元王城と城下町
俺は前の世界で死んでから、この世界にやって来たんだが……右も左もわからない状態から、いきなり大量の化け物に囲まれちまった。色々と特典があったおかげで助かったが……どうしてこうなったと、途方に暮れるしかなかった。
あれからも移動するたびに化け物どものおかわりが、わんこそばも真っ青な感じてゴリゴリ湧いて出てきやがった。ぶん投げてぶっ飛ばして、ようやく完売ですありがとうございました! ホントしんどかったぜ。
え? 最強チート貰ってるんだから、魔法でぶっ飛ばせばいいんじゃないかって? わりぃ、体力自動回復やら翻訳とか、生活に便利な奴に回してるし……良くわかんねーものは使いたくなかったんだよな。とりあえず暴力と筋肉だ。筋肉はすべてを解決する!
……と言いたかったんだけどなぁ。この状況は筋肉じゃ解決できそうにねぇや。とりあえず転生前のやり取り、思い出してみるか。
……いや、特にテンプレから外れた所はなかったな。無意味な人生からおっ死んで、女神サマに転生させてもらって……あぁでも、確か王城に魔法陣を設置しているから、スタートはそこになるって……
「いやいやいや……じゃあなに? ここが王城な訳? それとも召喚用の特別な部屋?」
どっちにしたっておかしすぎる。召喚するんだったら、化け物どもに占拠されてんのなんでさ? しかも召喚主もいないじゃん……これでかわい子ちゃんが「タスケテー!」って叫んだ所で、呼び出で飛び出て俺、参上! だったらわかるけどさ。まさか……召喚した子も死んじまったのか?
大きな声で呼びたいが、まーた化け物どもに群がられちゃたまらねぇ。今更な気がすっけど、余計な事は避けて通りたい。ぶっ殺して骨になった化け物をつまみ上げて、マトモそうな死体とか手がかりを探す。
……ダメだ。どいつもこいつもただの骸骨だ。来てる服はもう、完璧に襤褸布になっちまってる。上等か安物なのかも全然わかんねぇ。俺のファッションセンスや知識が致命的だけどさ、それを差っ引いても劣化が酷すぎるや。
あぁでも、床の絨毯に魔法陣っぽいのあるな。ほとんど風化しててアレだけど……一応ここが召喚部屋っぽいか? でもよ。
「一日二日でこうなっちゃいないよな……つーかまともな奴いないの?」
あんだけ派手なドンパチ騒ぎあって、まともな人間一人出てきやしねぇ。いや、まともな人間が生きてるならこの化け物どもも、もっと減ってるよな……それに召喚魔法置く場所なんだから、国の中心部とか特別な場所とかに違いない。派手に暴れた割には、建物が崩れる事もなかったし……
てか全体的に劣化がひでぇ。まるで何年も放置されたみたいだ。おまけに国の中枢っぽい場所に、化け物がうろついてるって事は……
あぁ、チキショウ。本当に嫌な予感しかしない。ボロボロの木製扉を開けて……開けるって言ってもほとんど穴ぼこで、元扉なんだが……それをゆっくり開けて回る。蝶番がぎしぎし錆びた音を上げて、完全に風化しちまった感じがする。
いくつ扉開けて回ったかなぁ……いちいち数えねぇけど、ともかく沢山部屋回った所で、テラス付きの部屋を見っけた。やっと外の世界を見れる。俺は駆けだして、ボロボロになった柵に寄り掛かった。
やっぱりここは王城らしい。高いところから下々を見下ろせて、城壁や城下町が見える。目の前一杯に広がる所見ると、かなりでっかい町と城だろう。
……その頭に『元』って付けなきゃいけないのは、本当にサイアクだけどな。
これで日が差していれば、もう少しマシな景色だったのかな……それとももっと最悪な光景を見る事になったのかな。はっきり言ってほぼ廃墟だよこりゃ。
穴だらけの城壁、ボロボロで朽ちかけた廃屋の群れ。なんかの銅像やシンボルだって、綺麗に残ってるものなんざ一つもない。物の隙間には化け物がうようよいて、しかもよく見れば、化け物同士でもやり合ってるじゃねぇか……!
「何だよこの地獄は……」
いっその事……ちゃんと地獄に転生させられる方がまだマシだ。ここは異世界の名残りが、人が生きてた生活の名残りが残ってやがる。何かに滅ぼされたのか? 魔王か? 魔王の仕業なのか?
でもそれだと、勇者召喚の魔法陣は潰しておくよな……完全に放置してる? いやねぇわ。魔王からしたら敵の王城陥落させてるんだろ? 最低限見張りや統治者は立てるよな……そもそも魔王とかいないのか?
「本当に……何がどうなってやがるんだ……?」
この酷い災害は、この地獄は、いったい誰が何のために引き起こしたんだ? こんな状態じゃ、いくらチート持ちを異世界召喚したって……
復元系チート持ってない事が悔やまれるぜ。俺のチートはステータスカンストと自動回復、あと四次元……ゲフンゲフン、時間止めてなんでも格納できるアイテムボックスだからな。十分頭おかしい特典だけど……これが宝の持ち腐れになるってどういうこっちゃ。
「と、ともかく……何か、何かないか探そう。手がかりの一つや二つ、絶対に残ってるはず……」
絶対と言いつつ、自信なさげなのはアレだ。ほんと不安でしょうがないんだよ。
これで手がかりが一個もなかったら……下手に死ねないだけ俺が苦しい。
だから、希望的観測って奴を口にしたけど……出会ったのはさらなる絶望だったんだから、全く本当に笑えねぇぜ。