第33話 プロポーズ?
最近様子のおかしいアンナを心配した俺は彼女が住んでいる冒険者ギルドの職員宿舎を訪れていた。
その途中でとんでもねぇ婆さんに出会ったりしたのは想定外だったがな。
「うわぁ、歯型がくっきり残ってるわね。 痛かったでしょ?」
「ああ、転げ回るくらいに痛かったぜ。 何なんだよ、あの婆さんは!」
俺が女を騙す悪人だと決めつけやがって、気分が悪いったらありゃしねぇ。
「あれでも昔は全冒険者ギルドのアイドルと呼ばれる程人気のあった美人受付嬢だったそうよ」
あの婆さんがか…… 時間って言うのは罪なもんだな。
人をあんなにも変えちまうのか。
そうなると美人のアンナもいずれ……
「あなたが今、何を考えているか当ててあげましょうか?」
黙ったまま見詰めていた俺をアンナが眉を寄せて睨みつけて来るんだが…… 左手が既に握り拳になってるじゃねぇか。
何で女共は俺の考えている事が分かるんだよ。
あの握り拳を回避するにはどうすりゃいい?
早く考えるんだ俺! いや… 感じろ!
「いやいや、お前だけはずっと美人のまま変わらないんだろうなって…… なんて言っても俺が相棒に選んだ女だからな」
んっ、初めて会った時に最初に声を掛けて来たのはアンナの方じゃなかったか?
なら一緒に組んでみるかと意気投合して依頼に出たような気がするんだが… どうも記憶が曖昧だな。
「ふふっ、すぐそうやって誤魔化すんだから。 でも悪い気はしないわね」
どうやら… 正解だったらしい。
「なぁ、最近どうなんだよ? ギルドでも上手くいってないみてぇじゃねぇか」
多分、俺のせいなんだろうけどな。
「ホント、空回りばかりしてて馬鹿みたいでしょ。 早くあなたの横に立ちたくって頑張ってるだけなのに…… 嫌になっちゃう」
前みたいに俺と一緒に冒険者になるのを、ずっと待ってたって言ってたからな。
「そう言えば、この間の乗り合い馬車が山賊に襲われた時にお前の戦う姿を久しぶりに見たが、腕は衰えて無かったし…… 正直一緒にいたのがお前で良かったって思ったよ」
信頼して背中を任せられる奴は、そういないからな。
「そっか… そう思ってくれてたんだ…… 嬉しい…」
俯いたアンナが肩を震わせているのに気付く。
泣いているのか?
もう限界かもしれねぇな。
「なぁ、仕事を辞める前でも構わないから俺の家に住まないか? 二階の部屋は既に空けてあるんだぜ。 お前の好きに使って構わねぇからよ。 でも一応、俺の家なんだから俺の事を大事にしてくれよな。 どうも最近、立場が低い気がするからさ。 俺の家なのにおかしな話だろ?」
苦笑いを浮かべる俺を信じられないって顔をしたアンナが見上げている。
そして俺が思わずドキッとする程の満面の笑みに変わる。
どうやら悲しみの涙も嬉し涙へと変わったらしい。
「それってプロポーズかしら?」
思わぬアンナの言葉に絶句してしまう。
な、何だと! いや、俺はそう言うつもりで言ったんじゃねぇからな。
確かにアンナはいい女だし所帯を持つ相手としては年齢的に一番適してるとは思うが……
んっ? 適してるって…… 適してないのは一体誰なんだよ?
混乱する俺の頭の中に浮かんだのは笑顔で微笑むライリだった。
いやいや、それはねぇよ!
無いよな…… やっぱり……
「馬鹿ね…… 冗談よ。 そんなに困った顔されたら流石に私だって傷付いちゃうじゃない」
おいおい、冗談って思ってる顔じゃねぇだろ?
この世の終わりみたいな顔しやがって……
コイツにそんな顔させるために会いに来た訳じゃねぇぞ俺は!
「今はまだそう言う気持ちになれねぇんだ。 済まねぇ…… アンナ。 だが… アンナに対してそう思える時が来たら、その時は迷わずにプロポーズするつもりだ」
これが今の俺に言えるの精一杯の正直な言葉だ。
「うん…… 今はそれで満足よ」
アンナはそう言って涙を拭い、悲しみに沈んだ顔にも笑みが戻る。
これで少しは精神的に落ち着いてくれればいいんだがな……
この時の俺はアンナが笑みの裏側に隠している思いなど知る由も無かった。
(あなたの事を愛し始めているライリちゃんの気持ちはどうするの? あなただって既に気付いている筈よ。 それにあなたの気持ちだって、かなり揺れているんでしょう? でもね… あの子が結婚出来るようになる年頃まで何年もあるのよ。 ふふふっ、私が負ける筈が無いわ)




