第47話 侯爵家 VS 伯爵家
「御前試合だと! そんな武術大会が開催されるのか?」
四年に一度開催される御前試合は国王の御前で各貴族両方の代表が武術の腕を競い合うらしい。
「我が侯爵領の英雄と呼ばれる貴方の力を借りたかった私は貴方を準男爵位でも従えられなかったのを悔やみ、男爵位まで提示したにも関わらず結局断られてしまいましたから、今回は残念ながら見学と言う形で王都を訪れたのです」
「そこに丁度良く俺が現れたって訳か。 ちなみにあれは代わりにライリを寄こせとか言うからだろうが! あの件でウチのメイドを辞めるとかライリが言い出して大騒ぎになったんだからな」
どうも人間不信に陥ってるみたいだからな…… 人質を取らないと安心出来ないって所か。
随分と悲しい女だぜ。
「で、俺にその侯爵領の代表として参加しろって事か? それと伯爵を陥れる計画にどんな関係があるんだよ……」
結局、いいように利用されるだけな気がして来たが大丈夫なのか?
「御前試合の前日に各貴族が代表を伴ってのパーティがあるのです。 当然、その場にダスト・アンダーソン伯爵も夫人を伴って参加するでしょうから、私がダスト伯爵を惹きつけている間に貴方は伯爵夫人を説得して私達の側に確実に取り込みなさい。 貴方の話が本当なら娘の話をすれば、まず確実でしょう」
本当なら今すぐにでも会わせてやりてぇが、この状況のままだとライリに危険が及ぶかも知れねぇからな……
「御前試合には俺が出る意味はあるのかよ。 そのパーティの場で片を付けられねぇのか?」
パーティにだって国王様が参加するんだろう?
その際に訴えれば万事解決な気がするんだが……
「そのまま訴えれば伯爵夫人も一緒に罪人として裁かれる事になりますが、貴方はそれで良いのですか?」
うっ、そう言う事か…… やっぱり頭が回る女だぜ。
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ?」
おいおいヴィッチ侯爵の奴、なんか悪そうな笑みを浮かべてやがるな。
「貴方が私の婚約者だと言う事にして、伯爵夫人を賭けの対象にするのです。 勿論、貴方が負ければ私はクズ伯爵の慰み者になるのですが、私は貴方に賭けましょう」
女郎蜘蛛の婚約者とか怖くて堪らねぇよ。
本当に結婚した場合、六人目の旦那になるのも複雑な気分だろうな。
「そうすりゃあ、ライリの母親は伯爵と縁が切れるって訳か! 流石は女郎蜘蛛…… いや、済まねぇな。 呼ばれて嬉しい渾名じゃねぇよな」
頭を下げて謝る俺を見たヴィッチ侯爵が舌舐めずりとかしながら俺を見てやがるんだが、一体何なんだよそれは…… 本当に怖えよ。
「皆の者、此度も良く参加してくれた。 儂は大変嬉しく思う。 特にパープルトン侯爵は、侯爵領の英雄を婚約者に迎えての参加だそうだな。 これは大変めでたい事である」
ハイランド国王ランス・ハイランダー陛下の挨拶の中で俺達の事が語られるとは思わなかったが、また俺に婚約者かよ! そうなるとヴィッチ侯爵にとっては六人目の婚約者だな。
俺にとってはクレアも入れれば今回のはあくまでも芝居だが、これが本当ならば四人目の婚約者になるから、こうなってくるとあまり侯爵の事を悪く言えねぇぞ。
「其方が英雄と称えられているヴィッチ侯爵の婚約者だな。 王宮の侍女が誘拐された事件を解決し、今日は王都で怪しい集団が起こした騒ぎをも解決してくれたと聞く。 国を代表して礼を言わせて貰おう、大儀であったぞ!」
パーティ会場の皆の視線が俺に集まってやがるな、もう勘弁してくれよ。
「ありがとうございます陛下。 私如きに勿体無い御言葉、大変嬉しく思います」
ふぅ…… クレアの囁きを真似ただけだが、何とか言えたぜ。
会場からは割れんばかりの拍手が響いていた。
それにしてもヴィッチ侯爵も随分と着飾ってやがるな…… そうやって笑顔でいれば中々の美人じゃねぇか。
「ふふふっ、そんなに緊張する事はありません。 あの窓際のテーブルの側にいるのがダスト伯爵です。 そして…… その隣にいるのがアイリス伯爵夫人です。 確かに真実を知ってから見てみれば今までは気付きませんでしたが、あの小さな侍女の面影がありますね」
どうも嫌味な感じの男がダスト伯爵か…… アイリス伯爵夫人は確かにライリに似てるな。
違うのはこの世の全てを諦めたみてぇな感情の無い顔だろうな。
ライリが笑うと辺りに花が咲いたみてぇな感じだしよ。
「ああ、そうだな。 あんな顔は似合わねぇ筈の女性だぜ。 仕掛けるのか?」
ヴィッチ侯爵が無言で頷くとダスト伯爵の元へと向かって歩き出したのを合図に、俺もその後に続く。
言葉巧みにバルコニーへと移動した二人を確認すると俺は一人その場に残ったアイリス伯爵夫人に近付いて声を掛ける。
「初めて会うが時間がねぇから、手短かに話す。 だから敬語とかは勘弁してくれ。 アンタの娘のライリと俺は一緒に暮らしている。 アイツは本当に何事にも一生懸命で取り組む素敵な女の子に育ってるぜ。 今日、アンタの旦那の配下に殺されそうになったが、無事だから安心してくれ」
俺の言葉に感情の無かった瞳に変化が起きる。
「ライリ…… 生きていてくれたのですね」
「そうだ、それに俺が城の地下に囚われているライリの父親も助け出すから安心してくれ。 アンタ達家族を長年苦しめて来たダスト伯爵に引導を渡してな! だから、アンタには協力して欲しいが頼めるか?」
「はい…… どれだけあの子に会う日を夢見て来たか…… どれだけあの人と穏やかに暮らす日を想像して来たか…… 私に出来る事なら何でも致します」
どうやら、コッチは上手く行きそうだ。
ヴィッチ侯爵の方はどうだろうか?
バルコニーの方に目をやるとドレスを引き裂かれ肩を露わにしたヴィッチ侯爵が目に涙を浮かべ俺の元へと走って来る。
流石だぜ、迫真の演技って奴か?
その彼女を慌てて追い掛けて来るダスト伯爵。
漸く俺の出番か!
「俺の婚約者に対して、その様な暴挙を許す訳にはいかない。 明日の御前試合にて決闘を申し込む!」
俺の言葉に真っ青な顔をするダスト伯爵。
そのまま殺っちまった方が手っ取り早いんだがなぁ…… そうするとヴィッチ侯爵の描いたシナリオ通りに進まなくなるからな。
「私は何もしていない! 潔白だ!」
本当にそうなんだろうが悪いな。
「国王陛下に申し上げます。 ダスト伯爵の振る舞いは黙って許せる事ではありません。 彼が私の愛しいヴィッチを欲するならば、彼女を賭けての決闘を申し込みたいと思うのですが、お許しを頂けますでしょうか?
「国王陛下、彼が最愛のヴィッチ侯爵を賭けるのですから、主人にも私を賭けて貰うのが道理と言うものでは無いでしょうか?」
「な、何を言うのだアイリス!」
感情が無くいつも彼の言いなりだった妻の変わりように驚きの表情を浮かべている。
「祝いの席でのこの狼藉…… 黙って許される事では無いぞ、ダスト伯爵!」
怖いくらいに何もかも台本通りだぜ……
ここでヴィッチ侯爵の出番だな。
「国王陛下! この屈辱は私とて我慢がなりません! 女の身だからと賭けの対象になるだけとは納得がいきません。 この様な事態になった今、我が領地を賭けての対決を望みます! お認め頂けるでしょうか?」
おおっ、流石だぜ…… 目に涙まで浮かべてやがる。
「その挑戦、受けて立ちますわ! ヴィッチ侯爵様、我が伯爵家を侮らないでください。 そうですね、ダスト伯爵ともあろう方が負ける筈がありません」
アイリス夫人も中々やるじゃねぇか、愛しい本当の旦那と娘のためだものな。
やっぱり女を怒らせたら怖いって事か……
さぁて…… これで明日が楽しみだぜ!




