ブラック企業
こんな会社辞めてやる。お前ら、いつか殺してやる。そう思ったのはいつだっただろうか。遠い昔だったような気がする。
だがしかし、やめようにもやめることが出来なかった。
辞表を出しているというのに、上はすべて見て見ぬふり。声をかけたとしても、
「もう少し頑張ってみないか。あと少しの瀬戸際なんだよ、君は。もう少しで、君も上の立場に立てる」
そう言ってスルスルと躱されてしまう。一生昇進させるつもりはないというのに。
俺は中堅IT企業の下請け会社である工場で働いていた。
低賃金に重労働。毎日きついノルマを課せられては、それをクリアできなければ残業。
毎日体の内と外を蝕まれながら惰性で働くこと、もう7年が経っていた。
そんな苦しい生活の中の唯一の癒しが、同期の彩夏だった。
「ヒロ君お疲れ! キツイけど一緒に頑張ろ!」
「うん、お疲れ。 文句も言わずに、やっぱ彩夏はすごいな」
「またまたー。また今度一杯やろうね!」
過酷な労働を終えた後の彼女との会話、彼女の笑顔、もしそれがなかったら、とっくに俺の精神はやられていたかもしれない。
彩夏はいつも黙々と作業をこなしていて、作業実績も同期の中でトップを誇っていた。
おまけにルックスもよく、モデルも出来るのではないかと思うほどだ。
褪色しきった灰色の作業着も、彩夏が着ると、女優が着る衣装のように見える。
そんな彼女がどうしてこのブラック企業で働いているのか。
俺が飲みの席で聞いたところ、どうやら彩夏の家は経済的に困窮していて、高卒で就職が決まったのが今の職場だけ、ということだった。
そしてまた別の日に飲んでいるとき、彩夏は俺の人生を変えた。
「ねぇヒロ君、いいバイト、教えてあげよっか?」
彩夏は上目遣いで俺に聞く。おいおい、それは反則だ、と思うと同時に、彩夏はどうしてあの過酷な労働と並行してバイトをできるのだろうか、と疑問に思った。
しかし、金がない俺は構わずバイト先を教えてもらった。
そして、バイトの日は訪れた。
蒸し暑い夏の日で、空はどんよりと重たそうだった。肌に纏わりつく湿気は気持ち悪く、蝉一匹鳴いていないのが不穏だった。
彩夏は俺をバイト先まで連れて行ってくれた。
――そこは、麻薬密売所のアジトだった。
そこからのことはあまり覚えていない。大量の麻薬を飲まされて、夢見心地でいたような気がする。そして気付いたときには俺の手は赤く染まっていた。その時、彩夏が何故仕事を頑張れたのか分かった。
お読みいただきありがとうございました。
1000字だから雑になってしまったかもしれません・・・・・・。