第63話 真剣勝負
「何をコソコソと話をしているのだ。 お前のような冒険者風情が、我が公爵領を我が物顔で彷徨いている事には我慢がならん。 あの骸骨の戦士など我が槍で滅してくれるわ!」
随分と偉そうな事を言いやがって。
腹の立つ奴だぜ。
「その骸骨に呆気なくやられて逃げ帰って父に泣きついたのは誰でしたかしら? それに…… その槍は本来私の物ですのに、父に取り入って横取りするなど、そこらにいる泥棒と変わりませんわ」
シャルロットのキツイ指摘を受けて、途端に顔色が青くなるライナス卿。
自慢の槍がこんな奴に使われているなんてカイルが知ったら泣くぜ。
「何だよ、最初に襲われた騎士ってコイツか? 逃げ帰ったクセに良くあれだけの事が言えたもんだな」
所詮は口だけの見掛け倒しって事か。
おいおい、今度は顔を真っ赤にして怒ってやがるぞ…… 随分と忙しい奴だな。
「貴様…… 私に対する侮辱は許さんぞ! 者共、骸骨の前に奴を血祭りにあげるのだ!」
者共って、お前が相手をするんじゃねぇのか? もう呆れて言葉もねぇよ。
「あらあら、私の愛しい婚約者に危害を加えると言うのなら私が相手をしてあげるわ。 まとめてでもいいわよ。 かかってらっしゃい!」
呆れ果てた俺の前にゆっくりと進み出たアンナが配下の騎士達を牽制する。
何か自信がみなぎっている感じで手練れの騎士を相手をして一向に怯む様子も無い。
騎士達も昼にアンナの実力を見ていたらしく、恐れから誰一人として動こうとしない。
「我が公爵家の客人に対する無礼、許しません! ライナス卿、今日こそ思い知らせてあげますわ。 私と勝負して負けたなら、素直にその槍を渡しなさい!」
そこへシャルロットが追い討ちをかける。
随分と気の合うヤツラだぜ。
そう言えばシャルロットの攻撃パターンは槍に通じる所があったな。
槍の扱いにも長けているのかも知れねぇな。
「な、何を言うのです。 シャルロット様に手を上げるなど、絶対にあってはならない事。 強者と戦う事は武人としては残念ですが相手をする訳にはいきません」
本当に口だけの野郎だな、しのごの言わず相手をすりゃいいだろうが……
「それなら俺が相手をしてやるよ、それならいいんだろうが!」
「貴様のような下賤の者と交える槍を持たんな」
ダメだ…… コイツは。
んっ? どうやらお出ましのようだぜ。
地面が不自然に盛り上がったかと思うと地の底から姿を現した骸骨の戦士。
眼孔に赤く妖しい光を湛え、錆びた槍を手にして俺達の前に立っていた。
だが俺達に背を向けるとライナス達へと歩み寄って行く。
「くっ…… お前達、早くあの骸骨を何とかするのだ!」
ライナスの命により騎士達が剣を抜いて身構える。
「待ちなさい! 手出しはなりませんよ。 ライナス卿、騎士ならば正々堂々と骸骨の戦士と戦って勝利して見せなさい!」
「ぐっ、たかが骸骨如き…… この私の相手では無いわ! 行くぞ!」
台詞だけは一人前の武人なんだかな。
ラースフィアを構えたライナスが骸骨戦士に考え無しに突っ込んで行く。
アレで勝てるつもりかね?
迎え撃つ形になった骸骨戦士が見せた構えを俺は知っている。
「おい、あの構え…… カイルの奴とそっくりだろ? いや、そっくりっていうか、そのものだ。 だったら、あの骸骨がカイルなのか?」
何であんな姿になってまで蘇って来やがったんだよ……
「嘘でしょ…… でも、あの構えは間違いないわ。 カイルそのものだわ」
アンナの目にも俺と同じに見えるだろうよ、何年も一緒に旅して戦った仲間の事だからな」
だったらアイツが負ける筈がねぇよ。
俺くらいだぜ、あの槍術と互角に戦えたのは。
そんな俺の予想通りに華麗な槍さばきでライナスのラースフィアを跳ね上げて突く事すら許さねぇ。
「ぐわぁっ! お、おのれ……」
両肩を錆びた槍で突き刺されたライナスが手にしていたラースフィアを手放した。
あの傷の様子じゃ、二度と槍は持てねぇだろうな。
それ以上に錆びた槍で刺されてるから破傷風とかもあり得るだろうぜ。
地面に転げ回るライナスには目もくれずラースフィアを拾い上げたカイルら錆びた槍を大地に突き刺してコチラを振り返る。
アイツの目に俺とアンナはどう映っているんだろうか?
少しは懐かしく思ってくれているのかよ?
そんな俺の思いとは裏腹にラースフィアを構えて俺と対峙するカイル。
「何だよ、久しぶりに俺とやろうって言うのか?」
最後に手合わせした時の勝敗はどっちが白星だったか憶えてねぇが、勝敗の数は確か五分五分だったろ。
お前が得意にしてたのは後の先を取る事だったよな。
早い話がカウンターだ。
攻撃を仕掛けた筈がコッチがやられちまうんだからタチが悪い。
「やめてって言っても無駄なんでしょ? アナタ達は相変わらず馬鹿なんだから……」
目にいっぱいの涙を溜めたアンナを横目にデスブリンガーを構える。
また泣かせちまったな、だが今回はお前のせいだぜカイル!
「おりゃあああっ!」
大剣を上段に構えたまま突進した俺は渾身の一撃を振り下ろす。
カイルに下手な小細工は通用しねぇからな。
戦法はライナスと一緒だが俺のパワーとスピードは段違いだぜ。
大地を斬り裂いた俺の斬撃をあっさりと躱したカイルが今度はこちらの番だとばかりに苛烈な刺突で襲いかかる。
俺のせいだが巻き上がった土埃に視界を遮られたまま襲いかかる槍先を避けるのは無理がある。
「んなっ、こりゃ厳しいな……」
大剣を盾にして槍の猛攻を凌ぐので精一杯だ。
刺突が当たる度に腕を通して身体にまで衝撃が伝わって来る。
生死をかけた戦いだが身体の奥底から喜びが湧き上がって来るのを感じでいた。
「久しぶりだぜ、こんなにワクワクするなんてよ!」
「何を言ってるのよ、この馬鹿!」
また馬鹿扱いか、最近それしか言われてねぇ気がするな。
こうなったら勝負に出るか。
大剣を蹴り上げて土塊をカイルへと浴びせた俺は手にした大剣を水平に構える。
リーチの長いのは槍だけの特権じゃねぇぜ。
右手で柄を握り左手で巨大な剣を支える。
流石の俺も片手では持てねぇからな。
「行くぜ、カイル!」
一気に間合いを詰めて突きを放つ。
大剣の重さにスピードが乗った一撃をどうするんだ、カイル?
一瞬だけ俺を捉えたかと思えた槍先が、その軌道を変えたのに気付く。
そしてラースフィアの槍先はただ一点、デスブリンガーの剣先を捉えやがった。
「ぐはっ!」
肩に掛かる衝撃に思わず声を吐き出す。
何だよ、そう言う事かよ。
だったら早く伝えてくれりゃいいだろうが……
ライルの奴は最初から俺を殺すつもりはねぇぜ。
俺との戦いを楽しんでやがるからな。
「もういいんじゃねぇか? そんな姿になってまで現れたのには何か理由があるんだろ」
俺が大剣を引いて背負うとカイルも槍を引く。
そしてゆっくりとアンナ達の方へと向かう。
「カイル……」
複雑な思いでいるだろうアンナの元では無く、奴が向かったのはシャルロットの所だった。
カイルは手にしたラースフィアをシャルロットへと差し出して跪く。
「受け取ってやってくれよ。 カイルの奴はそのために現れたんだろうからな」
俺の言葉に思い当たる節でもあるのか笑みを浮かべてシャルロットがラースフィアを受け取る。
「ありがとうございます…… カイルさん。 あの時は名も名乗らないまま亡くなってしまいましたから、漸く貴方の名前を知る事が出来ました。 これでお墓参りに行っても名前を呼ぶ事が出来るのですから嬉しいですわ」
優しげな…… それでいて悲しそうな表情を見せたシャルロット。
「一ヶ月前の貴方の命日にお墓参りに行った際の私の話を聞いて来てくれたのですね。 貴方から頂いた大切な槍を奪われたと言う私の嘆きに応えてくれるなんて……」
優しく包み込むようにカイルを抱き締めるシャルロット。
「私はこんなに大きくなりました。 どうでしょうか? 大人になった私は……」
シャルロットの問いにカイルが答える事は無く、まるで砂のようにボロボロと崩れて消え去ってしまう。
願いを果たした事に満足して力尽きたんじゃねぇかな。
しかも俺との真剣勝負ってオマケ付きだ。
目にいっぱいの涙を堪え、奴が消えた腕の中の空虚な空間を愛おしむかのように自分自身を抱き締めていた。
安心しろよ、シャルロット。
俺が良く知ってるカイルの事だからな、きっとお前の事を天使みたいだとか答えた筈だぜ。
アイツはそう言う奴だったからよ。
あばよ、最強の親友。




