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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第一章 大剣使いの冒険者と小さな侍女ライリ
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第38話 ご主人様の行方

「ご主人様は三、四日だけ家を留守にすると言ってましたけど… 今回の依頼は大丈夫なのでしょうか? どんな依頼か聞いても大した事は無いからと苦笑いするだけで、教えてくれないんです」


自分の主人の無茶振りを何度も目にして来たライリには不安でならない。

今度こそ帰って来ないのでは無いかと心配になってしまい、家事にも全く気が入らない自分に気付いてしまう。

彼が借りて来た馬に乗って旅立って行った後に、今回の依頼内容が気になって冒険者ギルドへと足を運んでいた。


「えっと…… 特にギルドからの依頼は受けていないわよ? 三、四日かぁ…… そっか、今年もその次期が来たのね」


ライリに彼が受けた依頼内容を尋ねられたアンナは最初は冒険者ギルド以外の依頼でも受けたのかと思ったが、次期的に今年もアイツは一人であの場所を訪ねて行ったんだと言う事に気付く。


(いい加減に私も連れて行ってくれればいいのに……)


そうは思っているのだがギルドに勤めている今の私には、まだその資格が無いとでも言うつもりなのかと腹が立って来る。


「その次期とは一体何なのでしょうか?」


住み込みで働き始めてから、まだ半年にも満たないライリには去年のご主人様の事は何一つ分からないのだ。


「アイツがライリちゃんに話してないのに私が話していいのか悩むけど…… これは私の思い出話でもあるのだからいいわよね。 もう少しで休憩時間だから、そこに座って待っていて貰えるかしら?」


アンナが仕事に戻った後、彼女が冒険者相手に依頼の手続きや成功報酬の支払いをしているのを離れた場所で眺めていたライリは彼女と自分とを比べてしまうのだった。

気は強いが誰が見ても美人でスタイルも良いアンナと、ただの子供でしかない自分では勝負しても敵わないのでは無いかと言う気持ちになってしまうのは当然の事だろう。


今でも信じられないが将来自分が大人になった時に、ご主人様と結婚したいと思っているのならば、その時は結婚してやりたいと考えていると院長先生に話をしているのをドア越しに聞いてしまったのだ。

プロポーズをするにしても早過ぎるにも程があると院長先生も苦笑いしていたが、ライリにとっては本当に幸せを感じた出来事だった。


だが… 自分が大人になる数年間の間に大好きなご主人様が誰かに奪われてしまう可能性がある事も理解している。

その一番のライバルはアンナだと言う事にも気付いてはいるが、自分に対して優しく接してくれるアンナを嫌いにはなれない自分をもどかしくも思っていた。

それはアンナにとっても同様なのだが、お互いが口に出せない思いを秘めたまま生活を共にしているのだ。


「お待たせ、ごめんねライリちゃん」


ライリが座るテーブル席にティーセットを持ってやって来たアンナが、ライリにお茶を勧めながら何から話せばいいのか悩んでいる様子を見せる。


「いいえ、お仕事中に急に訪れて申し訳ありませんでした。 アンナ様が家に帰って来てからだって聞けるのに私ったら… 我慢出来ずに……」


ライリの事を一人の女性として見ているアンナには彼女の気持ちが痛い程分かるのだ。

同じ一人の男を愛する女性として……

アンナはライリを子供からと思って舐めていないが、共に過ごした歳月と、自分が大人だと言う大きなアドバンテージを持っていると自負している。

ライリには負ける気がしていない。

だからこそ余裕を持って彼女と接する事が出来るのだが、当のライリはそれを知らない。


「私とアイツが昔は冒険者として一緒に組んでいたのはライリちゃんも知ってるわよね。 他にも仲間がいたのよ、気の合う大切な仲間達が」


ライリにとっては初耳でもあった。

彼がアンナと二人っきりで冒険者として活動していたとばかり思っていたからで、その言葉に少しホッとしている自分にも気付いていた。


「その方達は今はどちらに?」


話にも出て来ない仲間の存在を不思議に思う。

そしてご主人様は遠い町に住む仲間に会いに出掛けているのでは無いかと思うに至る。


「みんな死んだのよ。 私達の目の前で…… それも窮地に陥ったアイツを助けようとしてね。 だからアイツは今も彼らが死んだのを自分だけのせいだって思い込んでいるの。 馬鹿なのよアイツって」


ライリには戦いで死んで行った人達の事は何一つ知らないが、ただ一つだけ分かる事がある。

それはその人達もご主人様の事が大好きだったのだとライリは思う。

死ぬかも知れない危険を冒してまで助けようとした人達に感謝の気持ちを送る。

ご主人様を助けて、自分と巡り合わせてくれた大切な人達なのだから。


「彼らが死んだ場所にお墓を建てたのを私は知ってるわ。 多分アイツはそこに行ったのよ。 あの出来事の後からかな…… アイツが私を遠ざけるようになったのは。 それもそうよね、槍が刺さったまま盾になって逃げろと言ってくれた仲間を、もう助からないからと見捨てた私は嫌われたんだと思ったの。 アイツは最後まで助けようとしていたわ。 でも私はアイツさえ生きてくれれば、それでいいって思った悪い女だから……」


「私がその場にいても…… そうしたと思います。 ご主人様に嫌われても構わないから、絶対に生き延びて幸せになって欲しいって思うから」


ライリにはアンナの気持ちが痛い程分かる。

ご主人様が時折見せる何処か遠くを見ている様な表情は彼らの事を思い出していたのだろうか?

目の前で涙ぐむアンナがどれだけ辛い思いをして来たのだろう。

ご主人様を思うが故にとった非情な選択の結果、嫌われてしまうなんて……


(いいえ、それは違う)


ライリは気付く。

ご主人様が本当に優しいからアンナを遠ざけたのだと言う事に。

その結果、アンナは危険な冒険者稼業を辞めて、冒険者ギルドの受付嬢になったのだから。

ご主人様もアンナの事を大切に思っていた結果として選んだ選択なのだろう。

ライリはその事をアンナに言うつもりは無い。

言えば今以上にアンナがご主人様の事を好きになってしまうのが怖かった。


「アンナ様、今夜はご主人様のベッドで一緒に寝ませんか? そして二人で…… い〜っぱい! ご主人様の悪口を言い合うんです」


「ふふっ、なんか楽しそうね。 私なんか呆れる程アイツの悪口が言えるんだから」


ライリの突拍子も無い誘いに涙ぐんでいたアンナも笑みをこぼす。







「おい、お前ら! 今年も旨い酒を持って来てやったぜ。 この俺様に感謝しやがれ!」


俺は奴らの墓の前に盃を置いて酒を順に注いで行く。

今日は気の合う大切な仲間との一年に一回の飲み会だからな。


「今年はお前らに話す事がいっぱいあるんだぜ。 アンナの奴は冒険者に戻るそうだ。 お前らが心配する気持ちは分かるが、黙って言う事を聞くアイツじゃねぇのはお前らが一番良く知ってるだろうが!」


お前らはみんなアンナに惚れてたからな。

アイツも罪な女だぜ。


「そうそう…… お前らは信じないかも知れないが、俺は今、幽霊のクレアって奴と暮らしてるんだぜ。 死んだお前らが化けて出て来ないのに…… 恨み言の一つも言ってくれりゃ、スッキリするのによ……」


彼奴らの魂は天国へと行けただろうか?

そんな所があるとすればの話にはなるが。


「信じられないと言えば、もう一つだ! 何と俺ともあろう者が、小ちゃくて可愛いメイドと暮らしてるんだよ。 そいつがまた面白い奴でさ。 お前らにも会わしてやりたいぜ。 きっと驚くぞ。 でもよ、先に言っておくがロリコンとか言って絶対に俺を笑うなよ」


ライリと出会って俺は変わったんだ。

本当に大切に思える奴に出会えたんだぜ。


お前らに会わせてやりてぇよ……


なぁ、お前ら……


何で俺を置いて死んじまったんだよ……



奴らの墓は何も答えずに、ただ俺を見つめていた。



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