総督府にて
そう意気込んだのも束の間、もう馬車はルーラオムの城壁前に到着してしまった。
ゴブリンの門番が、巡礼者に支給される通行手形が本物かチェックする。一応、巡礼者しかルーラオムには入れないことになっているので、私も手形は偽造済みだ。複製魔法の得意な知り合いに頼んだので、見破られることはなかった。
馭者のおっさんとは門で別れ、城壁を潜ってすぐのところで、老婆とも別れることになった。
「道中はありがとうございます。私たち、数週間はここに滞在したいと思います。帰りの護衛は別の冒険者様に頼んでありますので、これで失礼します」
そう告げて老婆は修道院に入っていった。
【魔都】とかなんとか言っていたが、修道院はさすがに安全地帯なはず。言うほど危険ではなさそうだ。単なる誇張表現に過ぎないのだろう。
「さて、この街での観光したら、とっとと魔王城へ交渉しに行きますかぁ」
といっても、ルーラオムの街は殆ど廃墟のようなものだった。敬虔なルーライ教徒たちが修道院に住んでいるようだが、あとはもぬけの殻。崩れかかった廃屋の数々と、古びた城が遠くに見えるだけ。
これも37年前の第一次魔王征伐のせいか。
そう思うと、ため息が出る。かれこれ二千年もの間、人間と魔族は殺し合ってきたわけだが、今世紀に入ってそれは激化している。やはり、人類遺産ともいうべきこの聖地ルーラオムを魔王軍が占領してしまったことが原因だろう。
全く。
戦いはいつまで続くのやら。
理想郷づくりは骨が折れそうだ。
結局、滝以外に観光スポットは無さそうだった。
あまりに高い滝のためか、地面に届くまでに水は霧散しており、滝つぼは形成されていなかった。そこだけ濃い霧がかかったようになっているだけ。特に見どころもなかったな。
そう思い、廃城へと歩みを進める。
すると、廃城の近くに尖塔が見えた。入ろうとすると、コボルトの兵士が槍を交差させ、阻んだ。
「貴様、ここは巡礼者が立ち寄っていいような場所ではない。早々に立ち去……」
衛兵が言い終わらぬうちに、無詠唱の昏睡魔法をかけ、先に進む。
とりあえず最上階を目指して螺旋階段を飛行魔法で上る。
ひときわ豪華そうな扉が見えたので、一応ノックしてから入る。
「な、なんだ貴様は? 衛兵は何をやっている?」
驚いた様子の魔族がそう叫び、脇に控えていた暗黒騎士にハンドサインで指示を出す。
暗黒騎士は素早く抜剣し斬りかかってくるが、見切れない速さではない。
私は、剣の鞘を振るって暗黒騎士の首筋を殴打し、昏倒させた。意外と警備薄いんだな。まぁ、巡礼者くらいしか来ないし、大抵の冒険者は聖地に関心などないから、当然か。
「あんたが、ここルーラオムの名代かなにか?」
「いや、私はルーラオムの総督だ。貴様、何をしに来た? 何が狙いだ?」
「ここルーラオムを国際都市にすること」
「は? 何を言っている? ルーラオムは魔王シェムハザ様が正式に領有している。そもそもルーラオムはシェムハザ様と関係の深い場所なのだ! 国際都市にするということは、通行手形を廃止するということだろう? そんなことが認められるはずはない!」
総督がそう叫ぶと、悪魔の軍勢がなだれ込んできた。魔王城から転移してきた、それなりに上位の魔族だろう。
「貴様のような危険因子は捕縛し、魔王城地下に監禁させてもらう」
総督は怒りを露わに宣言する。
敵は15体はいるか?
蹴散らせない数ではないが、ここはおとなしく捕まっておこう。魔王城まで歩く手間が省けるしな。