばかりだった。残念だけど生存者は見つかっていない。不安な気持ちは俺も一緒だった。

 どう答えようか悩んだ挙句、俺は現実的な希望を述べた。


「確かに今までは、生存者はいなかったけど……安全な『渓谷の砦』に逃げ切れたかもしれない。地図に載る程の要塞だし、ワンチャンスあると信じたいが」

「……砦の様子次第ですね」

「あぁ。ひどく荒れているようなら……覚悟した方がいいだろう」


 王城で衛兵が魔物となってしまったように……砦の兵士が全員化け物となって、渓谷の砦を占拠している可能性もあり得る。できれば想像したくないがな。


「もし兵士たちが魔物化していたら……強行突破するしかない。念のため、砦が見えてきたら亜空間に隠れていて欲しい」

「そうですね……」


 最悪は想像したくないけど、全く考えず突撃は出来ない。警戒して進んで、取り越し苦労で済めば良いのだ。環境と状況ならば、俺一人で交渉しても平気だろう。カーネリアの不安に寄り添うように、俺はそっと呟いた。


「もし生き残りがいて、話すことになっても大丈夫。俺は口下手だけど……この環境だ。警戒する様子を見せていたとしても、そんなに不自然じゃないと思う。もし無事な人が残っていて……でも、何か揉めそうな気配があったら、俺は一旦引き下がるよ」

「争いを避ける、という事ですね」

「あぁ。せっかくの生き残りを傷つけたくない。最悪砦を通れさえすればいいから、一旦戻って二人で対応を考えればいいさ」


 無難も無難に過ぎる提案だけど、彼女は賛同してくれた。


「そうですね……クジョウさんが力を使ったら、砦が傷ついてしまうかもしれません。私たちが進む事も重要ですけど……」

「だからって、生存者を傷つけるのは良くない。歩みは遅くなるけど……カーネリアさんも納得してくれるか?」

「はい。それでいいと思いますよ」

「……良かった」


 犠牲を厭わず、突き進む選択肢もあるけれど……

 既に国としては、壊れてしまった世界だけど

 それでも俺は、人らしさを失いたくない。

 散々魔物になった人を殺してきたし、偽善だ自己満足だと言えば、多分その通りだけど……でも超えちゃいけない一線は、あると思うんだ。

 幸運な事に、カーネリアも近い考え方らしい。今回は揉めずに済みそうだ。


「では……行きましょう、渓谷の砦に」

「そうだな」


 いよいよ運命の時だ。もし砦が魔物だらけになっていたら、今の話は全部無駄になっちまうけど……必要な話し合いだったと信じたい。

 緊張した俺たち二人が目にしたのは……所々補強が成され、今も騎士が巡回する砦の姿だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ