第84話 アンノウン伯爵
俺のライリとの絆が招いたのは国王陛下との出会いだけじゃねぇ、アンナとの復縁もそうだ。
ヴィッチやクレア、マリンとの出会いもライリがくれたと言っても過言じゃねぇ。
そんな俺達の前にランス国王陛下がいるのも全て俺の横にいるライリのお陰って事になる。
「いつまでも領主不在のままではいかんだろうと旧伯爵領と旧侯爵領の再編を考えているのだが、儂は其方にも新たな領主になって貰いたいと考えているのは今も変わらん。 他の貴族の手前、接収した全ての領地を授ける事は出来ぬが、双方の領地の一部を任せたいと思うがどうだ?」
思った通りに貴族への誘いか。
隠し子の隠し子とは言え、マリンは国王陛下の孫だからな。
それを妻に迎える俺を放っておく訳はねぇだろうよ。
「俺に領主が務まるとは思えねぇ、です」
言葉遣い一つに関してもこれだからな。
アンナの奴め笑いを堪えてやがる。
俺が貴族になった日にはお前だって貴族夫人なんだからな…… その時に青い顔したって俺は知らねぇぞ。
「以前に子爵位とヴィッチの助命を引き換えにして断られたが、今回は伯爵として迎えようと思っておる。 それならば文句はあるまい」
ただの冒険者に伯爵位とは豪気な国王だぜ。
俺は皆へと視線を送るが、どいつも無言で頷いているな。
やってみろって事か。
「ヴィッチよ、孤児院の教師も良いが己の才覚を惚れた男のために活かしてみたいであろう。 ヨハンと共に婿殿を盛り立ててみてはどうか?」
流石はヴィッチを手玉に取った国王陛下だぜ、既にそんな事も知ってるって訳か。
ヴィッチは権謀術数に長けた奴で女郎蜘蛛なんて呼ばれていたが、もうアイツにはそんな思いはさせたくは無い。
「お言葉を返すようで申し訳ありませんが、私は一人の女として彼の傍にいる事を選びました。 もう女郎蜘蛛と呼ばれた女は存在致しません」
ヴィッチも俺の思いを察してくれたようだ。
満足気に俺に微笑みを向ける。
それでいい、お前は幸せになるべきだからな。
「ならば何も言うまい。 さて…… どうするかね婿殿?」
国王陛下が俺に決断を迫る。
こうなったらやるしかねぇか?
逆にみんなに苦労をかける事になりやしないだろうか?
悩む俺の手をライリが握り締めてくれる。
お前はいつだって俺の味方だからな、勇気をくれる最高の女だよ。
ライリが傍にいてくれるなら、俺は何だって出来る筈だ。
「謹んでお受けする。 ランス国王陛下!」
俺は床に片膝をついて礼を尽くす。
「其方は平民ゆえ、姓を持たぬ筈だったな。 如何に名乗るつもりだ?」
おいおい、そんな事をいきなり言われてもよ。
しかし…… 後世に残る大切な名前だからな。
俺の頭の中に、ある名前が思い浮かぶ。
「アンノウン伯爵。 響きは悪く無い筈だと思う」
親父とお袋…… 二人の名前を貰うぜ。
「ほぅ…… 不思議と其方には合う気がしてならんな。 良かろう、アンノウン伯爵。 ハイランド王国国王、ランス・ハイランダーの名の下に命じる。 見事、新たなるアンノウン伯爵領を治めてみせよ!」
こうして俺は貴族へと成り上がる事になる。
領地についてだが、北は旧侯爵領にある俺の家がある町を北限として南は旧伯爵領の海を望む地域までと南北に伸びてかなり広い。
旧侯爵領の北部と旧伯爵領の東西は新たに任命された貴族達に与えられるらしい。
だが俺には伯爵としての豪華な屋敷なんていらねえよ。
俺にはみんなとの思い出の詰まった大切な家があるんだからな。
今は帰れないが、あそこがアンノウン伯爵邸だ。
「近い内にヨハンやマリンの事は恥を覚悟で国民に公表するつもりだ。 思う所があるのは分かっているつもりだが第一夫人としてマリンを選ぶ事は承知して貰いたい。 そうでなければ周囲に示しがつかんからな」
ランス国王陛下が言い難そうに俺に告げる。
アンノウン伯爵として忠誠を誓う俺には断われる訳は無い。
一介の冒険者の俺が伯爵になるんだから対外的にはマリンを表面に押し出すしかねぇんだろうが他の奴らの思いは複雑だろうな。
済まねぇとしか言いようが無い。
気になってみんなを振り返る俺のだったが、予想外に穏やかな雰囲気だった。
コイツらにも絆って奴があるんだと知る。
「マリンと其方との挙式は春に国を挙げて盛大に執り行うつもりだ。 他の者との式は其方の一存で先に行っても構わん。 せめてもの計らいだ」
国王陛下の粋な計らいに俺は感謝する。
だったら、まずはアンナと式を挙げてやらなきゃな。
ヴィッチも待たせる訳にはいかねぇよな。
クレアも仲間外れには出来ねぇか。
問題はライリだ。
この国じゃ成人する15歳から結婚が認められているからな。
あと5年も一人だけお預けなんて辛過ぎるだろうよ。
「国王陛下、一つだけ俺の我が儘を聞いて貰えないですか?」
俺はコイツのためなら何だって出来るって事を証明してやる!




