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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第一章 大剣使いの冒険者と小さな侍女ライリ
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第75話 親父とお袋

家に入った俺達はすっかり夕食の支度が終わっている事に気付く。

ライリなんかは手伝わなかった事をバツが悪そうにしていたが、気にする事はねぇよ。

俺の所に行けって言われたんだからよ。


賑やかな女性陣は食卓テーブルを囲み、俺と親父の二人は居間にあるソファーに座り小さなテーブルを前に向かい合うように酒を酌み交わす。

まぁ、お互いにずっと無言だがな……

話すきっかけが掴めねぇよ。


「義父様、宜しかったら私にお酌させて頂けませんか?」


俺達の様子を見兼ねたライリがやって来てくれたみてぇだ。

グッと酒を飲み干すとライリに向けて空になった盃を差し出す。

ライリがそれを見て嬉しそうに酒を注ぐ。


「ライリさんと言ったな。 歳はいくつになる?」


酒が注がれていく盃を見ながら親父が問う。


「今はまだ9歳ですが、来月には10歳になります。 ふふっ、若い事で驚かせてしまったでしょうか? ご主人様には貧しい孤児院で暮らす私を住み込みで侍女(メイド)として雇って頂き感謝しています。 更に私の願いを聞き入れて大人になった暁には結婚して下さるとまで言って下さり、今は毎日を幸せに暮らしています」


親父は酒が注がれた後もライリが答え終わるのを待ってから盃を口にしていた。


「そうか……」


答えたのは…… ただそれだけだった。


「さぁ、ご主人様もどうぞ! お好きなお酒が飲めるのですから、もっと嬉しそうな顔をして下さいませ。 それとも私のお酌では不満だとでも言うのでしょうか?」


ライリが俺にも酒を勧めるが、親父の時と随分違うじゃねぇか。


「い、いや…… お前がしてくれるなら満足に決まってるだろうが! ライリ、頼む!」


何か機嫌が悪いのか?

俺は頭を下げながら盃を持った腕をライリに向けてグッと差し出す。


「うふふっ、それなら仕方がありませんね。 お酌してあげると致しましょう」


良く分かんねぇ奴だな。

嬉しそうに酒を注いでくれてるんだがな……


「ハハハハハッ!」


いきなり親父が声をあげて笑い出しやがったからみんなの視線が集まる。


「あらあら、そちらも随分と楽しそうね。 ライリちゃんが可愛らしくて仕方がないのでしょう? そんなに嬉しそうにするなんて少し妬けてしまいます」


お袋も親父が笑うのを見るのは久しぶりなんだろうな。


「ライリさんは幸せなんだな?」


盃を置いた親父がライリに問いかける。


「はい、幸せいっぱいです!」


満面の笑みを浮かべるライリ。


「アンナさん、ヴィッチさん、クレアさん、マリンさん。 アンタ達もそうなのか?」


親父が皆の方を向いて問いかけた。

家に帰って来た親父にお袋がみんなを紹介してくれたんだが、やはり親父にはクレアの事は見えなかった。

その時にお袋に頼まれて親父にも死霊使いの指輪に触れさせておいてある。


「勿論、幸せです。 長い間思い続けて、やっと私に振り向いてくれたんだもの」


(わたくし)も同じ思いです。 今度こそ偽りでは無く本当の幸せを掴んだ気がしています」


『私はご主人様の身体に触れる事も出来ない身ですが、心で触れ合っていると感じる時が堪らなく嬉しくて…… 本当に幸せですわ』


「私も幸せであります! この思いは生涯変わる事は無いと、ここに宣言します!」


一人一人の答えを頷きながら聞いていた親父が俺の方へと向き直る。


「俺はアンの奴一人を幸せにしてやるだけで精一杯だった。 お前は五人の女性を幸せに出来るのだから随分と立派になったもんだな。 だが世間はそうは思わんぞ? 誹謗中傷に晒される事だろう。 お前はそれでも皆を幸せにしてやれるんだな?」


ただの女誑(おんなたら)しだと言われても俺は構わねぇよ。

俺と一緒にいる事がコイツらの願いなら叶えてやりてぇからな。


「ああ、みんなまとめて幸せにしてやる。 コイツらを誰が見ても幸せそうな顔をしているって思うようにしてやりゃあいいんだからな」


俺の目を真っ直ぐに見詰めていた親父の表情が僅かに緩んだ気がした。


「なら、俺は何も言わん。 ホラッ、飲め! ライリさんのお酌で無ければ嫌か?」


口元をニヤリとさせた親父が酒瓶を俺に向けて来る。


「そんな事はねぇよ、親父。 貰うぜ」


俺は面と向かっては父さんとしか呼んでいなかったが、生まれて初めて親父と呼んでみた。

言われた親父も一瞬だけ眉を動かしたが、満更でも無さそうた。






「親父、寝ちまったか。 酒も弱くなったみてぇだし…… 老け込んだよな」


親父の引き上げた寝室の方に目をやりながらお袋に話し掛ける。


「そうね、お互いに歳をとったわ。 私達が生きている内に孫を抱かせて欲しいわ」


そうだな…… そうかも知れねぇ。

俺はそれには無言で頷いて応えておいた。


「なぁ、お袋は諜報部員だったんだろ? どうして親父と結婚したんだよ」


もう…… 母さんもお袋でいいだろう。

俺には二人の馴れ初めが気になってしょうがなかった。


「あの頃は隣接するアクバル帝国が不穏な動きを見せていたの。 だから国境沿いにある辺境伯領でも端に位置するこの村を任務で度々訪れている内にあの人と恋に落ちたのよ。 あの人は私を行商人だとでも思っていたみたいね。 真っ直ぐなあの人が汚い裏の世界を見て来た私には凄く眩しかったわ。 アナタの婚約者達と同じ、彼と一緒にいると幸せだったの」


そう言う事か…… 分かる気がするぜ。


「なぁ、春になったら二人で旧侯爵領の俺の家に来てみないか? 歓迎するからよ」


この辺りも冬になれば雪に覆われるからな。

春になれば運行を中断してた乗り合い馬車も動き出す。


「そうね、そうさせて貰おうかしら。 可愛い娘達にも会いたいものね」


そう言って微笑んだお袋は嬉しそうにしていた。

俺とお袋が語らう姿を見たライリ達は邪魔をしないように離れて会話をしてくれている。

本当に良く出来た奴らだよな。

俺には勿体無いくらいだぜ。

明日には我が家に帰らなきゃならねぇだろう。

冬の足音が今にも聞こえて来そうだからな。

俺は故郷にコイツらと訪れる事が出来た事を心から感謝していた。




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