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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第二章 小さな冒険者と美しき侍女ライリ
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第2話 女豹再び

「はぁ〜っ…… アイツが帰って来てくれたのは嬉しいけど、どうして私の息子になってるのよ……」


テーブルに顔を埋めたまま呟く一人の女性。

今でも忘れられずに愛している彼との間に授かった子供を大切に育てて来たアンナだったが、未だに自分の心の整理がつかない状況にいる。

顔や姿だけでなく、声までも自分の息子のものだと言うのに雰囲気や口調は、昔の彼そのものなのだ。

問い詰めてはみたが彼にも良く分からないらしく、クレアに言われて一か八か自分のお腹の中に飛び込んだと言う。


しかも雪の中での戦いの際に自分が無理をし過ぎたため、お腹の赤ちゃんが命を落としてしまっていた言う事を彼から告げられた時には言葉には出来ない程のショックを受けて、その場に崩れ落ちている。

最期に『ママヲカナシマセナイデ』と言う言葉を聞いたと言われて涙が止まらなかった。

更に自分を失った事で母親を悲しませたくないと言ってくれた我が子の優しさも知ったのだ。


あの日以来クレアの姿が消えたのも、赤ちゃんと一緒に逝ってくれたのだと聞いてクレアには心から感謝している。

きっと今でもクレアが赤ちゃんの魂と一緒にいてくれているだろうとアンナは確信していた。







「おぅ、帰ったぜアンナ。 何か浮かない顔をしてるな」

「アンナ様、ただいま戻りました」


朝食前のランニングに出た俺は邪魔をする悪ガキ共を蹴散らしたまでは良かったんだが、心配になって探しに来たライリに半ば強制連行させられる形で我が家へと戻って来たのだ。


「ううん、何でも無いわ。 でも変な感じね。 姿は私の子なのに、やっぱり雰囲気は私が良く知っているアナタなんだもの」


「そうか…… なんか済まねぇな」


俺の妻になる筈が、母親になっちまったんだから無理もねぇか……

アンナの奴は息子になっちまった俺が言うのも何だが、グッと来るものを感じる程に艶のある美人になりやがったな。

俺の視線に気付いたライリが複雑そうな表情を浮かべていた。

ちょうど三人揃っているし、この機会に話しておくか。


「俺はちょっと王都まで行って来るからよ。 悪いが留守を頼むぜ!」


俺の言葉を聞いたアンナが座っていた椅子から勢い良く立ち上がる。


「何を言ってるのよ! 子供のアナタが何をしに行くって言うの?」


何だが青い顔をしてやがるな。

今度こそ全てを失うかも知れないって思っているんだろうぜ。

その気持ちは分かるが俺には穏やかな生活は似合わねぇからな。


「そりゃあ、冒険者になるために……」

「ダメよ! また死ぬつもりなの? アナタ程の手練れでも呆気なく命を落としたのよ。 そんな姿でやって行ける筈は無いでしょ!」


俺が言い切るよりも早く、アンナに遮られちまった。

まぁ、あの時はかなり酒も入っていたしな。

正直な話、油断していたと言うしかねぇがよ。

だがな、こんな姿でも戦いようはあるんだぜ。


「なら試してみるか? お前の事だ、まだパタは使えるんだよな」


俺を見ながら考え込んでいる様子のアンナだったが、何やら決意したかのように俺を睨み付けて来る。


「勿論、腕は錆び付かせていないつもりよ。 そうね、分かったわ…… やっぱりアナタには力強くで分からせるしか無いのよね」


おいおい、随分と怖い顔をしてやがるな。

その目は本気で俺とやるつもりかよ。

庭に出た俺達は少し距離を置いて対峙する。

アンナは左腕にパタを装着して立っているが、普段俺に見せる顔とは違う、アレは敵を見る冷たい眼差しだぜ。

心の底から俺を止めたいんだろうな。


「じゃあ、そろそろやるか! 俺はいつでもいいぜ…… って、おい!」


俺が開始を告げた瞬間にアンナが一気に間を詰めて来やがった。

獲物を狩る女豹の目をしてやがるぜ。

素早く繰り出す突き技は予想以上に鋭く、俺は剣で弾くのも精一杯だったが、更に手にする剣を跳ね上げようと何度か斬り上げも加えて来やがるから防戦一方の形に追い込まれちまう。


「私に手も足も出ないじゃない。 そんなんでアナタが生き残れる訳無いわ。 大人しく諦めなさい! 仕事ならアナタが大人になったら冒険者ギルドで働けるように前から話してあるの」


「おいおい、人の人生を親が勝手に決めてるんじゃねぇよ!」


そろそろ子離れの時期だぜ、アンナさんよ。

どうやら壁際にまで追い込まれちまったか。

勝利を確信したみてぇな顔をしてるが、それはまだまだ甘いぜ。

俺はバックステップで壁を蹴ると横っ飛びでアンナの側面へと移動して、再び距離を置く。

チッ!とか舌打ちするアンナ。

本気で俺を殺しにかかってるんじゃねぇだろうな……


「さぁ、今度は俺の番だ。 身体が小さくなっちまったから片手剣が両手剣みてぇだろ。 だから戦うにはちょうど良いんだよ」


ブロードソードを前方に突き出すようにして構えた俺は左手を刃の部分の下で軽く支えるように添えてやる。

後の先、カウンターって奴だ。

お前も怒熊やカイルと戦う俺を見て知っている筈だよな。


「ふふっ、乗ってあげるわ。 次で勝負を決めてあげる。 そして…… 私に跪きなさい!」


お前はどこの女王様だよ!

大地を蹴ったアンナが俺に向かってパタを突き出す。

俺もそれに合わせて前に出る。

アンナのスピードを活かして、それよりも早く俺の攻撃を叩き込むのが勝利へと繋がる。

勝負は一瞬、刹那の時間だ。

そして交差する二人の剣士。


「どうよ? 言った筈だろ…… 」


俺の剣がアンナの喉元寸前で止められている。

そしてアンナが左腕を伸ばしているパタの剣先は俺の顔の横だ。


「どうしてよ…… 私は二度とあんな思いはしたく無いわ! アナタは何でまた冒険者なんか目指すのよ……」


アンナが崩れ落ちるように膝をついて涙を流していた。


「ライリちゃんもそれでいいの? またあの時みたいな悲しい思いをしたいの?」


アンナが黙ったまま俺達の戦いを見つめていたライリに問い掛ける。


「私はご主人様を信じています。 だって…… 約束通りに私の元に帰って来てくれましたから」


ライリは軽く微笑みながらアンナへと自分の思いを口にする。

それを聞いたアンナは俯いたまま暫く何か考えているかのようだったが、深い溜め息を吐いた後に俺の方へと顔を向けた。


「いいわ…… だったら私も冒険者に復帰する! アナタ一人じゃ不安だもの…… それが条件よ、文句は無いでしょうね?」


おいおい、母親同伴の冒険者とか聞いた事もねぇぞ?

以前はロリコンとか呼ばれた俺だったが、今度はマザコンとか呼ばれかねねぇよ。


「ちょっと待ってくれよ…… いくら何でも……」

「いいわね?」


ダメだなんて言えねぇ…… 身体が逆らっちゃいけねぇって告げてやがる。

母親を本能的に理解しているんじゃねぇか?


「……ああ。 宜しく頼む」


「本当に馬鹿なんだから!」


満足そうな笑みを浮かべて立ち上がったアンナが俺を抱き締めて来やがったが、馬鹿はねぇだろうよ。

そんな俺達をライリが嬉しそうに見ている。

漸く俺は懐かしい我が家へと帰って来れた気がしていた。



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