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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第一章 大剣使いの冒険者と小さな侍女ライリ
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第34話 馬鹿野郎の誓い

「畜生! 地面がぬかるんでやがるから踏ん張りが効かねぇ……」


重い大剣を振るうには足腰が踏ん張れねぇ今の状況じゃ無理があるだろ。


「ねぇ、早く! 早くアイツを助けなきゃ!」


俺を取り囲む無数のゴブリンの群れの向こうにいるアンナが大きな声で叫んでやがる。

全く… 最後の最後まで煩い奴だな。

高台にいるアンナ達が何とか逃げる時間だけは稼がなきゃなんねぇが、果たして俺に出来るか?

向こうにも結構な数のゴブリンがいるからな。


これは所詮ゴブリンだからと侮った馬鹿な俺が自分で招いた事態だからな。

全く手応えを感じさせない弱っちいゴブリンを蹴散らしながら迂闊にも一人で先行し過ぎた俺は、奴らの罠にハマっていつの間にか退路を断たれていたんだから情けねぇ話だ。


「カイル、ダーナ、ウェール! お前らアンナを頼んだぞ…… これは俺が犯した罪だからな、罰を受けるのも俺だけでいい。 あ〜 こう言う事を言うのは似合わねぇよな… 俺が一人で片を付ける、ただそれだけだ!」


先程から激しく降り始めた雨は足元だけじゃなく、大剣の柄を持つ俺の手まで滑らせやがる。


「おらぁ、死にたい奴はさっさと前に出ろ! この俺が殺してやる!」


すっぽ抜けるかも知れねぇから、力一杯の横薙ぎは出来ねぇか… 足場も悪いから振り下ろしも厳しいとは最悪だな。


「相変わらず威勢だけはいいんだよな、お前は」


俺を取り囲むゴブリンの背後から、奴らを突き崩す槍がチラチラ見え隠れしてやがる。


「カイル! 何で来やがった?」


あの槍はカイルが自慢する名槍だ。

俺が見間違える筈ねぇ。


「仲間だろうが! 罪だか罰だか知らんが、俺が一緒に受けてやる。 だから絶対に諦めるな!」


さっさと逃げればいいものを…… 何で来るんだよ。

ゴブリンの群れの向こうにいる仲間の姿が次第に見え隠れする様になっていた。

少しずつ俺の元に向かって進んでいるようだ。


「その通りです。 馬鹿は死ななきゃ治らないと言いますが、貴方が死ぬにはまだ早過ぎます」


ウェール… お前の矢が既に尽きかけているのを俺は知ってるんだぜ? 慣れない予備の小剣で、この数を相手に戦うつもりか?


「アンナを泣かせるこの大馬鹿野郎が! 町に帰ったらお前の奢りで飲ませろよ!」


生きて帰れたら潰れるまで飲ましてやるよ。

だけどよダーナ… お前の右腕はどうしたんだよ… それじゃ戦斧は持てねぇだろうが……

デカイ戦斧を振り回す自慢の太い腕は肘から先が無くなってやがるだろうが。

左腕一本で振り回す戦斧には、いつもの勢いが全く感じられない。

そんな状態で… 済まねぇ。


「アナタの背中は私が守るって約束したじゃない! 私を嘘吐(うそつ)きにしないで!」


華麗な剣さばきで次々とゴブリンを斬り伏せて行くアンナ。

そういや前にそんな事を言ってたよな… 偉そうに何を言ってやがるって思ってたが、今はお前が妙に頼もしいぜ。


「昨日野営した川だ、あそこまで逃げるぞ。 川を背にすりゃあ、囲まれずには済むからな」


俺はみんなに聞こえるように声を張り上げる。

とにかく今は奴らに合流しなきゃならねえ。


「退きやがれ! オラァ〜ッ!」


大剣を前に突き出すように突進する。

前に立ちはだかる奴らを弾き飛ばしながら駆ける俺の目に仲間の姿が次第に見え始める。

だが…… それは無残な姿だった。

片腕になったダーナは地面にうつ伏せに倒れ、その上に乗ったゴブリンが持つナイフに何度も刺されていた。


矢の尽きたウェールは慣れない小剣で戦っていたが身体中が血塗れで立っているのが不思議なくらいじゃねぇか!

アンナがそれを必死に守ってくれているが、あれじゃ数が多過ぎる、押し切られるのも時間の問題だろ。

早く合流しねぇとマズイ。


俺は必死にアンナの元へと駆け寄る。

ゴブリンを斬り裂き踏み潰して、漸くアンナの元へと辿り着いた時にはウェールの奴は既に息を引き取った後だった。

キザな男だったが信用出来る奴で、俺はお前が気に入ってたんだぜ。


「大丈夫だったか、アンナ! おい、お前は腕をやられたのか?」


利き腕を斬り裂かれたアンナが左腕に剣を持ち替えて戦っていた。


「みんなが… みんなが死んで行くの… お願い、アナタだけは生き残って…」


何言ってやがる… お前も生き残るんだろうが!


「カイル! カイルは何処だよ… お前は大丈夫なのか?」


奴は俺と互角の腕前だ、そう簡単にくたばる筈はねぇからな。


「な、なに… 情けない声を出してやがる。 俺はここだ! なぁ…… 悪いが先に行ってくれ。 ……どうやら俺はここまで… らしい」


「情けないのはお前の方だろ! 一体何を……」


少し離れた場所で戦っていたカイルの背中に深々と刺さっている手槍が見える。

あの位置だと肺にまで達しているだろ?

……もう助からねぇよ。


「行くのよ! 早くしなさい!」


アンナが血塗れの右手で俺の手を引くが、怪我で力が入らないのか握れてもいなかった。


「カイルを置いて行くのか? まだ生きてるんだぞ!」


「まだ…… でも、もう助からない! アナタだって分かってる筈よ。 みんなの死を無駄にするつもり? そんなに馬鹿なの? いいから私について来い!」


泣きながら叫ぶアンナに促されて、頭が真っ白になったままの俺は走り出す。

カイルが最期にゴブリン共を引きつけてくれたのか追っ手の数は思っていたよりも少なく、俺とアンナの敵では無かった。


命からがら逃げ延びた俺達は、街道で商隊の馬車に出会うと言う幸運に恵まれて、ある小さな町へと辿り着いたのだ。

その町の医者の話では右腕の腱を斬られたアンナは二度と剣を握れないらしい。

病院のベッドで呆然と自分の右腕を眺めているアンナに、俺は声を掛ける事すらも出来なかった。


侯爵領に戻った俺は冒険者稼業を休業し、酒と女に溺れた生活を送り続けアンナとも距離を置いていた。

彼女と話す機会も次第に減って行き、風の噂で冒険者ギルドの受付嬢として雇われたと聞いて安心する。

これでもう… アンナが危険な目に遭う事は無いだろう。



俺は仲間を危険に晒す馬鹿野郎だ。


大切な仲間を守る事すら出来なかった。


そんな奴に仲間を持つ資格は無い。


……だったら俺は一人で戦うだけだ。






数ヶ月後、山の麓にある森に踏み入った狩人から無数のゴブリンの死体を見つけたと言う報告が冒険者ギルドに届くのだった。


何か巨大な力で斬り裂かれたかのように思える死体の山の先には、真新しい墓が三つ建てられていたと報告書には記載されている。





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