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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第一章 大剣使いの冒険者と小さな侍女ライリ
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第37話 結納金

孤児院で何かのイベント行事で使うらしい大鍋を倉庫の奥から引っ張り出して来た俺は庭の中央でレンガを積み上げて即席の竃を拵えていた。

ライリの方は料理の下拵えをあらかた済ませており、火が着くのを待っている状態だから急がねぇとな。

大鍋にしても暫く使われて無かったみてぇで、錆び付き防止に塗ってあった油も干からびてたから使える状態にするのにも一苦労で時間がかかっちまったんだ。


その間にガキ共には買って来た服を着せた訳だが、最初はあまりのボロボロの服に浮浪者みたいな感じで驚いちまった。

俺の家に来るまではライリもあんな格好をしていたのかと想像すると何だか悲しくなるな。

確かにアイツは普段着って物を持って無かったからな。

常にメイド服を着てるから気になっていたが、そう言う訳か。

流石に給料を手にしてからは服や小物なんかも買っていたみたいたが、それも最低限の物を揃えただけだったし、貯金でもしてるのかと思っていたが、多分孤児院に寄付してたんだろうぜ。

アイツはそう言う奴だからな。


竃に薪を焚べて鍋を掛ければ次第に辺りに美味そうな匂いが漂い始める。

それにしても薪も用意しといて良かったぜ。

既に孤児院が保有している薪も底を尽きかけていたみてぇだったし、このまま冬が来たらどうするつもりだったんだろうな。

美味そうな匂いに我慢出来ず、腹を空かせたガキ共が集まって来る。

これだけの育ち盛りを抱えたら食費を捻出するだけでも大変だろうな。


「うわぁ、美味しそうな匂いだね。 ライリ姉ちゃんの料理を食べるのも久しぶりだから、僕は凄く嬉しいんだ。 ねぇ、僕が大人になったら結婚してよ!」


まだ小さい男の子からの突然のプロポーズを受けたライリは、一瞬だけ驚いた表情を浮かべた後に、その男の子へと軽く笑みを向ける。

俺はライリに渡されたお椀の中に入った猪鍋に舌鼓を打ちながら、そんな風景を眺めていた。

最近のガキはませてやがるぜ。

あの年で結婚とか口にするのかよ。

俺なんか気の合う仲間と悪さばかりしていたからな…… 同年代の女達からは文句しか言われた事が無かった気がするな。


クレアの奴は憑依させて貰えるのはまだかと待ちきれない様子みてぇだが、俺だって折角ライリの美味い手料理を味わえるなら、せめて一杯くらいは食わせて貰いてぇからな。

鍋の具材が底に張り付いて焦げ付かないようにゆっくりと掻き混ぜていたライリが、その手を止めて求婚して来た男の子へと首を横に振って応じる。


「うふふっ、嬉しいけど…… ごめんなさい。 既に私は身も心もご主人様に捧げているから、それは出来ないの」


恥ずかしそうに俺を見ながら、そんな事を口にしていた。

ぶっ! ライリの奴、あんな子供相手に言ってやがる。

思わず口の中の物を吹き出しまったじゃねぇかよ。

まぁ、ライリも子供だけどよ。

ちょっと待てよ…… そんな子供と将来結婚してもいいと思っている俺は…… どう考えてもまともじゃねぇよな。


言われたガキも意味が分からずに呆然としてるが、断られた事だけは理解したらしい。

呪い殺してやるとでも思ってそうな目で俺の事を睨んでやがる。

それにしても… この孤児院での俺は非常に居心地が悪い。

まず院長がまるで俺を信用していねぇみたいだからな。


『まだですか? ご主人様! 私も早く食べてみたいです。 猪鍋なんて王都でも食べた事はありませんし…… 一体どんな味なのかしら?』


仕方がねぇな…… 院長が俺を見る冷たい視線に何だか居た堪れなくなって来てるし、この場はクレアに譲るとするか。

クレアに向けて頷いてみせると嬉々とした表情を浮かべて俺の中へと入って来る。

そして俺の意識は遠退いて行った。






「ご主人様ったら…… またそんな事を言うのですね。 何だか別人みたいです」


俺の目の前には赤らめた頬を両手で抑えながら恥ずかしそうに目を瞑っているライリがいる。

どうやらクレアが憑依をやめたらしいな。


『猪鍋と言う料理は初めてでしたけど、本当に美味しくて大変満足出来ましたわ。 幸せ……』


腹を抑えながら満足そうに宙を漂うクレア。

幽霊でも満腹感を感じるのか?

まぁ、幸せなのは良かったがよ…… お前はまた何かライリに余計な事を言いやがったろ?

完全に舞い上がってるじゃねぇかよ。

俺の目に映る幸せそうなメイド達。

またこれで院長の冷たい視線が俺に向けられるんだろうなと半ば諦めた思いで彼女を見ると、感激した表情でコチラを見ていやがる。

一体どうしたって言うんだよ?


「先程の貴方のアドバイスには私も感服しましたわ。 その場しのぎの寄付に頼るだけじゃ孤児院の運営が行き詰まるのは当然だと言う指摘も言われて当然の事でした。 頭では分かっているつもりでしたが、貧困に喘ぐ日々に追われるだけで何も出来ずにいた私はただ恥ずかしい限りです」


おいおい、前と随分態度が違うじゃねぇか?

クレアの奴はどんな話をしたんだよ……


『薬草園を作る事を提案しましたの。 薬草の栽培ならば子供にも出来ますし、ご主人様の渡した寄付金を元手にすれば充分に可能ですもの。 渡したお金はいつかは尽きますから、生きたお金の使い方をしなければ元の貧困生活に戻るだけだと説明しましたわ』


そんな事を言ったのか?

本物の俺には絶対に思いつかんぞ…… 流石は王宮付きの侍女だな、教養も豊かだと思っていたが経済学にまで知識があるのかよ。


『今は無理でしょうけど…… 今夜はいっぱい褒めてくださいね!』


ああ、今夜は褒めてやるぜ。

俺はクレアに向けて頷いてみせる。

そう言えば、もう一つ気になる事があるよな。


「で、ライリ… 俺はそんなに変な事を言ったのか?」


なんだか聞くのが怖い気もするぞ。


「あの金貨は寄付金ではなくて結納金だなんて真面目な顔で言われたら…… 流石に私だって恥ずかしいです。 それに私を買うつもりでここへ来たのなら、そんな端金(はしたがね)では無く、部屋いっぱいの金貨が必要だ。 だから俺はそんなつもりで来た訳が無いだなんて……」


やっぱりじゃねぇか!

今夜の予定は説教に変更だ。


『ご主人様、そんなに怖い顔をしないでくださいませ。 皆さん喜んでいるですから良いではありませんか?』


確かにそうだけどよ……

真新しい服を来た子供達が腹一杯飯を食って笑ってやがる。

それを見ている院長も嬉しそうだぜ。

この先の心配事も解消されそうで、何か憑き物が落ちたみてぇな顔に変わってるしな。

ライリは言うまでもねぇか。

世界で一番幸せそうな顔をしてやがるからな。




「こんな子供達にあんな辛い生活を送らせていたとは、やっぱり神様って奴はこの世にはいねぇんだな」


俺はやっぱりそう思えてならねぇな。


「いいえ、ご主人様。 神様はいますよ」


その存在を強く信じて疑わないライリの言葉に、俺は大人びていると思っていたが、やっぱりまだまだ子供なんだなぁと苦笑いを浮かべ、再び子供達に視線を送る。


「だって…… 今のあの子達の幸せそうな笑顔を見たら、誰だってそう思いますよ」


こりゃあ一本取られたなと思った俺は、やっぱりコイツは凄いなと思い直す。

そして自分の居場所はここだと言わんばかりに俺に寄り添って来たライリの頭を黙って撫ぜてやるのだった。







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