第23話 可愛らしい悪女
「あっ、ご主人様にアンナ様。 お風呂、お先に頂きました。 お次はどうなさいますか?」
風呂上がりのライリがワインに気付き、俺を見たがクスッと笑うのみで怒られはしなかった。
仕方がないなぁと笑って許してくれたのだろう。
「じゃあ、私が先に入ってもいいかしら?」
「ああ、構わんぞ。 ここの風呂からも夜景が見えるからゆっくり入って来るといい」
「そうさせて貰うわ。 クレアさんが成仏した今となっては、この旅館も再び繁盛するのでしょうね。 色々と素敵な事が多いし……」
アンナが俺を見詰めて何か言いかけたが、その先は言わずに風呂へと向かったため分からず仕舞いだった。
確かにいい旅館だよな、旅館の主人は少し気味が悪いけどよ。
それと… お前には見えなくなったみてぇたが、クレアは成仏してないからな!
今だって俺の隣で引っ付くようにして夜景を見てやがるんだぞ。
「ご主人様、今夜の部屋割りですけど…… やはり私とアンナ様が主寝室で寝る事になるのでしょうか?」
アンナも朱雀館に来たのだが結局相部屋のままにしたのでスイートルームには三人で泊まる事になっていた。
問題はその寝る場所になる。
ガタイの良い俺には主寝室に置かれているキングサイズのベッドが丁度良いのだが、ライリとアンナが二人で別室の一人用のベッドで寝るのも狭いだろうと話していたのだ。
そうなると俺が移るしかないだろう。
まぁ、その場合は幽霊のクレアも主寝室で寝ているから女三人が揃って寝る事になるな。
「そうするしかねぇだろうな、ライリは嫌か?」
何となく、ライリとアンナとの関係が気になっている俺は心配になる。
「いえ、全然嫌ではありません! ただ… ご主人様と一緒に寝られない事が残念に思えてしまい… 昨夜はご主人様が隣にいてくれたから、安心して寝る事が出来たんです」
ライリは大人びている様でも、まだまだ子供なんだな。
アンナが一緒に寝てくれるなら大丈夫だと思っていたが… 相性って言うのもあるしな。
「どうしても寂しい時は、また一緒に寝てやる。 だから安心していいぜ」
それもたまにはいいだろう。
普段ライリが俺へ懸命に尽くしてくれる事に対しての礼になるなら安いもんだろ。
「…はい。 ありがとうございます。 やっぱり、ご主人様は優しい方です。 時にそれが罪な事もありますけど……」
おいおい、俺の罪って何なんだ? 本当に女心って言うのは難しいもんだな。
暫くしてアンナが風呂から上がり、最後に俺の番がまわって来た。
風呂からの夜景を満喫した出来たらしく、出た後にはとっても素敵だったと何度も口にしていた程だった。
再び王都に来る時には朱雀館を利用したいと思うが、本来の値段が怖い気もしている。
まぁ、交渉上手なライリがいれば大幅な値引きは間違いないだろう。
そんな事を考えながら俺も夜景を楽しむのだった。
「何だよ、アンナの奴は寝ちまったのか?」
ワインを飲み過ぎたのかソファーで寝てしまったアンナにライリが薄手の布団を掛けている所だったのだ。
「今日はだいぶお疲れのようでしたし… 先程も何かとても嬉しそうにしていましたから飲み過ぎたのかも知れません」
まぁ、今日は色々あったからな。
「仕方がねぇな、ベッドまで運んでやるとするか」
アンナをいわゆるお姫様抱っこで抱き抱えた俺が主寝室へと運ぼうとした俺のシャツの裾をライリが掴んでいた。
「アンナ様は… アチラの寝室にお願いします」
「おぅ、そうなのか」
ライリが示したのは別室の方だった。
俺が風呂に入っている間に二人で話して決めたのかも知れんなと思い、あまり気にせず運んで寝かせておいた。
「じゃあ… 俺達も寝るとするか。 明日には王都を発って懐かしの我が家へと向かわなきゃならねぇしな」
たった数日で懐かしのって言うには大袈裟だが、やっぱり我が家が一番だからな。
「はい、そう致しましょう」
別室を後にした俺の後を枕を抱えたライリが恥ずかしそうにしながら付いて来ていたのだ。
そっちで寝るんじゃなかったのか?
「今夜もよろしくお願いします」
ベッドの上で膝を付いてお辞儀をするライリ。
何か変な感じになってるな。
『あらあら、本当に可愛らしいですね。 ご主人様、手を出したら行けませんよ』
クレアの言葉に俺がビクッと反応するのを見たライリが小首を傾げていた。
こんな幼女に手を出す筈ねぇだろうが!
「どうかしましたか?」
「あっ、いや… あんまりにもライリが可愛らしいってな……」
し、しまった! クレアの言葉を口にしちまったじゃねぇかよ…
俺からの思い掛けない言葉にライリが黙って俯いてしまう。
お前のせいだと言わんばかりにクレアを睨みつけてやると苦笑いを浮かべていた。
「ご主人様はやっぱり罪な方ですね……」
ライリが俺の俯いたまま頭を俺の胸元にコツンと当てて来たが、少し震えているようだった。
どうしたら良いのか分からない俺が、そっとライリの肩を優しく掴むと震えが止まり、そのまま二人の間に沈黙が続く。
「気を悪くしたならスマン」
俺が謝るとプッと軽く吹き出して笑うライリ。
「それに…… とっても鈍感です」
まぁ、そうなんだろうな。
俺が横になるとライリが布団をゆっくりと掛けながら一緒に横になり俺を見詰めていた。
そして何か思い出したかのようにクスッと笑う。
「どうした?」
「実はアンナ様を酔い潰したのは私なんです。 こうしてご主人様と一緒に寝たかったから… 私って悪い女かも知れません。 でも大丈夫です、朝方には向こうに戻りますからアンナ様は気付かないと思います」
そこにはイタズラが成功して喜んでいるみたいな子供の顔を見せるライリがいた。
そう言う事だったのかよ……
それにしても随分と可愛らしい悪女がいたもんだな。
流石にアンナにバレたらと思うと怖いな……
『大丈夫ですわ、その時は私がアンナさんに憑依して制止してみせますから』
クレアが心配になる俺の耳元で囁く。
本当にウチのメイド達は随分と優秀だな。
アフターフォローまでバッチリとは泣けて来るぜ!




