第49話 伯爵と侯爵の最期
「これより武術大会を開催したいと思うが、その前に前日に起きたダスト伯爵のヴィッチ侯爵への陵辱疑惑を受けて、ヴィッチ侯爵の婚約者による申し立てによりダスト伯爵との決闘を執り行うものとする」
ランス国王陛下の宣言で俺とダスト伯爵が前に進み出る。
貴族様のやる事だから代理人とかを立ててまともに戦いやしねぇだろうと思っていたが、自ら戦うとは腐っても貴族って言った所か。
俺は相変わらず大剣を使うが、ダスト伯爵は身軽な細身のエストックを手にしていた。
俺と比べれば随分と対象的に思えるな。
「両者、準備は宜しいですかな? では…… 始め!」
見届け人の声が掛かると同時にダスト伯爵が一気に距離を詰めて来る。
そして素早い突き技で戦いの主導権を握ろうって事だろうが、所詮は実戦を経験していない教科書通り動きは手に取るように読める。
俺は大剣を盾にして突き技を軽く受け流す。
「こんなもんか…… なら、こっちからも行くぜ!」
伯爵が一旦距離を置いたタイミングを見計らった俺は大剣を上段に構えると地面を蹴って前に出る。
慌ててエストックを俺に向ける伯爵など構わずに突進して大剣の腹で突き飛ばす。
「ぐわ、はぶぁ!」
本当は一気に両断してやりてぇ所なんだが、そう言う訳にもいかねぇんだとよ。
コイツも俺が殺しちまったら、また女共に何を言われるか分かんねぇからな。
でも何やら聞き取れねぇ叫び声をあげながら吹っ飛んで行ったが…… 死んでねぇよな?
「勝負あり! 勝者、パープルトン侯爵家!」
随分と簡単に終わっちまったぜ……
さて…… ここからが本番だ。
ヴィッチ侯爵が待ってましたとばかりに国王の元に進み出やがった。
「聡明なるランス国王陛下に申し上げます。 そこにいるダスト伯爵が先日の王都での異形の集団による大量殺害事件に其方が関わっていると言う情報を私は掴んでいるのです」
明らかにダスト伯爵の顔色が変わったな。
証人は俺が殺しちまったとは言えねぇが……
「ダスト伯爵よ、ヴィッチ侯爵の話に申し開きする事はあるか?」
「それは全て根も葉もないタチの悪い噂話に過ぎません。 どうしてその様な事を私がせねばならないのですか?」
そう言うと思ったぜ。
アニスの婆さんも俺の頼み通りにアイツを連れて来てくれたし。
「そりゃあ、この子を見ても言えるのかよ? ライリ、そいつがお前の両親を苦しめてるダスト伯爵だ」
闘技場の入口にアニスと一緒にライリが来ているんだよ。
お前のスカした顔も見飽きたからな…… 本性を見せやがれ!
「き、貴様! その娘を何処で…… こうなったら…… その娘だけはこの手で殺してやる!」
今まで散々逆恨みして来た相手だからな、会わせるかは悩んだが両親を長い間苦しませた相手の最期くらいは見る権利があるだろうよ。
だがな…… 俺の大切な家族に指一本触れさせる訳ねぇだろうが!
「今は殺さねぇでおいてやる。 裁きはちゃんと受けやがれ!」
逆上して何も考えずに突っ込んで来た伯爵を大剣の横っ腹で叩いたら結構な勢いで飛んで行きやがった。
思ったよりも軽かったな…… あんなに勢い良く飛ぶとは思わなかったぜ。
おいおい、まさか死んでねぇだろうな。
床に転がり呻き声をあげている伯爵に国王が歩み寄って行く。
「さて…… 王国への反逆と言う重罪を犯したダスト伯爵は領地没取の上で極刑と処する。 ヴィッチ侯爵もそれで依存は無いか? なお、アイリス伯爵夫人はパープルトン侯爵家の預かりとなったため、罪は問わん」
まるで汚いゴミでも見るような目付きでダスト伯爵を見詰めながら、そう判決を言い渡した国王がヴィッチ侯爵に問う。
「勿論です。 王国に仇なす者に領地を治める資格はありません。 反逆者に相応しい処分かと思います」
それを聞いたヴィッチ侯爵が正に勝ち誇った顔をしてやがるな。
思う所はあるが今回は共闘の立場だからな。
「そう言って貰えると助かるぞ、ヴィッチ侯爵。 さて…… 話は変わるが、少し前に其方の治める侯爵領から王都とを結ぶ乗り合い馬車が賊に襲われた事件があったな?」
何だか雲行きが怪しくねぇか?
「はい、我が侯爵領の英雄でもある我が婚約者が襲われると言う痛ましい事件でもありました。 幸いにも彼の活躍により既に賊は退治されております。 悲しい事に御者が殺害されてしまい、詳細は分かってはおりません」
御者を殺したのはアンタだけどな……
アレには俺も納得がいかねぇよ。
弱っちいくせに俺達を逃がそうとしてた心根の優しい、本当に勇気がある奴だったからな。
「ほぉ、それはおかしいではないか。 其方の命により、何の罪もない御者を殺害したと白状した者を捕まえたのだが…… 其方が誰よりも存じておろう!」
「い、いえ…… それは何かの間違いではありませんか? 私には全く身に覚えのない事です」
こりゃ…… 国王の方が一枚役者が上だぜ。
ヴィッチ侯爵も年貢の納め時か…… 乗り合い馬車を襲った者は理由を問わず極刑って言うのが掟だからな。
「この後に及んでまだこの儂を騙し通せるとでも思ったか! ヴィッチ侯爵、其方の侯爵位を剥奪した上で身分を極刑と処する。 なお主人を失った伯爵領と侯爵領は王国の直轄地とし、後々には然るべく者へと任せるつもりじゃ」
俺が原因って事か、ヴィッチ侯爵が複雑そうな表情でコッチを見てやがるな。
「元侯爵領の英雄よ。 其方は以前、男爵位を断ったそうだな。 ならば儂は子爵として其方を迎えたいと思うがどうだ? 領地は住み慣れた侯爵領でも構わんぞ」
おいおい…… また話が変わって来たな。
ヴィッチ侯爵から地位や領地を奪ったみたいになるじゃねぇかよ。
それじゃアイツは救われねぇだろ……
「国王陛下、そうなるとヴィッチ侯爵は更に人間を信じられなくなると思うんだ…… じゃなくて、です。 そんな思いを抱いたまま死なせるのは俺も忍びねぇし、今まで出会った男共が悪かったんだと思うんだ。 だがら…… 子爵位はいらねぇからヴィッチ侯爵の命だけは助けて貰えると嬉しいんだが……」
やっぱり俺は貴族って柄じゃねぇしな。
借りにも婚約者になった女を助けねぇなんて、男じゃねぇよ。
「そうか…… 其方がそこまで言うのならば命までは奪わないでおこう。 ヴィッチよ、これまで数々の功績を立てた婚約者の活躍に対するせめてもの情けだと思うが良い。 それで良いか?」
元々ライリの安全が確保出来て、両親も助けてやれれば良かったんだからな。
「ああ、じゃなかった…… はい、それでいいです」
ホント、敬語も使えねぇ俺が貴族なんてありえねぇわ。
チラッとヴィッチ侯爵の方を見たが、俺に何か言いたそうな顔で見てやがるな。
「アニスに聞いた通りに面白い男よ。 我が麾下に迎えたかったが残念だ。 そうそう…… クレアの事は宜しく頼むぞ、アレは本当に良い侍女だったからな」
クレアが俺に取り憑いてるのを知ってやがるのかよ…… 本当に食えねぇ王様だぜ。
これで一件落着って事だな。
後は…… ライリの父親の救出と俺の女性関係についてだが、後者の方は考えるだけで頭が痛くなるぜ。




