火の四天王
風水地と来たので、最後は【火の王】か。
飛行魔法でずんずん進んでいると、防護結界が破られる感触があった。とっさに身を捩り、後退する。
今のはなんだ?
間違いなく魔法による攻撃ではない。かといって、武器を用いた攻撃でもない。
だが、相手は【火の王】。撃ってくる攻撃の予想は大体つく。
試しに手近な石ころを拾って前方に投げてみると、たちまち石は真っ赤に灼け、破裂した。
やはり、これは強大な熱源から発せられる輻射熱。まともにくらえば人体などすぐに蒸発してしまうだろう。
とはいえ、熱量操作の魔法などない。ヒュドールのような芸当はいくら私とてできないのだ。かといって、水魔法なんか使えば、辺りが蒸気に覆われて大変なことになる。間違いなく肺を焼かれるだろう。
魔力でのゴリ押しができない以上、ここはもう逃げるしかないか?
いや、そもそも、逃げ切れるのか?
そんなことを考えていると、一瞬にして目の前の壁、天井、床がはじけ飛んだ。
火山弾のごとく飛んできた石片が体に突き刺さる。
「ッ!」
次いで、下半身が灰と化した。凄絶な痛みが脳を貫く。
そこで、私の意識は途絶えた。
次に目覚めたとき、目の前には片腕を失った悪魔が倒れていた。
「まさか……あなたが【火の王】?」
問いかけると、悪魔は呻き声を上げながら答えた。
「そうだ。私が【火の王】イグニスだ。だが貴様、その姿はなんだ?」
「え?」
自分の下半身に目をやる。黒い硬皮に覆われていた。おかげでちっとも熱くない。というか、なぜ灰になったはずの下半身が再生している? これもさっき注入された魔王の血とやらの効果なのか?
「なぜだ? ただの人間が、私の発する熱に耐えて近づくことなどできないはず……何をした?」
「私が魔王の血を注入されたことは知ってるでしょ? だからこれは……【魔人化】ってやつ?」
「そんな……さっきまで人間だった者が、この短時間で【魔人化】を習得できるはずがない!」
普通はそうなのだろう。だが、あいにく私は天才だし、運も良い。
「知るか! これで吹っ飛びな!」
右掌をかざすと、そこはパックリと割れ、獰猛な肉食獣のような口が形成される。次いで、その口から放射状に、赤黒い熱線が放たれた。
輻射熱が収まるのを待ち、魔人化を解くと、イグニスは既に黒焦げになっていた。
「ハァ、悪いけど、回復魔法はもう使えないから、魔王様にでも治してもらって」
そう告げると、私は玉座の間へ向かって踏み出した。




