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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第一章 大剣使いの冒険者と小さな侍女ライリ
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第52話 ヴィッチとマリン

何で帰らないんだよ…… この娘は?

当然のように部屋に居座り続け、ニコニコしながら俺の世話を焼いているんだよな。

ヴィッチの奴は旅の埃を落としたいとか言って風呂に入って行ったが、もうかなりの時間入ってやがるが倒れたりしてないだろうな?


「おい、マリン! ちょっと風呂場を見て来てくれないか? ヴィッチの奴、あまりにも長風呂になってるのが気になってな。 倒れてたりとかしてなきゃいいんだがよ」


「は、はい! 了解であります!」


ぎこちない敬礼してから風呂場へと向かうマリンだったが極度の緊張からか、手と足が一緒になってるな。

あれじゃ兵士達の行軍練習では良いけど本番じゃ失敗するタイプだろう。

それに俺はお前の上官じゃねぇぞ。

何やら風呂場から話し声がしたかと思うとマリンが戻って来た。


「特に異常はありませんでした! ただ……」


ただ…… 何だよ? 何やら言い澱むマリン。


「どうかしたのか?」


「一緒に入りましょうと誘われました! ですが、上官を放って先に風呂に入るなど出来ませんから……」


おい…… いつ俺はコイツの上官になったんだ?


「別に俺は構わねぇから誘われたなら入って来てもいいぞ。 サッパリしてから町に繰り出してもいいだろう。 せっかく可愛いんだから、たまにはお洒落でもして同僚達を驚かしてやれよ」


そう言うのも面白い趣向だろうよ。


「私が可愛いって思ってくれるのですか?」


「ああ、俺はそう思うんだが…… 嫌か?」


年頃の少女だからな、可愛いとか言われると子供扱いされてるみたいで嫌なのかも知れんな。

女共にこの話をしたら俺にはデリカシーが無いとか馬鹿にされるんだろうぜ。


「いいえ、嫌ではありません! うふふっ、では、お言葉に甘えて行って参ります!」


今度はビシッと敬礼してやがる。

でもよ、戦場に向かう訳じゃねぇんだぞ。


「お、おう。 ゆっくりして構わねぇからな」


これで俺も少しはゆっくり出来るな。

ソファーに座りながら身体を休めていると気になるのは家の事だ。

ライリと母親のアイリスは少しは打ち解けてくれただろうか。

なんか涙の再会かと思いきや、泣いてるのはアイリスだけでライリは普段通りだったからな。

まだ心の整理がつかなくて反応が鈍いだけなんだろうか? まぁ、いきなり母だ父だと見た事も無い奴が現れたら仕方が無いのかも知れんか。


「お先にお風呂を頂きましたわ。 私の事を心配してくれたそうですね。 ふふふっ、嬉しいですわ」


そうやって笑うと女郎蜘蛛の面影はねぇんだがなぁ…… まだ濡れた金髪はウェーブが取れて普段とは別人みてぇだ。


「……そんなに見詰められたら、流石の私でも恥ずかしいですわ」


バスローブの胸元をキュッと掴んで俯くヴィッチ。


「悪い悪い、なんか感じが変わったなと思ってよ。 あ、でも良い方にだから安心してくれ!」


そんな顔されると何だか落ち着かなくなるだろうが。


「只今、戻りました! 報告します、ヴィッチ様が凄かったです!」


そんな報告いらねぇよ…… しかも一体何が凄かったんだ? いや、多分…… プロポーションだろうぜ。

少し興奮気味のマリンの報告を聞いた俺が思わずヴィッチに目をやると恥ずかしそうに逃げるように寝室へと消えて行った。

アンタはそう言う性格だったか?

妖艶な笑みを浮かべながら男に股を開いて誘惑する女郎蜘蛛のイメージだったんだが…… 何もかも失ったせいだろうか……


「そりゃあ、良かったな。 じゃあ、俺も入って来るか…… ヴィッチ程の時間はかからねぇから、ちょっと待っててくれや」


そう言って風呂場に向かった俺だったが…… 何なんだよ、この広さは!

湯船に薔薇の花びらが浮いてやがるぞ。

何だこりゃ?





「ふぅ、サッパリしたぜ。 なんか風呂も変わってなかったか? 湯船がデカイ貝の形って言うのは海の側だからなんだろうか……」


イマイチ良さの分からない俺が呟きながらリビングに行くとヴィッチとマリンが待っていた。

ヴィッチは既に出掛ける準備を整えていてメイクもバッチリ決まってやがる。

ドレスが似合うのは流石は元侯爵なだけはあって上品さが滲み出てるぜ。

それにマリンの奴もヴィッチにして貰ったのか軽く化粧をしてるのが分かる。

服も先程までの胸当てを始めとした下級兵士の格好ではなく、ドレスを着てるが丈の余り具合からヴィッチの物を借りたんだろうな。

ピンで留めてあるが自然な感じになってるのはヴィッチのセンスの良さが光ってるぜ。

胸の所は…… 多分何か詰めてやがるな。

あんなにある筈はねぇからな。


「二人共似合ってるじゃねぇか! こりゃあ、男共も目の色を変えそうだぜ」


「良かったわね、マリン。 似合ってるそうよ」


ヴィッチがマリンに微笑みかける。

ふっ、優しい所もあるんじゃねぇか。


「わ、私なんかが…… こんな素敵なドレス、似合う筈も無いって思ってたから……」


「何言ってんだ、似合ってるよ。 こりぁあ、俺も惚れちまいそうだぜ!」


これで少しは自信も付いてくれりゃあいいんだがな。


「貴方はそうやってすぐに……」


何だよ、何故かヴィッチが不満そうなんだが?


「酒宴の席が出来上がりましたのでお迎えに上がったのですが、準備は宜しいでしょうか!」


おっ、これでやっと酒にありつけるぜ!

その前に俺もバスローブ姿のままじゃ出掛けられねぇから着替えねぇとな。

まぁ、俺は洒落込む必要はねぇだろう。

奴らが見たいのは大剣使いの俺だからな。

そうなるとデスブリンガーも持って行かなきゃならねぇか。






「おおっ! あんな美人見た事無いぞ」

「英雄殿の婚約者だったか? 流石に違うな……」

「でも…… 10歳に満たない婚約者もいるって言ってたよな? どうなってるんだよ?」

「英雄色を好むって言うからな。 その辺りも聞いてみようぜ!」


酒宴の会場に案内された俺達はいきなり兵士達に囲まれていた。

特にヴィッチの妖艶な美しさには男共も骨抜きになっちまったらしく、どいつも熱い視線を送っている。

当人のヴィッチも少しは以前の自信を取り戻したのか大人の女の余裕みたいなのを感じさせてやがる。

それにしても俺の周囲の女性についてまで聞いて来るつもりかよ? ドラゴン退治とかの話だとばかり思ってたんだが…… おっと、そう言えばマリンの奴はどうしたんだ?

気になって後ろを見れば何やら下を俯いちまってるぞ。

まぁ、せっかく粧し込んで来たのに気付いても貰えねぇんじゃ落ち込みもするだろうよ。


「おい、マリン! お前もコッチに……」


マリンの可愛い姿を奴らに見せてやろうと声を掛けた俺の言葉も耳に入らないのか会場から走り去るマリン。

おいおい、ちょっと待てよ!


「ヴィッチ、ちょっと場を頼むぞ!」


俺は走ってマリンに追い付くと、その細い腕を掴んで引き止める。

幸い慣れないドレスで走り難かったらしく、すぐに追い付く事が出来たのは幸いだった。


「どうしちまったんだよ、お前の可愛らしい姿を奴らに自慢してやろうと思ったのに」


まぁ、何となく気持ちは分かるぜ。

みんなヴィッチに夢中だったからな。


「……やっぱり私なんかが素敵なドレスを着たって誰にも気付いて貰えないのです。 そんな事を考えたら急に恥ずかしくなって…… 私、私……」


ハァー ヴィッチの奴が悪い訳じゃ無いんだが、相手は男を手玉に取る天才の女郎蜘蛛だからな…… こんな純真な少女が敵う訳無いんだよ。


「何言ってやがる! 見る目の無い男共は放っておきやがれ。 俺はマリンを素敵な女性だと思うし、旨い酒が飲めるならヴィッチよりも、お前に横に座って灼をして貰えた方が最高に嬉しいんだぜ。 俺はお前がいい! それじゃダメか?」


振り返って俺を見上げるマリン。

やっぱり泣いてやがるのか。


「泣くなよ、せっかくの化粧が落ちちまうぞ」


ハンカチとか洒落たもんは持ってねぇからな……

慌ててズボンのポケットを探るとハンカチが入ってやがる。

綺麗に折りたたまれた様子からライリが入れてくれたんだと俺は察した。

流石にウチのお姫様は気が利くぜ、ありがとなライリ!


「ほら、マリン。 顔を上げろ、化粧が落ちないように涙を俺が拭いてやるから」


そっと涙を拭いてやったが…… やっぱりダメか! 不器用な俺には無理だったか…… 薄っすらと涙の跡が残っちまった。

やっぱりヴィッチに頼むしかねぇな。


「ありがとうございます。 やっぱり貴方は素敵な方です。 女性関係が派手だと言う噂を聞いていましたが…… 何となく理由が分かった気がします。 きっと……」


きっと何なんだよ。

まぁ、良い印象じゃねぇんだろ? 全く……


「あの…… ちょっといいでしょうか?」


マリンが何やら小声で囁いている。


「何だよ、聞こえねぇよ」


耳を傾けようと身を屈めた俺の頬に当たる唇の感触。

何を! 頬に手をやりながら驚いてマリンを見れば、そこには赤い目をした可愛らしい悪戯な小悪魔が微笑んでいた。


「さぁ、行きましょう! 私がいっぱいお酌して差し上げます」


元気を取り戻したマリンに手を引かれて会場に戻ると男共が驚いた顔をしてコッチを見てやがる。


「アレがマリンだったのかよ? てっきり知らない女性だとばっかり……」

「いやぁ、変われば変わるもんだな」


漸く気付きやがったか馬鹿共め……


「な、俺の言った通りだろ? マリン、お前はもっと自分に自信を持っていいんだぜ」


黙ったまま俺の手を握るマリンの手に力が入る。


「あらあら、せっかくの化粧がダメじゃない。 いいわ、こっちへいらっしゃい」


そんな俺達にヴィッチが近寄って来るとマリンの化粧が落ちているのを見て化粧直しに奥へと連れて行ってくれるようだが…… 俺の顔を見て途端に顔色が変わる。

おいおい、その表情は女郎蜘蛛の頃の顔だろうがよ。


「そのキスマークの件は、後でちゃんと説明してくれるのでしょう? 私の婚約者様……」


ヴィッチの奴がおもむろに頬に手を伸ばして思いっきり抓りやがったから痛くて堪らない。

これで済むとは思えねぇんだよな。

おっかねぇな…… 女って。


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