第80話 アンナの妊娠 ライリも妊娠?
「おいおい、これが使用人用の家かよ。 一生懸命稼いで買った俺の家が霞んで見えるぞ」
昨日の夕方から降り始めた雪は夜半には勢いを増し、朝には辺りを真っ白に染めていた。
つまり俺達の王都残留が決定したって訳だ。
そしてマリンの案内でジーニアス準男爵から許可を得た使用人用の家とやらをみんなで確認に来たのだが、予想外の大きさに驚いていた。
「以前仕えていた使用人が家族で住んでいたそうなのですが、辞めてしまい暫く使用されていなかったそうです」
勿体ねぇ話だな。
マリンの話によると現在屋敷で働いている若い使用人達は屋敷内で住み込みとして働いている者が殆どで、それ以外は通いで働いているらしい。
「中を見てみようぜ。 部屋割りも考えなきゃならねぇしな」
俺達は玄関を開けて中へと進む。
居間には大きな暖炉が設置されているから寒い日には重宝しそうだぜ。
中央部分にある居間の上部は吹き抜けになっていて、二階にはそれを取り囲むように合計で四部屋ある。
一階には二部屋あるから人数分は確保出来るんだが、一部屋だけ他の部屋よりも広い事から使用人夫婦が使っていたんだろうな。
置いてあったベッドもダブルベッドなのはデカイ俺にはありがたい。
ここは俺が使わせて貰うとして、その隣はライリになるだろう。
二階の部屋よりも狭いし、元々小さな子供部屋として使ってたみたいだしな。
「とりあえず一通り見てみたが申し分ないよな。 何だかお前達の部屋割りは早かったけどよ」
ライリ以外の四人がスタスタと二階に上がったかと思うと、それぞれ別々の部屋を覗いて即決しやがった。
まぁ、楽でいいんだけどな。
大きな暖炉のあるリビングに集まった俺達は休憩とばかりにソファーに腰を下ろしていた。
そんな俺達はアンナから驚く話を聞かされる事になる。
「あのね…… みんなも集まってるし、話しておきたい事があるのよ。 もしかしたら赤ちゃんが出来たかも知れないの」
赤ちゃんが出来たと言うアンナの発言に皆が驚愕する。
当のアンナはお腹に手を当てており、もしかしたらと言いながらも確信に近いものを感じているようだ。
「な、何だと! それって…… 俺とのか?」
アンナにジト目で見られる俺。
「当たり前でしょ…… 来る筈の月のものがまだ来ないのよ。 最近の体調が少し変なのを考えると、やっぱりそれしか無いかなぁって思うの」
確かにザクセン公爵領にアンナと二人で行った際、身に覚えはあるけどよ。
アンナに襲われたんだよな…… 俺。
「時期的にザクセン公爵領へと二人で行った時でしょうね…… 身に覚えがあるのでしょう?」
ヴィッチが俺に問い掛けて来るが、怒っている感じはしねぇな。
「ああ…… あるぜ。 一度だけだが、まさかな……」
いきなり命中しなくてもいいだろうよ。
「えっと…… ご主人様がアンナ様とキスをしたって事でしょうか?」
えっ? と言う感じで皆が小首を傾げているライリを振り返った。
コイツは多分どうしたら赤ちゃんが出来るかを知らなくて、キスしたら出来ると思ってるんじゃねぇか?
だとしたら…… 昨日俺と良くキスしたよな。
俺の子を妊娠してもいいって思ったのか?
「お互いに本気のキスをしたら赤ちゃんが出来る事があるって侍女組合での採用研修の時に組合長から教わったのですが……」
あの組合長も流石に9歳の子供に本当の事は言えなかったみてぇだな。
ライリの奴が唇に指を当てながら俺を上目遣いで見てやがるぞ…… 昨日のキスを思い出してるんだろう。
まさか俺も本気だったら自分にも赤ちゃんがって思ってねぇか? それ以前にライリには初潮すら来てなさそうなんだがな……
「ま、まぁ…… そんな所なのよ。 まだハッキリとはしてないけど暫くは安静にしていたいって言っておきたくて」
ライリの勘違いについてはアンナも少し困ったみてぇだが、言いたい事は分かったよ。
そうなると無理に出発して寒さに凍える遭わせなくて良かったぜ。
妊婦に良い影響な訳ねぇからな。
『おめでとうございます、アンナ様。 妊娠に間違いありませんわ。 良く見るとアンナ様から小さな生命反応が別に感じられると言う事が何よりの証拠ですの』
流石は幽霊のクレアだな。
生命反応とかが感じられるのか…… 確かにアンデットなんかは生きている奴を探して襲いかかって来るのはその能力からか。
まぁ、今はそんな事は置いておくとして……
「おめでとうアンナ。 驚きのあまり祝いの言葉すら忘れてたぜ。 それと…… ありがとな。 元気な子を産んでくれよ」
「うん…… ありがとう。 アナタにそう言って貰えたら嬉しいわ」
アンナの奴、涙ぐんでやがるが幸せそうに笑ってるぜ。
「おめでとうアンナさん。 先を越されてしまったけれど、私も負けないわ」
「旦那様…… 私もいつでもバッチコイであります! あっ、アンナさん。 おめでとうございます!」
ヴィッチとマリンがお祝いの言葉を口にしていたが、マリンに至っては俺へのアピールの方が先に来ちまってるじゃねぇかよ。
そして自分達も子供が欲しいとばかりに俺を熱い眼差しで見てやがる。
「アンナ様、おめでとうございます。 元気な赤ちゃんが産まれるように祈っています。 私にも赤ちゃんが出来ると良いのですが……」
おいおい、ライリがお腹を押さえながら、とんでもねぇ事を口にしてやがるぞ。
それは絶対に無いからな!
一斉に俺へと皆の視線が集まる。
お前ら…… そんな白い目で俺を見るんじゃねぇよ。
俺はまだライリとはやってねぇ!




