勇者との決闘
王都を囲う城壁の外に出て、二人は剣を構える。
立会人は、パーティの他のメンバー全員。すなわち、【魔術師】綾野令二、【ドラゴンスレイヤー】ジャンヴィエ、【神働術師】セイラ、【錬金術師】ミダス、【占星術師】シスイの5人だ。
「デュランダル、その威を示せ!」
白銀の鞘から神剣デュランダルを抜き放ったダルクは、そのまま剣を天高く掲げ、烈しく発光させる。
なんのアピールのつもりだ。私は、一定以上の強さの音や光を遮断する防護結界を、常時展開している。目眩ましにもならない。
「フッ、」
小さく鼻で笑うと、ダルクはデュランダルの刀身にキスし、そのまま駆け出してきた。
なんと予備動作の多いことか。余裕を誇示したいのだろうか。まぁ、私を追放しようというのなら、そのくらい余裕を以て勝ってくれないと困るんだけど。
「剣技【セイントスラッシュ】」
ダルクが剣を振り抜くと、デュランダルに秘められた聖属性の魔力が、刃状になって飛んでくる。
「聖魔法【浄華聖焔】・五連」
対する私は、白い炎の結界を五重に張った。同じ聖属性の攻撃なら、聖属性魔法で打ち消せるはずだ。
実際、【セイントスラッシュ】は結界を三層突破するにとどまった。
「ほう。このデュランダルの一撃を防ぐとはな。さすが俺の冒険に五年間ついて来られただけのことはある」
「魔王討伐に5年もかかってる奴が、偉そうに何言ってるの? 何様のつもり?」
マジギレモードの玲香からは、どんどん煽り文句が出てくる。
「何様って、誰もが認める勇者様さ」
「言ってろ」
玲香は足に魔力を纏わせ、突進する。
「【ホーリースマッシュ】」
ダルクはデュランダルに込められた魔力を一気に解放し、爆散させる。が、既に回避済みだ。正面への突進は当然フェイント。そのまま左に回り込んで蹴りを放つ。が、
「あまりナメないでもらいたいな」
ダルクは私の蹴りを素手で受け止め、そのまま足を掴んで放り投げた。空中で回転して受け身を取り、どうにか着地する。
すると、既に第二撃が迫っていた。
神剣とまともに斬り結べば、折れるのはこちらの剣。ならば!
「剣技【風雪岩砕】」
最近編み出した剣技を発動してみる。その名の通り、風雨に晒された岩が削られるように、相手の武器を砕くのがこの技だ。水、風属性の魔力を凝縮させ、神剣の側面に突き立てる。
ガリガリと私の剣が削られる音が響く。さすがにこの技で神剣を破壊できるとは思っていない。狙いは、ダルクの手だ。
神剣を削りながら、否、神剣に削られながら斬撃を受け流し、そのまま持ち手の部分へと切っ先をスライドさせる。柄に到達すると、そこで風属性の魔力を爆散させた。
「うわっ、」
神剣は、ダルクの手を離れていた。拾い上げられないよう、デュランダルを足で踏みつける。
驚きを隠せないダルクは、とっさにバックステップで距離をとった。
「ほう、神聖なるデュランダルを踏みつけるとはいい度胸だ」
「あいにく、私は神様に会ったことはあるけど、崇拝はしていないんだよね。だから、神聖とか言われてもピンと来ない」
「不遜な奴だ。ならば、素手で倒すのみ!」
ダルクは両腕を構える。
「いいよ。付き合ってあげる」
玲香も剣を捨てた。
「拳技【ゴッドスピード】」
その名の通り、神速のラッシュを繰り出してきた。だが、名前のわりに、見切るのはそう難しくない。
拳の側面を叩き、一撃ずつ軌道をずらしていくと、やがて技は終了した。
「くそっ、」
ダメ押しの右ストレートが迫るが、遅い。私はそのまま腕を掴み、足を払って背負い投げを決めた。
「ぐっ、」
ダルクはもう気絶してしまった。
何が勇者だ。対人戦ではこの程度か。
「レ、レイカの勝ちか……」
ジャンヴィエが驚いたように声を上げる。
「ふん、でもあんたら、魔王を討伐する方針を変える気はないんでしょ? 私とダルク、どっちについていくの?」
我ながら鋭い問いを投げかけると、皆沈黙してしまった。
「俺は……やっぱり魔王を倒したい。そして、世界を平和にしたい」
令二はそう呟いた。
「殺人の上に成り立つ平和が、真の平和だとでも思ってるの?」
「それは……」
令二は何も言い返せないようだ。
「もういい。リーダーでさえこんな弱くて、平和について深く考えてもいないパーティなら、こっちから願い下げよ!」
「ですが、あなたの未来には、凶兆が出ています」
老占星術師、シスイ=アルタイルが不吉な占いを告げる。
「あなたの占いって、数十年かそこらの未来を予測するものでしょ? 私はね、シスイ。この世界の百年後、二百年後を憂いているの。そんな近視眼的な考えは求めていない」
「そう、残念です」
「なんにせよ、もう私はソロでやるから。せいぜい笑いなさいよ。理想郷づくりなんて無理だって」
皆、何も言い返せないようだ。
「でも私は、何世代かかってもそれを実現してみせる! じゃあね。今までお世話になりました!」
そうキレ気味に言うと、私は荷物をまとめるため宿屋に戻った。