第60話 アンナの実力
ハイランド王国の西方に位置するザクセン公爵領。
勇猛な騎士団を抱える武を重んじる風潮の厳格な貴族領としても有名で、俺とアンナの二人が今回目指している場所だ。
そんな勇猛果敢な騎士達が次々と怪物の餌食になっているらしい。
そんな事態に困り果てた領主が冒険者ギルドへと討伐依頼を出したと言う訳になる。
数多くの騎士達を葬った怪物を退治しようとか言う命知らずな奴も現れないため依頼の報酬額も結構な金額に増額されていたのは当然の結果と言う事になる。
「夜な夜な出没する骸骨の戦士を退治しろとか気味悪い依頼をアンナが良く受けたよな。 お前はそう言うのは苦手だったんじゃねぇか?」
弱っちいスケルトンと甘く見たのも理由の一つと聞いているが、態勢を整えた後も手練れの騎士達を次々と葬った槍の使い手らしい。
生前の強さが反映されるんだから、中々の使い手だったのかも知れねぇな。
「苦手でも報酬額が良いんだもの。 それにアナタがいるなら負ける気がしないわ」
「そんなに買ってくれるのは嬉しいが、相手はアンデットだからな」
大剣でぶった斬って死んでくれればいいが…… って、もう死んでるんだよな。
その場合は何て言えばいいんだよ?
「どっちにしろ動けなくなるくらいに粉砕しちゃえば良いんじゃない? アナタはそう言うのが得意でしょ」
得意とかじゃねぇだろうが…… 必死になって戦った結果、そう言う事もあるだけだ。
俺達は王都で乗り合い馬車を乗り継いでザクセン公爵領まで辿り着くのに四日間を費やしていた。
公爵領では旧侯爵領の英雄として名の売れた俺の到着を待ちわびていたらしく、大歓迎で迎えられる事になる。
だが…… 世の中そんなに甘くは無いと言うべきか、連れて行かれた公爵の屋敷で面倒な話になりやがった。
「良く来てくれた、旧侯爵領の英雄よ。 噂に聞こえるだけの偉丈夫であるな。 我が公爵領の騎士達の無念を晴らして欲しいと切に願う所だが、その前に其方の力を知っておきたいのだ。 我が騎士団の中でも一、二を争う手練れと手合わせを願いたいのだが、宜しいか?」
まぁ、信じられないのは仕方がねぇか。
公爵の館へと招待された俺達は歓迎されるかと思いきや、腕を試される事になる事になる。
見た事も無い奴の実力を言われたままに信用して味方に被害が出ても困るだろうしな。
「俺は一向に構わねぇよ。 誰とでも相手をするぜ!」
辺りにいる騎士達を見渡して声を掛ける。
甘っちょろい騎士共には負ける気がしねぇ。
「シャルロット! お前が英雄殿の相手をするのだ」
「はい、父上。 私にお任せ下さいませ」
騎士達の後方から凛とした声で返事が聞こえたかと思うと白銀に輝く鎧を身に纏った美少女が、騎士達の間を縫うように歩み出る。
おいおい、女騎士が相手ってだけじゃなくてシャルロットって奴は公爵令嬢じゃねぇか! さっき騎士団の中でも一、二を争う腕前とか言って無かったよな。
ここでも女が強いのか? チラッとアンナに視線を送る。
俺と目が合うと自信たっぷりな笑みを浮かべ頷いて応える。
「その勝負、私が受けるわ!」
いや、そう言う意味じゃ無かったんだが…… これはアンナの今の実力を知る良い機会かも知れねぇな。
それに俺が戦うと最近パターン化して来てる気がするが何かしらのフラグが立ちそうな気がするし、ここはアンナに任せるとするか。
「それなら頼むぜ、気を抜くなよアンナ」
無言で頷くと右腕にパタを装着してシャルロットと対峙する。
白銀に輝く鎧を纏う金髪の美少女に対するは身体の線が出る革の鎧を着た亜麻色の髪の美女。
こりゃあ、中々絵になる構図だな。
スッと細身の剣を抜くシャルロット。
「両者準備は良いか? では始め!」
公爵の口から戦いの開始が告げられるとシャルロットが一気に間を詰める。
へ〜 中々に早いな。
そんなシャルロットの急襲にもアンナ動じる事無く余裕の表情で迎え討つ。
「行きますわよ!」
激しい刺突がアンナを襲う! 元々腕力で男性騎士達に劣るシャルロットはスピードを活かして頑丈な鎧の隙間を狙う戦法を得意とするのだろうが、スピードならアンナも負けてはいない。
その場から一歩も動かずにパタの刃でシャルロットの剣を受け流す余裕の戦いぶりだ。
「中々やりますわね!」
あの鋭い剣さばきを見せながらもアンナに話し掛ける余裕があるとは、令嬢も騎士達の中から無駄に選ばれた訳では無さそうだ。
そして無駄だと悟ったのか一度距離を置いて身構える。
「それは違うわ、アナタがやれてないだけよ」
ニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべながらアンナが言い放つ。
「あらあら、ごめんなさい。 公爵令嬢様に思わず本当の事を言ってしまいました。 でも騎士団で一、二を争うって言うアナタの腕前はそんなものなのかしら?」
更に痛烈な追い打ちを掛けてやがる。
シャルロットの怒りを誘って調子を崩させるアンナ得意の口撃だな。
あの意地悪そうな口調の割に表情は随分と楽しそうだぜ。
何か鬱憤でも溜まってたんじゃねのか?
「それは私だけでなく、我々騎士団への侮辱と見なします! 許す事は出来ませんわ……」
完全に怒りに我を忘れたシャルロットがアンナへと本気で突進する。
先程とは段違いのスピードだな。
それでもアンナは一歩も動かずに迎え討つ。
シャルロットは渾身の力とスピードを兼ね備えた一撃を放つ。
それを身体を捻って避けたアンナは素早く右腕を振り上げたかと思うとシャルロット目掛けてパタを振り下ろす。
その刃は渾身の突きを躱されて驚愕した表情を浮かべるシャルロットの首筋を完全に捉えたが、それは皮一枚の所で止められていた。
「勝負あり! 見事な戦いぶりだ、女戦士よ!」
公爵の采配でアンナの勝利が告げられた。
騎士団でも手練れと称されていたシャルロット相手に一歩も動かずに勝利したアンナに居合わせた者達からの感嘆の声があがる。
その場に崩れ落ちるように膝を地面についたシャルロットがアンナを見上げている。
「ア、アンナお姉様…… 素敵ですわ……」
恍惚とした表情でアンナを見詰めるシャルロット。
ほらな、こんな事になるだろうと思ってたんだよ。
俺が戦わなくて良かったぜ。
まぁ、俺が惚れられたかは分からんがな、元々そう言う性癖だったのかも知れねぇからな。
「ちょっと…… 何なのよ、あの子」
シャルロットの猛攻に一歩も退かなかったアンナがジリジリと後ずさる。
俺の気持ちが分かったか。
その気が無くても惚れられる厄介な展開をよ。
「絶対にお持ち帰りするんじゃねぇぞ! もう部屋の空きはねぇんだからな。 いや、お前と相部屋なら構わねぇか」
マリンが俺にくっ付いて来た時にアンナに言われた仕返しだ。
一瞬ムッとした表情を浮かべたアンナが急に抱きついて来やがったが何なんだよ。
「アナタも傍観者じゃ無くして…… あ・げ・る」
何を可愛らしく言ってやがるんだよ…… って、そう言う事か!
俺を憎しみを込めた瞳で睨みつけているシャルロットに気付く。
さっきの突き技よりも鋭い視線が俺を貫く。
視線で刺し殺されそうなんだが…… 全くなんて事しやがるんだよ。




