長い長い、暗黒の天体観測
「今、何時だろっ」
夜で真っ暗となったテントの中で、次子は腕時計の秒針を見た。長針と短針は12の数字を行ったり来たりして狂っている。
次子は仰向けに寝て天井眺めた。真っ暗な真っ暗な、暗黒の天井。
隣には太郎が寝ている。彼と一緒に天体観測をする為、星の見える野原へ来たはいいが、空は曇りで何の煌めきも見えない。
晴れるまでの間、テントの中で過ごすことにしたが、太郎はすぐに寝落ちしてしまった。次子は全く眠れない。
大学生にして、人生初めて部屋の外で過ごす夜。緊張して眠れない。
せめて、星が見えれば気が楽なのに。
そう思っていると、天井の暗黒にポツポツと煌めきが見えてきた。
次子はそれを星だと思って眺め続けることにした。
暗黒の宇宙は果てしなかった。どこまでも続く、標と終わりなき道。
無数の星々が煌めいて生まれ、そして光を失い消滅する。
「どう思う、この無数の星の中に、自分が含まれてるってことを」
彼と初めて天体観測をした時に聞かれたことを思い出す。
あの夜答えれなかったことを、次子は暗黒を見上げながら思い出す。
星々は無数に生まれ、無限大に散る。
自分はそんな中の、一個の生命でしかないと思ってくると、胸がしめつけられてくる。
思わず隣に顔を振り向ける。テントの中は暗黒で、何も見えない。
その時、あの夜の彼の顔を思い出す。
星々の煌めく夜空の明るさに照らされる彼は、優しい笑顔でこちらを見ていた。
「すごく、奇跡かな……無数の星々を、知人とこうして眺められるのは」
次子も微笑みを浮かべ、太郎を見つめた。
太郎は寝ぼけ眼をこすって体を起こした。
「あれ、星は出た?」
「もう、朝です!」
太陽の輝きが、テントの中を明るくした。
「また一緒に、これからも一緒に星を見ようね」
どのくらいの時間、暗黒を眺め続けたかは分からない。
人生で最も長く感じた夜だと次子は思うだろう。
そしてそれだけ、彼との天体観測はたった一瞬の出来事であり、そして煌めく思い出になるだろう。