第53話 どっちも武勇伝
「それでよ、本当にドラゴンの皮膚って言うか鱗か…… アレは硬かったぜ。 まともに剣で戦っても歯が立たなくてよ。 だから俺は大剣を振り被ったまま崖の上から飛び降りながら斬り付けたんだ。 流石にそれで奴の首を落とせたって訳なんだがよ」
俺の語る武勇伝に若い兵士達から感嘆の声があがっているが、やっぱり男はこう言う冒険譚が大好きだからな。
「ラミアも倒したと聞きましたが、やっぱり美人でしたか?」
若い兵士が身を乗り出して聞いて来やがった。
そう言うのが気になるのって言うのは男の悲しい性だろうよ。
まぁ、出くわしたら絶対に後悔するぜ。
「ああ、確かに美人だったぜ。 豊満な胸を惜しげもなく晒して誘惑して来るんだよ、あの誘惑に勝てなきゃ魅了されて一巻の終わりだな。 あと気を付けなきゃいけないのは、ラミアが心の中にいる自分が大切に思う女性に見えちまう幻術だろうな…… アレはヤバイから出会う事があったら注意しろよ!」
まぁ、ライリに化けたラミアの奴が自分の姿に驚いてやがったけど、それだけは絶対言えねぇ。
「本当に凄いです、俺達はみんな貴方に憧れてますからね」
そこまで褒められるとは思わなかったが、褒められて嫌な気はしねぇからな。
「やっぱり胸の大きな女性が好きなのですか?」
「そりゃあ…… おい、今のはマリンか?」
危うく会話の流れのまま答えちまう所だったぜ。
俺の横に座っていたマリンの問いに驚く俺。
両脇をヴィッチと挟まれる格好で座っているんだが、約束通りにマリンが俺にお酌をしてくれている。
「いや、大きければ良いって訳じゃねぇからな。 世間の奴らは知らんが俺はそう思ってるぜ」
マリンは大きくは無いからな…… これが無難な答えだろうよ。
チラッと横目で見てみるとマリンが自分の胸元を見てやがるな。
今日のお前の胸の膨らみは詰め物だと言う事を俺は知っている。
「それと前に話題の出た幼い婚約者って言うのは何者なんですか?」
またマリンかよ…… やっぱり話題に出て来やがったか。
一番聞かれたくなかった内容なのによ……
マリンは冒険の話より俺の女関係が気になるのか?
「名前はライリ。 俺が家事に困って雇ったメイドだよ。 雇ってみたら実は子供だったんだ。 住み込みを希望していたから一緒に住んでるんだが、大人になったら俺と結婚したいって話になって了解したんだよ。 後は別にアンナって言う冒険者の相棒も婚約者だ。 更に言えば隣にいるヴィッチも婚約者の一人になる」
クレアの事は話さなくても良いだろ。
正直言えばヴィッチはライリやアンナとは違って婚約者って言うポジションじゃねぇんだよな。
ちょっと微妙な存在になってるがな……
「その中で一番大事なのは誰ですか?」
うぉっ! それも聞かれたくなかったが、またマリンか……
「誰が一番って言われてもな…… ライリもアンナも同じように大切な家族みたいな感じだしよ…… 正直言えば俺がハッキリと決められなくて婚約者が増えているって情けない話だな。 ヴィッチは訳あって数日前に婚約したばかりでな……」
何で会ったばかりの奴らにこんな話をしなきゃなんねぇんだよ。
冒険者としての俺の話題にしてくれ……
「まだ誰と結婚するかはハッキリしていないと言う事です。 そうなると更に増える可能性や他の女性との結婚だって有り得ると言う事になりますね。 マリンも立候補してみたらどうかしら? 彼は嫌になるくらい押しに弱いから、ずっと傍にいて大切な存在だと思われるようにさえなれば絶対に断られなくなるわ」
何でヴィッチの奴が俺の代わりに答えてんだ?
しかも…… 何でマリンをけしかけてんだよ!
「私が…… この方の…… 婚約者に?」
おいおい、マリン! 注いでる酒が溢れるぞ。
マリンの奴、何を想像してやがるんだよ…… ボーッとしたまま帰って来なくなっちまったじゃねぇか!
俺はマリンの手から酒瓶を取り上げると無言のまま、それをヴィッチに手渡す。
ヴィッチの奴も一瞬だけ怪訝そうな表情を浮かべたが、俺が満杯の杯をグッと飲み干すと嬉しそうに灼をし始めた。
やっぱり男よりは美人に灼をして貰いたいからな。
「で、何でマリンが俺達に付いて来るんだ?」
当たり前のように俺の横にいるんだが……
「隊長から貴方のお世話を命じられておりますが、まだ解除命令は出ていませんので任務継続中になります!」
それを理由に俺の家にまで付いて来るんじゃねぇだろうな。
そう言えばマリンを俺に付けた奴の姿が帰りには無かったが…… 酔い潰れちまったのか?
「まぁ、無理しないでくれや……」
帰れと言っても聞かねぇだろうしな。
「了解です!」
だから俺は上官じゃねぇんだがな……
向かいの席に座っているヴィッチが俺を見て溜め息なんか吐いているが、マリンをけしかけたのはお前だろうが!
そして馬車は俺達の今夜の宿になるラブキャッスルに到着する。
あの部屋でコイツらと一夜を過ごすのかよ?
どう考えても不安しか浮かんで来ねぇのは俺の気のせいじゃない筈だ。




