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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第一章 大剣使いの冒険者と小さな侍女ライリ
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第65話 勉強だけは勘弁な

俺はヴィッチがいる場所に案内すると言うライリに連れられて町を歩いていた。

何やら楽しそうなライリと一緒にいるからか、こっちまで楽しくなって来る気がするな。

案内された先は驚くような場所では無く、ライリが育った孤児院だった。

今にも崩壊しそうだった以前の面影は無く、煉瓦造りの立派な建物に変わってるぞ。

これなら俺が体当たりしても壊れねぇな。

まぁ、しねぇけどよ……


「おおっ、中々立派になったな。 ここにヴィッチがいるのか? もしかして孤児院の手伝いでもしてる訳じゃねぇよな?」


アイツが家事とか出来るとも思えねぇんだが……

ウチに初めて来た日に散々やらかした挙句、ライリに叱られて項垂れてたからな。


「ご主人様…… しぃ〜っ」


ライリが口元に人差し指を立てて静かにするように合図して来やがった。

随分と可愛らしい仕草じゃねぇか…… ちょっとドキッとしちまったぜ。

でも一体何なんだ…… 玄関じゃなくて庭の方へ回るみてぇだぞ。

そして部屋の中を窓からそっと覗いて確認すると軽く微笑んでいた。


「何があるんだ?」


気になって中を覗くと沢山の子供達に勉強を教えているヴィッチがいた。

普段見せないような優しげな笑顔で楽しそうにしてやがるじゃねぇか。

ヴィッチ先生とか呼ばれて嬉しそうにしているんだが……

そうか…… もう女郎蜘蛛と恐れられた女はいねぇんだな。


「ヴィッチ様から何か人の役に立つ事がしたいと相談を受けたのです。 それならばと孤児院で子供達に勉強を教えて貰えないかとお願いしたんですけど、流石は侯爵だった方ですね。 教養もあり頭も良いのですから、これ程先生として適任とは思いませんでした」


「ああ、あの笑顔を見たら俺もそう思うぜ。 子供達だけじゃねぇ、ヴィッチもいい顔してやがるな」


俺は黙って居られずにガラッと勢い良く窓を開けてやった。

驚いたのは子供達だけじゃねぇ、ヴィッチも目を丸くしてやがる。


「ヴィッチ先生、中々似合ってるぜ! そんな笑顔を見せられたら子供達だけじゃなくて、俺も惚れちまいそうだ。 これからも子供達の事を宜しく頼むぜ!」


お前には豪華な椅子に踏ん反り返って座っていた頃よりも、今の方が断然似合ってるからな。


「んもぅ、授業の邪魔です。 冷やかすのは止めてください。 ふふっ、そうだわ! 良かったら子供達と一緒に授業を受けてみませんか?」


俺に見られていた事を知って恥ずかしそうにしていたが、何だかとんでもねぇ事を提案して来やがったぞ。

俺が勉強なんか出来る訳ねぇだろ!

ガキの頃からサボりの常習犯だったからな。


「悪い…… ちょっと急用を思い出しちまった。 行くぞ、ライリ!」


慌てて逃げだそうとする俺のシャツをグイッと引っ張るライリ。

その顔は笑ってるんだが…… 目だけが笑ってない。

このパターンは前にもあったぞ。


「誰が誰に惚れちまうんでしょうか?」


こりゃあ怒ってるぜ、絶対に怒ってる。


「何の事だか…… サッパリ分からんな。 誰かそんな事を言ったのか?」


こうなったら誤魔化すしかねぇだろ。

あ、ライリの眉間のあたりに皺が……

更に怒らせちまったみてぇだ。


「ご主人様は大丈夫でしょうか? ほんの少し前の記憶すら無くなるなんて、普段から頭を使っていない証拠です。 こうなったら一緒にヴィッチ先生の授業を受けて行くとしましょう」


「いや、俺は勉強は……」

「何か不満でも?」


ダメだ…… 言い訳すらさせて貰えねぇ。

嫉妬深いのはアンナだけじゃ無かったのか……

俺の隣にいるのはアンナと変わらねぇ、一人の女性って事か。

にこやかなのは顔だけで心の中は正反対って言うのは怖えよ…… 俺はこれが苦手なんだよ。

きっと俺は一生ライリには頭が上がらねぇんだろうな……






「ヴィッチ先生、今日もありがとう!」

「先生、今度はいつ来てくれるの? 明日?」

「ヴィッチ先生、これ私が描いた先生の似顔絵なの。 先生にあげる!」


授業が終わった後もヴィッチ先生は大人気だ。

俺はと言うと…… 燃え尽きたぜ、もう頭の中が真っ白になってやがる。

机にもたれ掛かるように突っ伏していた。


「……ご主人様、大丈夫ですか? まさか、そこまでとは……」


子供達に混じって授業を受けている間も緊張して終始ガチガチになっていた挙句、ヴィッチ先生からの質問にも全く答えられず子供達から笑われる始末だった。


「ああ…… 少し休めば回復するだろうぜ」


流石のライリも心配そうに俺を見ていた。

顔を上げると子供達に囲まれたヴィッチが嬉しそうに笑ってやがる。

まぁ、良かったんじゃねぇか…… 俺は再び机に額をつけて深く溜め息を吐く。


「ねぇ、ヴィッチ先生。 僕が大きくなったら結婚してよ!」


何だか前にも聞いたようなセリフだな……

気になって顔を上げてみれば、アイツは前にもライリにプロポーズしてたマセガキじゃねぇか。

困ったように俺を見るヴィッチ。


「ごめんなさい。 気持ちは嬉しいけど…… 既に私は身も心も…… あの人のモノなのよ…… ああんっ」


恥ずかしそうに両腕で自分の身体を抱き締めながら色っぽく反らして俺を見るんじゃねぇ!

それは子供達に見せちゃダメな奴だわ。

断られたマセガキが、また俺を睨んでやがるぞ…… リア充死ねって目をしてるな……

ライリが俺に向けている視線が突き刺さるくらいに痛い気がするのは気のせいじゃねぇよな。

いつの間にか現れた孤児院の院長も俺を冷え切った目で見てやがる。





ヴィッチ先生の本日の授業も終わったと言う事で、揃って我が家への家路に着く俺達。


「先生も中々板に付いてたじゃねぇかよ。 侯爵だった頃よりも生き生きしてたぜ」


「そうかも知れませんね。 子供達の相手をし始めてからは毎日が充実している気がします。 これも全てライリさんのお陰です」


マリンは呼び捨てなのに、ライリは"さん"付けとは随分と買ってるんだな。


「いいえ、何か人の役に立ちたいと行動に移したのはヴィッチ様です。 素敵だと思います」


ライリがそう言うなら本物だろうぜ。

何て言っても人を見る目がある奴だからな。


「まぁ、本当に…… そのだな…… 良かったよ」


今まで下心やお世話抜きで褒められた機会が無かったんじゃねぇかな。

本当に嬉しそうな顔をしやがるからコッチが照れちまうぜ。


「ふふふっ、最初に会った時には殺してしまおうと思っていたなのに…… こんなにまで恋い焦がれるようになるなんて不思議な気持ちです」


やっぱり殺そうと思ってたのかよ……

ライリが呆れて溜め息を吐いてやがるな。


「今は…… ずっと傍にいて欲しいと心の底から思っています。 ライリさんの前だからこそ言わせてください。 彼女に隠れて貴方に言うのは裏切るようで嫌だから…… 私は貴方を愛してます!」


ライリが横にいる状況だと言うのに、いきなり俺へ愛の告白をして来たヴィッチ。

そんな衝撃的な場面にライリが黙ったまま俺の手を握って来る。

俺を他の奴に渡したく無いって事か?

全く…… どうすりゃいいんだよ。




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