セレスティア
「……はい、次の人」
レフリーは素っ気なく言った。
「ありゃ、吉川さんとこのおばあちゃん」
レフリーは老婆から手渡された書類に目を通して、笑顔で言った。
「80年も頑張ってきたんだねえ。お疲れ様。私の左側にある白い階段を登っていけばいいよ。みんな楽しく過ごしてるからね」
その言葉に、老婆はゆっくりと頷いて左側の階段へ向かっていった。緑の広がる世界が扉の向こう側に一瞬見えた。
「はい、次……」
そう言うと、レフリーは目を見開いて言葉を継いだ。
「あんたは……うーん、そこの黒い扉。じっくり反省しな。あ、この場所でも死ぬことはあるから、注意しろよ。
どういうこと、だって? ……あんまりやり過ぎた奴は存在自体がなくなるんだよね。入る時も、油断は――」
ボサボサの頭をした、気味の悪い太った男は、レフリーの言葉を聞き流して黒い扉を開けた。その瞬間、得体の知れない刃物で股間を貫かれ、絶叫しながら扉の向こう側に引き込まれていった。
「……禁物だよ。女は恨みを忘れないんだぜ?」
レフリーは溜息を吐いて言った。
「次、どうぞ」
次に入ってきたのは、軍服姿の男達だった。
「こりゃまた、いっぱい来たねえ。2年間も戦って、つらかっただろうね。しかも上官に裏切られるなんて……。
全員……いや、そこの偉そうなツラしてる人以外は白い階段へ。今までより全然いい世界だよ。
偉そうなツラしてる人は右側の赤い扉へ。……二度と味方を置いて逃げるなよ」
全員がそれぞれの扉を開けて、その場から去っていった。赤い扉の向こう側には、怒号を発する剣を持った男や血だまりの中に倒れている人の姿があった……