もう一度王城へ
幽霊になれる魔法を使ってもらい、安全な所からカーネリアについて来てもらう。俺は安全を確保するため、魔物たちを次々と蹴散らしていった。騎士エイトの剣も……まるでなっちゃいない動きだが、ともかく魔物たちを撃滅していく。
知っていたはずの場所が壊れていると知り、カーネリアは泣き崩れていた。
泣いてぐずつく彼女は、ボロボロになった店の一角で酷く落ち込んでいた。
……無理もねぇよ。もし俺が元の世界に戻れたとして、俺の住んでいた町が廃墟になっていたら頭がおかしくなる。疲れ果てた様子の彼女は、ぽつぽつと思い出を語り始めた。
「ここのお店、私すごく好きだったのに」
「……なんの店だった?」
「パン屋さんでした。味は普通でしたけど……沢山子供たちが遊びに来ていたんです。魔法を使って塔を抜け出して……よく眺めていたんです。店主の人がすごく良い人で……本当は混ざって話したかった。でも……」
もうみんな、いなくなってしまった。
あんまり考えたくないが……倒してきた魔物の中に、彼女が眺めた誰かがいたかもしれない。仕方ない事だけど、想像するほど気分が悪くなる。
「たまにワガママ言って、エイト様に買ってきて貰ったり……あの人不器用な人ですけど、この店は好きだって……うぅ……」
「そっか……残念だ」
「ご、ごめんなさい。急に言われても困りますよね」
「いいや。溜め込む方が心に悪い」
思い出の町、思い出の場所が汚されれば、そりゃあ悲しくて仕方ないだろう。でも俺が踏み込んでいいのは、多分ここまでだ。
異世界から召喚された俺は、分かったような口を利けない。相手が化け物になっちまってたり、俺一人で済むならそれでいいけど……安い同情は逆に人を傷つけちまう。だから彼女に任せるままに、感情を吐かせるしかない。
チキショウ。なんで俺の召喚時期が遅いんだ。全部は守れなくたって、ちょっとぐらいなら彼女に残せたかもしれないのに。
悔しさと悲しみから離れるために、俺は彼女に尋ねた。
「……これからどうする? 一旦、塔の前に戻るか?」
疲れ切っている筈だ。もう何度も休んだけれど、無理してカーネリアが壊れちまう方が怖い。でも彼女は静かに首を振って、目に光を溜めながら俺に言うんだ。
「いいえ……あの場所に戻っても、何も変わりません。私だけ塔で眠り続けていたら、あなたにもエイト様にも申し訳ないです」
「……そう、かもな」
「だから……一つお願いがあります。クジョウさんには苦労を掛けますけど……いいですか」
「聞かせてくれ」
涙をぬぐって、彼女は前を向いて告げる。
「王城の……王城の魔物を倒して欲しいんです。探したい物があります」
「……俺が召喚された魔法陣か?」
「それも一つですけど……何か、こうなった記録や手がかりがあると思います。エイト様の手帳には、ほとんど何も出来なかったと示されていますけど、それは違う」
彼女は断言していた。あやふやな根拠ではなく、ちゃんと自信を持った言い方だ。俺はそこまで頭がキレないから、ぼんやりと想像で合わせるしかない。
「まかりなりにも、国を治めていた人が集まる場所だからか?」
「一番の理由は……あなたが召喚されているからです」
俺の言い分も間違ってないみたいだけど、カーネリアが確信した理由は違う。俺は思わず反論を繰り出した。
「いやいやいや……手遅れだろこの状況」
「確かに手遅れですけど、でも何もしなかったとは思えません。本当に何もしていないなら……あなたが今、召喚されていません。何か理由があったのか、それとも精いっぱい手を尽くしたのか……」
「……なんにせよその手掛かりは、確実に城の中に残っている。どこまでやれたのかは分からないが、城に入れさえすれば推測できる?」
こくりと彼女が頷き、じっと俺を見つめていた。敵を倒していくのは俺の役目、彼女は基本亜空間に隠れるしかない。負い目を感じた上目使いに、俺はもう一度「気にするな」とカーネリアへ言う。
「見ていたんだろ? 俺は戦い方がヘッポコだけどさ、力もあるしめちゃくちゃタフだ。いくら群がられたって、全然へっちゃらだよ」
「でも……大変ですよ?」
「そうだけど……俺も知りたい事でもある。あの巨大ガイコツ野郎だけは不安だけど……何とかするさ。してみせる」
俺を襲ってきた、水色髪の王冠髑髏だけは不安要素だけど……カーネリアの言う通り、塔に引きこもっていても好転しない。苦難をじっと待って耐えてたって、いつか救われるかは分からないじゃないか。
自分から進むべきだ。やりたい事、知りたい事、進みたい方向に向かって。
確かに障害は立ちふさがっているけれど、今の俺なら大丈夫。少なくても慎重に立ち回れば、最悪撤退はできるだろう。
これからする事に腹を決めた俺は、窓から見える城を眺める。一応念のために、俺は彼女に釘を刺しておいた。
「俺の戦い方はぱっと見、危なっかしく見えるかもしれないけど……やられるとか不安に考えなくていい。むしろ君に、突然出られる方が危ないと思う」
「んー……そうですね。私はほとんど戦えませんから。でももしも、あなたが本当に危なくなったらどうします?」
「その時は……本当にヤバいと思ったら城から逃げるよ。あいつらは縄張り意識みたいなのがあってさ。王城の奴らは城から出てこないみたいなんだ」
「そうなのですか?」
「魔物の習性なのかも。森に出た木の魔物も城下町には出てこないし、逆に町の魔物は森の方にいなかったろ?」
「……確かに」
「もし逃げる事になったらここに戻って合流しよう。そんなに城からも遠くないし」
こくこくと彼女は頷いて、城に向かう計画を固める。
世界の手がかりを欲して、俺はもう一度、スタート地点の城へと足を踏み入れた。




