第27話 王宮からの使者
「これでどうだ! まだ何か足りないとか言わねぇよな?」
俺は王都から戻って来てから一週間の間、屋根裏部屋のリフォーム作業をさせられていた。
当然、クレアからの注文だ。
壁紙から始まり絨毯は勿論の事、幽霊のクセにベッドまで要求して来やがったから驚きだ。
俺としては一人になれるスペースさえ与えれば良いだろうくらいに思っていたのだから。
何でも宙を漂って寝るのには慣れていないからとか何とか…… 頼むから慣れてくれよ。
小さな小窓にレースのカーテンまで取り付ける完璧な仕様になっている。
ライリにはウチに客が来ても泊まれる場所を準備しておきたいと言い訳をしてある。
正直言えば客を屋根裏部屋に泊まらせるって言うのも変な話なんだがな。
『はい、素敵ですわ。 私もこれなら満足です』
ふぅ、やっとお許しが出やがった。
俺はリビングに降りると椅子に腰を下ろす。
『ご主人様、お茶をいれますわ』
クレアが竃の薪へと人差し指を向けると青白い炎が出現して燃え移る。
おいおい、人魂で茶を沸かすなよな…
俺の視線の先ではポットやらティーカップが宙を舞い、この世のモノとは思えない状態でお茶が用意されて行く。
『お待たせ致しました。 冷めない内にどうぞ』
そしてテーブルの上にはティーカップに入ったお茶が差し出された。
「済まないな… ありがとう」
『どう致しまして!』
俺の役に立てた事を本当に嬉しそうにしているクレア。
最初の内は小さな物を持ち上げるだけだったが今では様々な物を持ち上げる事が出来るようになって来ている。
先程の様に茶を淹れるくらいなら楽なもんだそうだ。
どうも本人曰く霊力が上がって来ているらしいんだが、それって幽霊の格が上がってるんじゃねぇだろうな… グールとかリッチなんてのになったら洒落にならねぇぞ。
だが…… そんな俺のゆったりとした時間を壊す奴がやって来る。
「ねぇ、今日はいるんでしょ? あなたにお客さんを連れて来たんだけど」
トラブルの元を連れて来た気しかしねぇんだが、玄関先に冒険者ギルドの制服を着たアンナが立っていたのだ。
で、誰だよ一体? 俺に会いたい物好きな奴は……
「おぅ、アンナ! 良かったらお前も寄って行けよ。 丁度お茶を淹れた所なんだ」
「せっかくだけど… 私は後任の教育で忙しいのよ! 全く… これで辞めたのが二人目よ。 仕事を覚えて来たと思ったら辞めるって言うんだもの…… 最近の若い子と来たら一体どうなってるのよ!」
お前が厳しくし過ぎるからだろうが…
こないだギルド長が嘆いていたからな。
それに… 最近の若い子とか言いだしたらオバさんなった証拠だぜ。
「アンナさん、忙しい所をありがとうございました。 後は私から説明しますので大丈夫です。 ギルドへお戻りください」
アンナの後ろにいたのは初老の女性だった。
『アニス様! どうしてここへ……』
どうやらクレアの知り合いの様だな。
王都の一件で何か聞きに来たって所か?
「済みませんが私はこれで失礼します。 アナタ、その方に失礼の無いようにね! では……」
アンナが慌ただしく引き上げて行った後には、俺とクレアの知り合いらしいアニスと言う女性が残される。
「じゃあ、まずは座って貰おうか。 ウチのメイドは買い物に出ていて今はいないんだが、さっき茶を淹れた所なんだ」
「では、お言葉に甘えて座らせていただきます。 歳のせいか… 足腰が弱ってましてね」
そんな状態で王都から侯爵領まで足を運んだんだから余程の理由があるんだろうな。
ティーカップへとポットからお茶を注いでアニスさんとやらに勧める。
「んっ、美味しいお茶ですね… 懐かしい味わいがします」
そうか? 俺には普通な感じしかしないが…
それにしても品の良い女性だな。
「一体何の用件で俺に会いに来たのか話してくれるかい?」
ティーカップをテーブルに置くと真っ直ぐに俺を見詰めるアニス。
「貴方はどうしてあの時、ロイ・ガーランドの別荘にいたのです? どうやって彼が犯人だと知ったのか? 私は… 真相を知りたいのです」
やっぱり王都で起きた連続失踪事件の件か。
なんて説明すればいいんだよ。
「偶然通りかかったなんて… 信じないよな?」
「貴方は何か知っていて、あの場所に辿り着いた筈です。 事件を調べれば調べれる程、貴方の存在に違和感を感じてならないのです」
参ったな… 俺はアンナみたいに頭も口も回らねぇからな。
チラッとクレアを見ると目を閉じて何か考えていたようだが、意を決して口を開く。
『正直にありのままを話してください。 侍女長のアニス様に嘘は通じませんから』
「ハァー 仕方がねぇから話してやるよ、アニス様とやら」
「……何か事情がありそうですね。 私に全てお話ください」
全て受け入れてくれるだろうな… 幽霊とかの話だからな…
「最初に俺がクレアに出会ったのは王都にある朱雀館って言う旅館のスイートルームだった。 そこのメイドかと思ったら幽霊だったって訳だ。 何でここにいるって聞いたら、『どうせ現世に留まるなら高級な部屋が言いじゃない』とか言ってたぞ。 それに勿体無いくらいの美人なのに食い意地が張っててさ… 旅館のディナーが味わってみたいとかで俺に憑依してまで食うんだから参ったぜ」
「そうですか… 信じられない話ですが、クレアらしいエピソードですね。 あの子ったら死んでまで食べる事が好きだとは…」
瞳の端の涙を拭う姿から想像すると、よっぽどクレアが大事だったみてぇだな。
一方のクレアの方は『酷い、なんでアニス様に話すのよ』ってご立腹だから、後が怖い気もするぜ。
「それでクレアが俺に依頼して来たのは拉致された上に殺害された自分の遺体の捜索だった訳なんだよ。 殺される時に見た犯人がロイ・ガーランドだったそうだ。 さっき案内して来たアンナにもクレアが見えるって事で冒険者ギルドで調べて貰って奴のアジトを探し当てて踏み込んだんだよ。 後はアンタも知っての通り、奴を倒してクレアの望み通りに遺体を焼却した訳だ」
「やはりクレアは死んでいたのですね… 遺体は強い炎で焼かれ判別出来ない状態でしたから、もしかしたらと一途の望みを抱いていたのですが…」
「ああ、ロイの奴は屍体愛好家って奴で若い美女、更にメイドの死体しか愛せない変態野郎だったからな。 しかも死霊使いの指輪とか言う不思議な道具を使ってクレアの遺体を操ってやがったよ。 まぁ、最期は大好きなメイドの格好をした美女に囲まれて生きたまま焼け死んだから本望じゃねぇかな」
これくらい話せば納得してくれるだろう。
アニスは暫く目を閉じていたが、安心したかの様に笑みを浮かべた。
「そしてクレアは今もこの部屋にいるのですね。 貴方に出会って成仏出来なくなったと言う所ではありませんか? 本当に一途な子でしたからね」
おいおい、まさか見えるとか言わねぇよな?
「ふふっ、私はまだ自分の名前を名乗っていませんでしたよ。 それに… そのお茶の淹れ方は私がクレアに教えたやり方ですから」
し、しまった! そう言えば… そうか!
ガクッと項垂れる俺。
「俺もてっきり成仏したと思ったんだがよ。 俺が死ぬまで仕えるって言いやがるからさ……」
クレアも観念したらしくアニスの前へと進むとポットを掴んでアニスの空のティーカップへとお茶を注いでいた。
掴めるのか? 浮かべたポットに手を添えていて、そう言う風に見えるだけなのかもな。
アニス様に自分の手でお茶を飲んで貰いたかったんだろうよ。
まぁ、彼女から見ればポットが宙に浮いてるんだから信じられない光景だろうな。
「ありがとう、クレア。 相変わらず美味しいお茶ですね……」
そうか…… 幽霊でも涙を流せるんだな。
クレアとアニスの二人を俺は黙って見詰めていた。
「おい、クレア… 少しの間なら憑依させてやってもいいぜ! 話したい事もあるんだろう?」
この間のレストランでの俺からの礼だ。
『ありがとうございます、ご主人様!』
クレアが俺に憑依した後の事を意識を失った俺は知らない。
クレアとアニスの別れの言葉が盛り上がりを見せ、最後に別れの挨拶として抱き合った所に買い物帰りのライリが鉢合わせたなんて…… 全く俺は知らないぞ!
頼む… 誰か…… 何とかしてくれよ。




