パーティ追放
「レイカ、今日でお前このパーティ、クビな」
共に数多の冒険を潜り抜けて来た戦友。ドラゴンスレイヤーのジャンヴィエ=スクアーロは、朝っぱらから私に無慈悲な宣告をしてきた。
「は?」
意味が分からない。私はこのパーティで最も有能である自信がある。剣士なので剣術はもちろん、魔法もチート級のをいくつも使える。自分で言うのもなんだが、品行方正だし、眉目秀麗だ。クビにされる理由などない。あるはずがない。
「今、なんて?」
「だから、お前は今日でクビだ。このパーティから出ていけ」
「ちょっと待とうか、ジャンヴィエ。竜の狩り過ぎで気でも違ったの?」
玲香の煽りにも、ジャンヴィエは冷静に対処する。相変わらず、ドラゴンを殺すこと以外には興味がない、といった様子だ。
「俺は至って正気だ。そして、どちらかというと正気を疑うのはお前の行動の方だ」
「私の行動?」
私の行動はいつだって完璧だ。私の機転や、私の采配で、何度このパーティが危機を脱してきたと思っている? 恩知らずにも程があるんじゃないかな。
「お前、先週のクエストで見つけた魔族の子供、わざと逃がしただろ?」
そこを突いてきたか。
「当然でしょ。討伐対象は、人間を何人も殺してる親魔族の方であって、子供の方は殺す必要ないじゃん」
「お前なぁ、魔族は魔物と違ってそれなりに知性も高いんだぞ。親を殺された魔族は、そのことをずっと覚えている。そして復讐のため、より多くの人を殺すようになる。そう、ドラゴンと同じようにな」
「だったら、もう魔族の討伐クエストなんて受けなければいいじゃん。だいいち、勇者様は魔王を討伐するとか言ってるけど、その必要性も感じないし」
この異世界に転移してきたとき、女神さまは魔王を討伐すれば現世に帰れると言った。だが、命を奪ってまで達成すべき目標なのかどうか、ちょうど迷いが生じていたのだ。ゆえに、私は魔王を討伐する必要性を感じない。
「お前が博愛主義者なのはよく分かった。だからこその解雇通知だ。お前、そもそも冒険者に向いてないんだよ」
「確かに。商売でもやっていた方がいいかもね。でもね、ジャンヴィエ。大きな力を手にしている者は、それに見合った責任があると思うの」
これは、玲香の持論だった。同じく、『高度な教育を受けたものは、その恩恵を社会に還元すべき』との持論も持っている。
だから、異世界転移してきてチートなスキルを得たのなら、それを有効活用する責務があると思うのだ。いわゆるノブレス・オブリージュというやつに近いだろうか。
「またその手の話か」
ジャンヴィエは呆れたように頭をかく。確かに、この手の話は仲間に何度も聞かせていたような気がする。
「どうしても納得できないことがあるときは……」
「決闘で解決。それがうちのルール。でしょ?」
かくして、このパーティのリーダー、勇者ダルクに決闘を挑むことになった。
「レイカ、考え直してくれないか? 魔王討伐はパーティみんなの、いや、このカルネス王国全体の宿願でもあるんだ。どうか、もう魔族に半端な情けをかけるのは止めると誓ってくれ。そうすれば、君が残ることを認めよう」
ダルクは神剣デュランダルに選ばれた、生まれながらの勇者だ。だからこそ、その上から目線な態度が気に入らなかった。
「私はね、ダルク。いつか人間も魔族も共存できる日が来ると信じてる。このチートな力も、それを実現するためにあると思うの。だから力を貸してくれない?」
ダルクは一瞬キョトンとすると、すぐに玲香を鼻で笑った。
「ハハハッ、人間と魔族の共存? なら君が魔王と政略結婚でもして、和平を結ばせてみるかい?」
「笑われるようなことを言った覚えはないんだけど」
「いや、笑えるさ。この二千年間の、人間と魔族の殺し合いの歴史を知らないわけではないだろう? 君も何とか言ってやったらどうだ? レイジ?」
ダルクは令二に問いかける。
レイジこと綾野令二は、一緒に異世界転移してきた幼馴染みだ。
「いや、俺は……やっぱ現世に帰りたいし。魔王は殺すもんだと思うし……」
全く。我が幼馴染みながら情けない。そんな自信なさげに呟くんじゃなくて、私の味方をするのか説得するのか、はっきりしたら?
「君の友達もこう言っている。レイカ、おかしいのは自分の方だと気づかないのか?」
「この私が『おかしい』だと?」
気付くと私は、数年ぶりのマジギレモードを発動していた。
「ずいぶん言ってくれるなぁ! 勇者様よぉお! そんなに私を追い出したいんなら、力づくで追い出してみな!」
「望むところだ」
こうして、【転移者】谷川玲香と、勇者ダルクの戦いの火ぶたが切って落とされた。