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Filling Children  作者: 笹座 昴
0章 はじまり
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プロローグ:マザー


 皆さん、聞こえますか?


 私は、『幸福な日本を維持する党』の党首の榊 莉乃羽(りのは)です。本日は日本の皆さまに、日本を待ち受ける『未来』についてお話をするために来ました。よろしくお願いいたします。


 昨年度は出生率が過去最低の1.04を記録し、来年度の2060年には、ついに日本の人口が8000万人を割り込む見込みです。人口8000万人というのは、1948年時――第二次世界大戦終戦後の日本の人口とほぼ同じです。日本の人口は、過去最大だった2008年の1億2,808万人から、おおよそ60年で大きく減少してしまいました。


 減った減ったと言われても、日本の人口はまだ1948年時と変わらない――それだけを聞くと、まだまだたくさんいるように感じられるかもしれませんが、1948年時には5%だった高齢化率が、現在では41%に増加しています。かつては20人に一人だったお年寄りが、今では2.5人に1人と、お年寄りの方々が増えたと言うよりは若い世代の人口が著しく減ってしまいました。


 本日は『高齢者』という言葉を、世界の定義に従って65歳以上と定義してお話させて頂いていますが、30年も前に定年退職制度が廃止された日本では、まだまだ現役で働いている高齢者の皆さまがほとんどだと思われます。

 けれども、若い世代がどうしても必要となる警察や消防などの治安維持活動や、自衛隊を始めとする国防事業では、すでに若い世代の人口の低下が労働力不足、ひいては『質の低下』という深刻な問題となっています。昨今の不安定な国内事情を見ますと、国を守る、人々の生活を守るという、人々の暮らしの基盤となるものに、すでに日本という国が、取り返しのつかないほどの深刻なダメージを受けつつあるのを、国民の皆さまも薄々感じていらっしゃると思います。


 これまでのお話で、「もう聞きたくない」と耳を塞ぎたい方々もいらっしゃると思いますが、ここから本日の本題である『日本の未来』についてお話しさせて頂きます。

 先月内閣府が発表した情報によりますと、今から約40年後の2100年には日本の人口は5500万人を切ると予想されています。5500万人というのは2008年のピーク時の半分以下の人口です。ここまで日本の人口が減ると、道路や橋などの社会インフラはもちろんですが、電気、ガス、水道などの生活インフラも、多くの地方で撤退を余儀なくされます。


 今、私の言葉だけを聞いて、2100年という年数に「逃げ切れる」と考えられた方々もいらっしゃるかもしれません。けれども、お住まいの地域によっては、生活インフラがこれよりも早期に撤退し、慣れた土地からの引っ越しの検討を余儀なくされることも考えられます。



 ここまでは日本国内だけで予測される問題についてお話しさせて頂きましたが、つぎに世界情勢もからめてお話しさせて頂きます。

 日本では先ほどからご説明しておりますように人口が激減していますが、一方で、世界全体で見ると今なお人は増え続けており、2100年にちょうどピークを迎え世界人口は120億人になると予想されています。日本の経済や社会が崩壊し、他国に助けを求めなければならない状況になったとしても、水や食料問題が山場を迎えている世界に、日本を助ける余裕はありません。

 ――いえ世界全体から見て、すでに経済大国ではなくなり、ただの一国家にすぎなくなった日本を助ける利点が、もはやないのだと言い換えてもいいと思います。


 「日本に対して何てことを言うんだ」とお怒りになられる方々も多いと思われますが、本日私がお話しさせて頂いた日本の未来予想は、統計学の中で最も容易といわれる人口統計に基づく確率の高い予測になります。

 なお内閣府では、今後出生率が人工母体システムによりやや回復すると仮定して予測を出していますが、これまで何度も下方修正されてきた経緯から、私は現在の予測よりもさらに悪化するのではないかと考えています。

 出産が可能な若い女性の知り合いなどいない方の方が多いと思いますが、周りを見渡してみますと、日本の数少ない女性たちは、もはや自ら子どもを生み育てようなどという価値観がありません。




 ここにいらっしゃる日本人の皆さま。


 20年後、40年後を見越して今から(・・・)対策を取らないと、日本の未来はほぼ確実に崩壊します。

 明日、何を食べるかにも苦しむ時代がやってきます。



 そんな未来を防ぎ、『幸福な日本を維持する』ために、本日私は一つの提案を日本国民の皆さまにお持ちいたしました。


 世界人口がピークを迎え大混乱が予想される2100年に向けて、日本の社会インフラ、生活インフラだけでなく、国力を維持するために――


 日本で、子どもたちを『人工的に』、生み育てましょう。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 当初、狂っていると評価されたこのスピーチが、一年後、マスコミに大々的に取り上げられ、大きな社会現象となった後――


 俺たち『Filling Children』が、この世界に生まれることに決まった。




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