第40話 禁忌の子
その場所は薄暗く蝋燭の灯りだけが辺りを照らしていた。
中央にある祭壇にはあまりの恐怖に声を失った少女が縛られ転がされている。
祭壇を取り囲むのは白い仮面を被った異形の集団だった。
頭を垂れる多くの者が一人の人物が口を開くのを待っている。
「皆の者、喜ぶが良い。 禁忌の子の行方が遂に判明した。 この世に災いをなす、忌むべき存在を許すべからず! 禁忌の子に死を!」
集まっている白い仮面の者達が喜びに震え、皆が揃って歓喜の声を上げる。
「「「禁忌の子に死を!」」」
彼らが声を揃えて願うのは禁忌の子の速やかなる死なのだ。
「君は運が良い。 我らの願いを叶えるための生け贄として、この私の手にかかって死ねるのだから感謝したまえ」
髑髏を模した装飾が施されたナイフが少女の心臓に突き立てられ、彼女は短い生涯を終えた。
ナイフが刺さる寸前まで彼女は考えていた。
昨日まで送って来た平穏な日々からは、想像も出来ない形で死を迎える自分の人生とは一体何だったのだろうか。
だが…… その答えは永久に導き出される事は無い。
漸く後釜が育って独り立ちした事から、アンナが冒険者ギルド職員を退職する事が出来た。
これで数年ぶりに冒険者に復帰した訳で、受付嬢の制服姿も中々似合ってたのに見納めとは残念だと俺が話していたら、ちゃっかり貰って来やがったんだが、たまには俺に見せてあげないと悲しむだろうからだとさ。
どうせなら王都で俺が買ってやったミニスカメイド服も着て見せてくれと冗談で言ってやったんだが、いつもの様に怒るかと思えば顔を赤らめて恥ずかしそうにしながら「うん、アナタが見たいなら…… 恥ずかしいけどいいわよ」と着替えて見せてくれたりもしている。
人間変われば変わるもんだな……
婚約指輪を渡す約束をしたからだろうか?
そうなるとやっぱり早めに用意しなきゃなんねぇよな。
「婚約指輪を買うために遠い公爵領まで行くのですか? 私はこの町にあるお店の物でもご主人様に買って貰えるだけで本当に嬉しいのですけれども……」
それじゃ俺が色々と困るんだよ。
そんな姿を誰かに見られたら、また何を言われるか分からんからな。
そう考えた場合なるべく知り合いの居ない場所で買わねぇとダメな訳だ。
「お前には最高の物を贈りたいからな。 そうなると品揃えが一番良いのは公爵領だろ?」
そう言う理由にしておくつもりだ。
鉱山を抱える公爵領は様々な鉱物や貴金属を採掘しているから王都よりも品揃えが良い筈だ。
そう言う希少価値のある土地は王国の直轄地にされる事が多いが、代々公爵家の領地だった場所で新たに発見された鉱山だけに召し上げる訳にもいかなかったようだ。
「ご主人様、ありがとうございます。 それで公爵領には私達二人で訪れるのでしょうか?」
やっぱり…… そうなるか。
それが一番気になる所なんだろうな。
「いや、折角の機会だし、アンナも連れて行かなきゃ、後が怖いからな」
ちなみにアンナにも既に話してあるが、同じように二人で行くのかと聞かれていた。
公爵領を訪れるのは絶対に初めてだろうから、ライリも一緒に連れて行ってやるつもりだと答えておいたが、本当は二人が一緒に行ってくれないと俺が困るんだよ!
最低な奴だと俺だって思ってるが…… 二人を悲しませる事だけは絶対に避けたい。
問題を先延ばしにしているだけのような気もするが、今はこうするしか思いつかないからな。
そんな理由から俺達は公爵領へと旅立つ事になった。
今回も乗り込んだ乗り合い馬車には俺達の他に客はいないかと思いきや、老夫婦と商人の男性が一緒だった。
俺達と一緒にいる事で危険な目に遭わせる事にならなきゃいいんだがな。
「公爵領に行くには一度王都に行かなければならないのですか?」
不思議そうに俺へと尋ねて来るライリ。
今まで町から出た事の無かったライリは知らないのだろう。
中央集権的な国家である我が王国は王都も位置的に関してもその中央部にあり、支配下に置く各地の貴族領が王都を取り囲むように配置されていた。
俺が住む侯爵領から見て目的地になる公爵領は王都を挟んで丁度反対側に位置している。
そのために王都を経由する必要があるのだ。
「位置的にそうなるな。 移動は乗り合い馬車になるから滅多な事がない限り安全な筈だ」
前みたいに山賊に襲われるなんて事は無いと思いたいがな。
裏でヴィッチ侯爵が何してやがるのか分からんから油断は出来ねぇんだけどよ。
「そうなのですか。 ついこの間、王都を訪れたばかりなのに変な感じですね。 そう言えば朱雀館にも少しはお客さんが戻って来ているのでしょうか?」
以前訪れた際に泊まった朱雀館と言う旅館は幽霊が出ると噂になり客どころか、従業員さえも逃げ出しちまってる始末だったからな。
「王都に着いたら寄ってみようぜ! アンナもそれでいいよな?」
「ええ、また泊まれると嬉しいけど…… 経営が持ち直してたら料金は元に戻されてて泊まるのは厳しいんじゃない?」
「確かにあの立派なスイートルームならな、でも普通の部屋なら大丈夫じゃねぇかな」
騒ぎの元凶になった幽霊のクレアは、あの部屋を出て行って今は俺の家にいるしな。
今回も当然の如く、俺達に同行している。
一緒に来れば何か美味い物を食べられるとでも思っているのだろう。
その度に憑依されて、逆に美味い物を味わえない俺はいい迷惑だぜ。
クレアにとって王都は故郷だし、食べ物の事は別としても行きたいと思っている筈だ。
敬愛する侍女長のアニスもいるからな。
「朱雀館に泊まるなら、私達は永久的にスイートルームを以前の値段で提供してくれると約束してくれましたから心配しなくても大丈夫ですよ」
あの気味の悪い主人と結構仲の良かったライリは、どうやらそんな約束をしていたらしい。
「それなら王都での宿は、またあそこに決まりね! また夜景が楽しめるなんて素敵……」
そんな事を口にしながら俺に視線を送って来るアンナ。
どう考えても俺に一緒に見ましょうねって合図なんだろうよ。
出来れば今回は部屋を別に取るつもりでいるんだが、今は言える雰囲気じゃねぇよな。
全く俺の将来はどうなるんだろうか。
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