最期の唄
拙いですが、どうぞ楽しんで下さい
旅は道連れ世は情け。
その言葉を鵜呑みにする様な奴は旅になんて出るものじゃあない。
たちまち野垂死に、アルトナの狼の餌になるのが落ちだ。
旅は過酷で、叫びたくなる程に孤独だ。
次の街まで後丸三日はかかるというのに、明日食うパンがもう無いなんてざらにある。
どれだけ神に祈りを捧げても、奴らは何一つ助けてくれはしないのだ。
山道の雨に打たれて、凍える程の極寒に止まりそうになる足に鞭を打ち、また一歩一歩、歩みを進める。
立ち止まれば、待っているのは死だけだ。
最後のパンを囓り、ワインすら飲み干す。
フラつきながらも、また一歩前へ。
誰かの助けを前提に旅をしていたら、今頃膝を地面について両手を組んで祈っている。
遠くから、狼の遠吠えが聞こえてきた。
アルトナの狼たちは賢く、気高い。それ故に、狙われた獲物は逃れられない。
きっと、既に俺がこの森に入っている事にも気付かれているだろう。
足取りは重くなる一方で、目も霞んできた。
俺は絶望的なこの状況で、声を振り絞り唄を歌った。
せめて、唄の中だけには、希望を乗せて。
背中に背負ったハープを弾く力すら残っていなかったが、極寒の雨の中、とびきり暖かい唄を。
それが吟遊詩人としての俺の、相応しい最期だ。
心残りは、この唄すら歌いきれずに死んでしまいそうな事だけだ。
薄れゆく意識の中、アルトナの狼の遠吠えが、やけに近くで聞こえた。