第7話 ユナとヴィッチ
「何とか日暮れ前に宿場町に着いたな。 やっぱり馬車と違って馬単体だと速さが違うぜ」
馬を走らせて数時間後に宿場町へと到着した俺達は今夜の宿を探して街中を進んでいる。
子供が二人で高価そうな馬に乗っているのは奇妙な光景だったようで道行く人々から何度も振り返られていた。
「私のお尻は…… もう限界です。 ここからは歩きますので降ろして頂けないでしょうか?」
ユナが恥ずかしそうに懇願して来やがったが、昼間にかなり真っ赤になるまで俺が叩いちまったからな。
その状態で長時間の乗馬はさぞやキツかったかも知れねぇ……
それでも宿場町に着くまで弱音を吐かなかったんだから、コイツも根性あるぜ。
「じゃあ、俺も降りるから二人で歩いて行くとするか」
「はい!」
漸く尻の痛みから解放されるもんな、ヤケに嬉しそうにしていた。
先に俺が馬から降りるとユナを受け止める形で続けて降ろしてやる。
馬の手綱を引きながら宿屋まで歩いて行くと入口から従業員が出て来て馬を馬房へと連れて行ってくれると言うので鞍から荷物を降ろす。
そして宿屋のカウンターで受け付けをしたんだが、まさか子供の二人旅だとは思わなかったらしく、受け付けの中年女性もかなり驚いた様子だった。
宿帳には兄妹と言う形で記載しておいたが、ユナの奴は何やら気に入らない様子だった。
屋敷じゃ自分からお兄ちゃんとか呼んでた筈だったよな。
部屋に入ると俺がいるにも関わらず、おもむろに乗馬服を脱いで着替え始め、可愛らしいワンピース姿になるユナ。
何となく俺に対して見せつけているようにも思えるんだが、もしかすると色仕掛けのつもりだろうか?
つるぺたの胸とちっこい尻に何を期待しろって言うんだよ……
そうは言いながらも気になってチラッと見ると思った通りに尻は赤い。
「やっぱり、尻は痛そうだな。 大丈夫か?」
俺に見られていた事を恥ずかしがらず、嬉しそうな表情を浮かべていた。
「痛くて堪らないですの。 私からは見えませんし、薬を塗って頂けませんか?」
小さな瓶に入っている軟膏を鞄の中から取り出したユナが俺の返事も聞かずに手渡して来る。
そしてスルリとパンツを脱いでベッドに横になるとワンピースの裾を掴んでゆっくりとめくり上げて行く。
「薬を塗り易いように下着は脱いであります。 恥ずかしいですが…… 宜しくお願い致します」
俺の前で小さな尻を剥き出しにしてベッドに横たわる幼女。
枕に顔を埋めながら少しだけ横を向いて片目で俺の様子を伺っていやがる。
こんな光景をライリに見られたら怒られるだけじゃ済まねぇよな。
「うふふっ、どうしたのです? もしかして私が怖いのですか?」
「怖い訳ねぇだろう!」
考えて込んじまった俺を嘲笑うかのようなユナにムッとした俺は瓶から手に軟膏を掬い取ると、赤くなっているユナの小さな尻に塗ってやる。
「ああん、冷たい。 でも…… スーっとして気持ちが良いですわ」
随分と熱を持ってやがるな。
こりゃあ、今日の長時間の乗馬はかなり痛かったろうよ。
「ホラッ、終わったぜ! 流石に目のやり場に困るから早くパンツを穿いて尻を隠してくれ」
少し名残惜しそうな顔を見せたユナが立ち上がりパンツを穿くと俺の前にやって来る。
「この様な恥ずかしい姿を日に二度も見られ、更にお尻にも触れたのですからユナはもう他の方に嫁ぐ事は出来ませんわ。 ちゃんと責任を取る覚悟があっての事とは思いますが……」
おいおい、何を言ってやがる。
二度目は完全にお前から頼まれての事じゃねぇかよ。
「いきなり小さな子供と結婚とか言われてもよ。 まぁ、この先すぐに気が変わるかも知れねぇか」
小さな子供の言う事だからな。
軽い気持ちで考えておけばいいか……
「私の思いは変わりませんわ。 この婚約指輪に誓って…… あなたと添い遂げますの」
ラナが左手を俺に見せて来たが、その薬指にはヴィッチの婚約指輪が輝いていた。
サイズも合わねぇからブカブカだけどな。
「お前…… それを黙って持ち出したのか?」
「母上が要らないからあの家に置いて行った物ではありませんか。 娘の私があなたと結婚するのならば、この私が貰っても良いのでは?」
どう言う解釈だよ。
「例えヴィッチが要らないとしても、お前にそれを勝手に持ち出す権利はねぇだろう。 返して来るから俺に渡せ!」
日はすっかり暮れちまったが、夜中には家に辿り着くだろう。
ちょいと面倒だが気付かれる前に戻して来るとするか。
「嫌ですわ! もうこれは私の物ですの」
指輪を握り締めて身体を丸めるユナ。
こりゃあ、取り返すのには骨が折れそうだぜ。
力尽くで取り上げる事も出来るんだが…… それじゃ納得しねぇよな。
「ちゃんとユナの指に合う物を贈ると言ったら? それはお前に贈った物じゃ無いんだぜ。 それでユナは満足なのか?」
俺の言葉にユナが驚いた顔をしていたが、やがて意味を理解したらしく俺に抱きついて来た。
「約束ですわ! 母上の物より素敵な物を下さいませ。 そうしてくれたらユナはあなたの物です。 私の事をいっぱい…… いっぱい虐めて下さい!」
おいっ、ちょっと待て! 今、何か変な言葉を聞いたぞ。
虐めてくれとは一体何なんだよ。
昼間の尻叩きで変なモンに目覚めちまったんじゃねぇだろうな。
「あ、ああ…… 返してくれるのならばな…」
俺は多分引き攣った笑顔をユナに向けていただろうよ。
「じゃあ、俺は指輪を返したらすぐに戻って来るから、ユナは一人で俺の帰りを待ってろ。 分かったな!」
ユナから受け取ったヴィッチの婚約指輪をズボンのポケットに仕舞い込むと俺は旅支度をする。
「はい…… 放置されて焦らされるのですね。 そう考えてみたら…… 案外と悪くありませんわ」
そんな事を言いながら熱っぽい眼差しを俺に向けて来るユナ。
まぁ、大人しく待っててくれるって言うなら良いけどよ…… 何となくコイツの性癖が分かって来たぜ。
宿屋の主人に一度家に戻るがユナを置いて行く事を告げた俺はヘンリエッタに跨ると月明かりを頼りに街道をひた走る。
昔は夜の移動なんかも多かったから慣れたもんだぜ。
でも流石にユナを連れて戻るのは酷だろうからな…… あの尻は少し休ませてやらんと無理だ。
何とか辿り着いたが…… ライリとアンナに気付かれたら一巻の終わりだぜ。
まぁ、そぉ〜っとヴィッチの部屋に置いてくれはいいだけだからな。
流石に起きている奴はいないみてぇだな。
俺は二階に上がるとヴィッチの部屋へと入る。
隣は本来ならアンナの部屋だが俺が死んだ後は寝る際には一階の俺の寝室を使っているから誰もいない筈だ。
ちなみに俺の部屋はクレアが使っていた屋根裏部屋を充てがわれていた。
確かにクレアの部屋にするとは言えなかった頃に子供が出来たら子供部屋にするとか言い訳した記憶もあるがな。
「アレ? 確かテーブルの上に指輪の入れ物があった筈だよな…… ユナの奴め、何処に置いたんだよ」
真っ暗な部屋の中で窓から射し込む月明かりだけを頼りに手探りで探す俺。
「ベッドの方かも知れねぇな……」
そう思って手を伸ばすと何やら柔らかい物に触れる。
「な、何だこれ?」
とりあえず、数回握って確認してみた俺は硬直する。
ちょっと待て…… おっぱいだろ、これ!
「夜這いをかけて人妻の胸を揉みしだくとは…… あまり感心しませんね」
雲間から月明かりが強く射し込み部屋の中を照らすと、ベッドに横たわるヴィッチの姿が俺の目に映る。
なっ、何でヴィッチがいるんだよ!
始めは冷ややかな眼差しを俺に向けていたが、狼狽える俺を見て妖艶な笑みを浮かべていた。




