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聖地ルーラオム

 この世界の住人の三割が信仰する巨大宗教、ルーライ教。


魔王国へ入る唯一の方法。それはルーライ教の巡礼者のふりをすることだ。まぁそれでも殺されるリスクはつきまとうが、今の私なら大丈夫だろう。


なにせ、神様からチート級の身体能力、魔力を与えてもらったうえに、それから5年間も研鑽を積んできたのだ。魔王城にすらたどり着けない有象無象の冒険者たちとは違うのだ。


三大聖地を巡り、開祖たる智天使ルーライに祈りを捧げることは、ルーライ教徒が生涯に一度は果たすべき義務とされている。


 三大聖地とは、次の三つだ。天使ルーライの墓のあるカルネス王国のエレウム。ルーライの初めて建てた孤児院のあるオレイン皇国の聖都シグニフィカティウム。ルーライが創った滝のある旧魔王領の聖地ルーラオム。それこそがルーライ教の三大聖地だ。


 聖地ルーラオムが魔王軍に蹂躙され、占領されたのが37年前。聖地奪回のため、カルネス王国軍と3つの冒険者ギルドが連合軍を組織し、第一次魔王征伐を行った。


 結果は失敗に終わり、両軍ともに多数の犠牲者を出した。


 私は、このルーラオム解放こそが、魔王国とカルネス王国の宥和の第一歩だと考えている。


 そこでルーラオムへ向かう巡礼者の護衛クエストを受注した私は、公式にカルネス王国を抜け、魔王国との間の緩衝地帯に入っていた。


「しかし、かの勇者ダルク様の仲間でいらっしゃるレイカ様が、このような報酬の安いクエストを受けられるとは、何かあったのですか? いえ、とてもありがたいことなのですが、どうにも気になってしまいまして」


 巡礼者の老婆はそんなことを問うてくる。理想郷だなんだ言っても面倒なことになりそうだし、ここは適当に嘘をついておくか。


「私も、伝説の【天の滝】を一度見てみたいと思いましてね。ちょうどいいクエストがあったので、ついでに観光もしていこうかと」


「そうなのですか。いやしかし、聖地であると同時に【魔都】とも呼ばれるルーラオムに行くのはどうにも恐ろしくて……こうして勇者様のお仲間が付き添ってくださるだけでたいへん心強いです」


「そうですか。では、私は馬車の外の様子を偵察してきますので、ちょっと失礼」


 そう言って席を離れる。なにかにつけ、『勇者様のお仲間』と呼ばれるのが若干癇に障ったが、そんなことに腹を立てても仕方ない。


 馬車の周りに張った聖魔法【浄華聖焔】の維持に集中しよう。といっても、使い慣れた魔法なので、無意識のうちに維持することも簡単だ。でも暇なのだから他にどうしようもあるまい。


 緩衝地帯にも魔物は出るが、聖属性上級魔法を張っている馬車にわざわざ近づく魔物はいなかった。


「行き当たりばったりで魔王国目指してみたけど、次どうするかなー」


 ルーラオムを解放したいところだが、ルーラオムを監督している魔族を倒す以外に、どうにか平和的な解決法はないものか?


 そんなことを考えていると、【天の滝】が見えてきた。


「うわっ、すごい。本当に空から滝が降ってるよ!」


 かつて創造神が人間の堕落ぶりに失望し、大洪水を起こそうとしたとき。智天使ルーライはそれを諫め、大洪水を起こすため創られた天の貯水池の水を、千年かけて滝として処分することにしたという。


 それこそが【天の滝】の由来だ。どうにも信じ難いおとぎ話だと思っていたが、こうして実際に目にしてしまうと、信じざるを得ない。


「智天使ルーライって、やっぱ本当にいたんだ……」


 半信半疑だった物語が、真実なのだと確信する。もういっそルーライ教徒になってしまおうかというほどの壮麗な景色であった。


「ここが、私の新天地……」


 ルーラオムで私は決起しよう。そして、世界中を巻き込んで、この世界に、理想郷を築いてみせる!


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