始まりは終わりから
あー……まずどこから始めたもんかな……その、多分誰であっても、こんなことは信じられないかもしれないが……とりあえず俺は、俺から見た事を残していく事にする。多分見落としあるし、読んだ人が違えば、感じる事も違うだろう。気になるなら目を凝らしてくれていいし、信じられるかって思うなら適当に流してくれ。
どうして、こんなことになったのだろう。
大量の化け物に囲まれながら、ぼんやりと俺はそんなことを考える。
あぁ、いや別に大したことじゃないんだ。最初こそビビったが、確かめ終わった今にしてみりゃ、この状況はピンチでもなんでもねぇ。ついでに、俺が転生した経緯も……今のこの状況と比べたらどうでもいい事だろう。
一応頑張っちゃいたんだが、傍から見りゃあ底辺生活。結果もろくに出せやしなかった。お先真っ暗な気分で可哀想な死に方をして、女神に救われテンプレ転生ってやつさ。
今この世界で使ってる言語も自動で翻訳するし、体力と防御と攻撃系、あと自動で傷が塞がるのとアイテムボックスのチートを貰った。最後のは今の場面で役立ちそうにないけど、他のはバッチリさ。こっちの攻撃は大打撃、相手からの攻撃はほとんど効かねぇし、万が一傷ついても回復する。だからまぁ、まず死ぬ事はない。
あぁ、そこまではいい。そこまでは別にいいんだ。だから死ぬ危険なんて全くねぇんだが……
――異世界に移った直後に、襤褸布被って、半端に爛れた肌の……どう見ても化け物みたいなやべー奴に囲まれればそりゃビビる。爪もギンギンに伸びて、牙も生えてて、目玉は真っ赤に燃えるように充血してるし、目の白いところが真っ黒に染まってやがる。ぎゃあぎゃあと猿みてぇな……うんにゃあれよりひでぇな。完全に殺してやるって気配の叫びで、無敵の俺を襲ってくる。
一応痛みはあんま感じないけどよ、殺意ギンギンの化け物が、爪なり牙なりむき出しにして、群れて突き立てて来るんだぜ? 心構えも全然してなかったしよ、特典やらボーナスやら貰ったとはいえ、まだなーんにも試してなかったからなぁ……死ぬかと思った。一回死んだ経験あるけどよ。反射的に手で押し返したら、最初に突っ込んできたバケモンは派手に吹っ飛んで死んだがな。
本当にやばかったのは、その後さ。
俺は女神サマから貰った力が、本物だって分かった。攻撃力やら防御力やらも限界MAXだった。
でもそんなもん、この化け物どもにはどうでもいい事らしい。
仲間が死んだってのに、化け物は次々襲い掛かってきやがる。文字通り俺は千切っては投げ、千切っては投げの異世界無双状態! 誰かが俺を上から見てるのだったら、さぞ愉快痛快に雑魚どもが吹っ飛んでいっただろうな……
こっちはそれどころじゃねぇ。いくら力を貰ったって、中身は平々凡々……いやクソ底辺なのを考えるとカースト層か。ともかくメンタルクソ雑魚ナメクジの俺にゃあ辛すぎる。心底ビビり散らしながら、次々来る化け物どもを、必死にぎゃあぎゃあ叫びながら倒して倒して倒し続けた。
どんぐらい戦ってたかは、わかんねぇ。ガチでパニックだったからよ……一瞬だった気もするし、すげー長かった気もする。何人やったかはちょっとわかんねぇし、もう精魂尽き果ててヘトヘトだぜ。
一つはっきりわかってるのは、化け物どもは仲間が死んでも、全然ビビったりしないってこった。騒ぎを聞きつけりゃ次々湧いて、俺をぶち殺そうと獣みたく吠えて襲ってくる。人間らしい感情はまるでなくなってやがるが……俺は最後の一体を倒した時、とんでもねぇ光景を見ちまった。
化け物がぐったり倒れて、多分死んだんだろう。死後硬直……ってやつだと思うんだが、体をびくびく痙攣させたと思ったら……死体が変な事になったんだ。
死体から黒い霧か靄か……見るからに良くない何かが死体を覆った。何か悪霊かなんかが取り付いてんのかな……徐々に靄は上に登って薄くなっていく。水が蒸発するみてぇな感じが近いのか? そうして黒い靄が消えていくと、なんと死体から肉がごっそり消えてなくなってやがったのさ。信じられるか? 一瞬で白骨死体の出来上がりだ。それも後味悪い事に、人間の骸骨に見えちまった。
多分だけど、俺のスキルとかは関係がねぇ。そう信じたいが……右も左もわからなねぇ。誰も何も教えてくれねぇ。腰据えて考えたいのは山々だけどよ……最悪な事はまーだ続くんだわ。
やかましい鳴き声が、床の下から聞こえてくる。
化け物どもはまだまだ、打ち止めには遠いらしい。
――あぁちきしょう。最悪だ。
こんなんじゃ無敵でも最強でも、全然すっきり出来やしねぇ。どうして俺に気持ちよく異世界転生させねぇんだか……!
いくらでも湧いて出て来る化け物ども。どっかに自動湧ポイントでもあるんじゃねーの? って疑いたくなる。
囲まれる俺。
ぶっ飛ばすのも俺。
戦うのも全部、俺がやる事。
引っ掻かれたり噛みつかれたり、軽く痛い思いはするけどよ。幸い最強ステのお蔭で、実質無敵みたいなもんさ。戦ってるうちにテンションも上がってきて……いや悪い、空元気だわ。完全にヤケな感じで、ボッコボコに化け物どもを倒していく。
考える余裕なんて一切なかった。ひたすら戦って戦って、化け物の群れが止まるまで戦い続けていた。無敵の身体が疲れ果てた所で、ぼんやりと俺は天井を仰ぐ。
そう、そこで最初に戻るんだが――
いったいどうして、こんなことになったんろう?