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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第一章 大剣使いの冒険者と小さな侍女ライリ
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第8話 俺が勝てない存在

「チッ、とうとう大剣にヒビが入りやがった! コイツをぶった斬るまで保つのかよ?」


数々の死地を共に戦って来た俺の大剣にも寿命が来たらしい。

巨大な斧を持つミノタウルスを相手にしていた俺が強烈な斬撃を大剣で受け続けると言う愚行を犯したからだ。

そうでもしなければ対峙出来ないパワーとスピードがコイツにはある。

男は嬲り殺し女を陵辱する残虐な怪物として有名なコイツが俺が暮らす侯爵領に現れたのは最近の事だ。

少なからず侯爵領の住民にも被害が出ており、最近名の売れている俺を名指しで指名した討伐依頼が来た訳なんだが、こんな奴を放っておいてライリやアンナが襲われでもしたら堪らないから二つ返事で引き受けたんだが…… かなり危険な戦いになっていた。


「この野郎… いい加減にくたばりやがれ!」


俺の攻撃は確実に奴の命を削っている筈なんだが、未だに底が見えて来ない。

いくつもの傷を負わせながらも致命傷を与えられていないのは一目瞭然だろう。

そして遂に俺が恐れていた事態が起こる。

奴へのトドメとばかりに振り下ろした一撃の狙いが逸れて奴の頭の角に当たっちまった。

軽い脳震盪を起こしたヤツが漸く大地に膝をつく。

しかし… その代償としと大剣が中央部分から鈍い音を立てて折れたのだった。


「ブモォーッ!」


ヤツも自慢の角を俺に片方折られた事で怒りに震えていた。

更に俺の武器が折れた事を知っての勝利を確信しての雄叫びなのかも知れない。

まだ足に来てる今ならチャンスはある!


「おらぁっ! 剣が折れても俺には… この腕があるんだよ!」


ミノタウルスの背後に回り込み、渾身の力を込めて首を捻る。

先程の脳震盪の影響で本来の力が入らないらしく俺の手を振り解こうともがくだけだ。

ゴキンと言う音と共にあらぬ方向へと曲がるヤツの首。

流石に首の骨が折れてまでは生きていられなかったようだ。


「お見事です! 此度の事は侯爵様もさぞ喜ぶ事でしょう!」


依頼の見届け人として同行して来た侯爵様とやらの使いが姿を現わす。

今まで何処に隠れていやがったんだ。

まぁ、いい… 早く帰らなきゃな… 家でライリが待ってやがるからな……

立っていられたのもそこまでで、俺は意識を失った。






「ご、ご主人様! ご主人様!」


おいおい、なんて顔して泣いてるんだよ。

馬車の荷台に寝かされたまま運ばれている俺の横を縋りつくようにして泣きながら走るライリ。

馬車は二台で先頭を行く一台には俺が横になったまま乗せられ、後のもう一台にはミノタウルスが乗せられて冒険者ギルドに向かい街中をゆっくりと走っていた。

まるで俺も怪物扱いじゃねえか!


「おいっ! 馬車を止めやがれ!」


俺の怒号にビビった御者がすぐに馬車を停車させる。

このままライリを泣きながら走らせる訳にもいかんだろ…

俺は上半身だけを起こしてライリを馬車の荷台に引っ張り上げると再び横になる。

今の俺にはそれが精一杯だったからだ。


「へへへっ、今回は随分とボロボロで驚かせちまったみたいだな。 済まない、ライリ」


涙を流しているライリを慰めてやろうと頭に置こうとした俺の手だったが血塗れな事に気付いて引っ込める。

それを見たライリがそっと俺の手を掴んで頬に擦り寄せる。


「ご主人様が生きて帰ってくれた事が心の底から嬉しいです。 でも無理はしないでください……」


血に塗れた俺の手を気にもせずライリは小さな手で掴んでいた。

その温もりが今は心地良い。

冒険者ギルドに到着するとアンナも慌てて駆け寄って来たが、人の事を散々馬鹿扱いしやがって…… でも何もそんなに泣く事は無いだろう。

そうか…… 俺は簡単に死ぬ訳にはいかなくなっちまったんだな。

こうやって泣かせるのが嫌で、ずっと一人でいるつもりだったんだが…… もう遅いみたいだ。







「ご主人様! 暫くは私の指示に従って絶対安静です。 分かりましたね?」


なんか大袈裟じゃないか? 身体中包帯だらけでまるでミイラ男じゃねぇかよ。


「ご主人様…… ちゃんと私の話を聞いているんですか? わ・か・り・ま・し・た・ね!」


おいおい、ちっこいのに随分と凄い迫力だぞ。

なんか顔は笑ってるけど… 目だけが笑ってない。


「……はい」

「素直で宜しいです」


漸く満面の笑みを浮かべるライリ。

ライリの方がミノタウルスより怖えよ。


「ん? 何か言いました?」


お、おいっ! そこは傷口だぞ。

ニコニコ微笑みながら肩をグリグリしないでくれ! お前、俺の心の声が絶対に聞こえてたろ?




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