第74話 重なり合う影のように
十数年ぶりに生まれ故郷に戻って来た俺は一人で近所を散策する事にした。
家に居ても女達が集まって盛り上がってやがるから居辛いって言うのが一番の要因だ。
「やっぱり変わらねぇな。 山々も冬が近いから紅葉も終わりって所か…… ガキの頃はあの辺りを良く走り周ったもんだがよ」
懐かしさのせいで大分感傷的になっちまってるのか、秋だって言うのもあるのかも知れねぇが少し寂しい気がするぜ。
こんな気持ちになった事は無かったんだがな。
ライリと出会わなかったら俺は今も一人であの家で暮らしていたんだろうか。
そんな自分の姿を想像するだけで、更に堪らない気持ちにさえなっちまう。
俺の心が弱くなったんだろうか?
「ご主人様! こちらに居られたのですか。 少し探してしまいました」
ライリが息を切らせて駆け寄って来る。
そして自然な流れで俺の手を握ると嬉しそうに俺を見上げて笑みを浮かべる。
本当にコイツは凄えよ…… 俺が寂しいって思ってたらやって来てくれるんだからな。
「どうしたんだ? 何かあった訳じゃないよな」
やって来たのはライリだけみたいだしな。
「義母様が私にご主人様の所に行ってあげなさいって言って下さったのです。 私が少し落ち着きが無かったのに気付かれたのだと思います。 何となくご主人様の傍に居なくてはいけない気がして…… ご迷惑だったでしょうか?」
迷惑なもんかよ…… 心の底から嬉しいぜ。
「いや、やっぱりライリは凄えなって思ったよ。 何かよ…… 十数年ぶりに生まれ故郷に帰って来て嬉しいはずが寂しさが先行しちまっててさ。 俺の故郷はもうここじゃない気もしてた。 ライリやみんながいるあの家が俺の居場所だからな。 お前が来てくれて…… 今ハッキリと分かった」
俺は腰を下ろすとライリを抱き締める。
「ご主人様、急にどうしたのですか?」
ライリも俺の急な行動に驚いたみたいだが、躊躇いがちに背中へと手を回してくれる。
「済まねぇな。 少しだけこうしてていいか?」
情けねぇな…… 大の大人がよ。
でもコイツは俺の思いを全部受け止めてくれる大きな奴だから、つい甘えちまうんだよな。
心が弱くなったって思ったが、それだけじゃねぇ筈だ。
俺はコイツを守るためなら何だって出来る気がするからな。
「はい、ご主人様が満足するまでいくらでも。 ふふっ、でも誰かに見られても私は知りませんからね」
た、確かにそうだな。
幼馴染みとかに見られでもしたら狭い村だし、どんな噂が広まるか分かったもんじゃねぇぞ。
俺は慌ててライリから身体を離して立ち上がる。
「もう…… ご主人様の意気地無し。 そこはそんな事は気にしねぇとか言ってギュッと抱き締めてくれる所ですよ」
ライリが悪戯な笑顔を浮かべながら口にしたのは、きっとコイツが望む本心だろう。
「済まねぇ…… 今はこれで勘弁だ」
辺りを見渡してから苦笑いを浮かべた俺は再び屈んでライリを軽く抱き締めてから額にキスをする。
「はい。 許して差し上げます」
満足げなライリに対して左手を差し出す。
ライリがスカートの裾を摘んで可愛らしくお辞儀をすると微笑みながら俺の手を握ってくれた。
家へと向かって歩き始めた俺達の影が地面へと伸びているのに気が付いた俺は目でそれを追う。
その影は時に重なり合い、そして離れて行くのだが繋がった手と手の部分は決して離れず、最後にはまた重なり合う。
俺もこの影のようにコイツと一緒にいようと心に誓う。
俺とライリが家の近くまで戻ると玄関先に誰かが立っているのに気付く。
どうやら戸惑っているようにも見える。
庭には二頭の馬まで放されているからな。
しかも家の中から楽しそうな女性達の笑い声がここまで聞こえて来てるんだからよ。
「んっ、誰かが家の前に立ってるが…… アレは親父か?」
十数年ぶりに見た親父は髪も白くなり全体的に痩せた感じに思える。
かなり老けたんだな…… そりゃあ俺も歳をとる訳だぜ。
親父も俺には気付いたらしくコチラを見ているが、その視線はライリにも向けられていた。
俺は思い切って声を掛けてみる。
「久しぶりだな、父さん。 家の中にいるのは俺の大切な家族だよ。 会って貰えるかい?」
会えた事を心の底から嬉しそうにして、親父の前へと駆け寄って行くライリ。
そしてペコリ可愛らしくお辞儀をする。
「初めまして、義父様。 私はご主人様の婚約者でライリと申します。 どうか宜しくお願い致します」
「な、何だと!」
親父もライリの挨拶に度肝を抜かれたらしい。
驚くのは無理もねぇよな…… 幼女だぜ。
コイツが婚約者だとしたら、家の中にいるのは誰なんだと思うだろうよ。
頑固者で曲がった事が大嫌いな性格だからな。
覚悟はしてやって来たが結婚相手が五人いるとか話したら、ちょっと面倒な事になりそうな気がして来たぜ。




