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Filling Children  作者: 笹座 昴
1章 家族
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3話 晃久



 俺と晃久が初めて出会ったのは、高校の入学式だ。

 俺たちは、Fチルの第3世代生まれで、第3世代までは試験的な要素も兼ねているから、数が少ない。だから、同世代のFチルに会うこと自体が珍しい。

 ほとんどエスカレーター式に進む小学校、中学校とは違い、高校ではメンバーががらっと変わるから、高校までFチルに一度も会ったことがない子もいる。差別とか偏見には、もちろん慣れてはいたが、俺は高校入学を前に不安だった。


 そして入学式当日。いつも身につけているFチルの象徴とも言える首輪型のCOMNは置いて、付き添いのルーはいつもより上品な服を着ていて、ただでさえ俺に似ているから俺の親戚のお姉さんにしか見えない。今日の俺は、ごく普通の高校生に見えるはずだ。


 そんな息の詰まるような緊張感で高校の門をくぐってすぐに、金髪美女を連れて、サングラスかけた、すごく派手なやつを見かけた。


 第一印象は、『何だ、こいつ』だ。

 首輪型のCOMNを付けていたから、十中八九俺と同じFチルで、隣の美女はヒューマノイドなんだろうとは思うけれど、あんな派手な外見のヒューマノイドは初めて見た。しかも今日は入学式という正式な場だ。


 ある意味、堂々と主張するその姿に少し興味がわいたものの、目立ちたくはなかったので、気づかなかった振りをして横を素早く通り抜けようとしたとき――

「よう! お仲間だろ!」

軽いその声に、周囲の視線が俺に刺さった。今日を乗り越えても俺がFチルであることはすぐに周囲に知られることは分かっているが、こんな入り口の目立つところでばらされたくはなかった。


 話しかけられたので、足を止めて渋々振り返ると、金髪美女を連れたやつはサングラスを取って、若干色素の薄い目でこちらを見てニカッと笑った。

「俺は晃久(あきひさ)。こっちはレミーネ」

「はぁい! レミーネよ。よろしくね」

金髪美女に派手なウインクに、少したじろいだ。この軽い態度は、本当にヒューマノイドなのだろうか?

「(ルー。あのさ、こっちの女の人って、ヒューマノイドだよな……?)」

COMNを通じて密かにルーに確認するが、ルーからは返事はない。

「春? 何でしょうか?」

ルーのその声に、今日自分が首にCOMNを付けていないことを思い出した。どうせバレるのなら付けてこればよかったと後悔しながら、とりあえず俺も名乗る。

「俺は春義(はるよし)です」

Fチルである俺たちには、名字は意味がない。だから名字は名乗らない。

「春義か。よろしく春!」

晃久に笑顔で軽く肩をたたかれた。


「で、そちらは?」

晃久の視線が俺の隣に静かに立つルーを指した。

「あぁ、こっちは、ルー。ルーミスティ」

「ルーミスティです。よろしくお願いします」

ルーが名乗ってから、挨拶のために軽く頭を下げたときに、晃久がルーの手をがっちりつかんで、そのままぶんぶんと上下に振るような握手をした。

 晃久に掴まれたままの手を見て、珍しくルーが戸惑っているように見える。

「また後でな」

晃久がパッと手を離したあと、あっけに取られた俺たち二人を残してさっと立ち去ってしまった。

 そしてその後すぐ、同じクラスで再会した。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 学校に二人しかいないFチルの俺たちが同じクラスになったのは、偶然ではなく何か意図があったのだろうと思う。それが何かはよく分からないが、好奇心や恐怖心など色々混ざった居心地悪いこの視線が、俺だけに向けられたものでないのは正直助かった。

 この視線がいつまで続くのかと不安に思ったが、小学校のときもそうだったし、しばらく大人しくしていれば、皆も警戒を解いて慣れてくれるだろうと俺は思っていた。

 だから、俺はできるだけ他の皆と同じように見えるように、目立たず謙虚に行こうと、そう決意した――


 だけど、晃久は大人しくはしてくれなかった。


 まず、俺たちFチルの象徴とも言える世話役のヒューマノイドのレミーネが、晃久がいつも首につけているCOMNから所構わずホログラムで顔を出す。

 休み時間に出てくるのはまぁいい。慣れてそう思えるようになってきたところで、体育の着替えのときに、更衣室のロッカーの上に座り、にやにやとこちらを眺めているレミーネと目が合ったときはさすがに固まった。


 隣で着替えていた晃久の方を振り返り、小声で晃久に伝える。

「晃久。さすがにこれはまずいだろう」

晃久が俺の指す方見上げて、レミーネを見て少し驚いた顔をしたあと、レミーネに何か目配せをして微笑んだ。

「あら、不公平ですって?」


 男子更衣室に突如響く女性(レミーネ)の声。

 すべての物音が消えて、着替中だった皆の視線が上を向いた。


「じゃあ、私も脱ぐわ」


 レミーネが腕をクロスして服の裾に手をかけると同時に、男子更衣室が息を吹き返し――その後、空前絶後の盛り上がりを見せた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 それだけで終わって欲しかったが、晃久は他にも、高校内で動画のおすすめ紹介のような活動をしている。

 それが、ほのぼの動物動画などというはずがなく――まぁ、普通にエロいやつだ。


 首輪型のCOMNを付けていれば、自分の脳内で強くイメージしたものをヒューマノイドに伝えることができる。それを応用すれば、『この動画の、この女の子と似た子で、こんなシチュエーション』なんていう、言葉で表現するのは少し難しいが、男としてはどうしても譲れないポイントをしっかりと含んだ細かい検索も可能になる。この作業自体は、首輪型のCOMNを使ってヒューマノイドとの意思伝達に慣れていれば誰でもできる。


 そう、誰にもできる。もちろん俺にもできるが――俺には無理だ! ルーにそんなことを頼むなんて、恥ずかしすぎて絶対に無理だ。

 家で俺がそういう検索をするときは、わざわざルーに頼んで作ってもらったプライベートネットワーク空間に入る。すべての情報を簡単に確認できるルーでも、約束したので、そこの履歴だけは見ていないはずだ。ルーに見られたくない情報を調べたいからプライベートルームを作ってくれ――そう頼むだけで、俺はすでに恥ずかしさで死にそうだった。

 晃久には『むっつり』と言われるが、むっつりで結構。実は、そのあたり完全に突っ走れる晃久をちょっと尊敬している。


 ということで晃久のおかげで、思ったよりも早く俺たちはクラスに馴染んだ。

 そして同じクラスだけではなく、クラス外でも『男子生徒』の友人は増えた。


 女子……? グッバイ俺の高校生活。




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