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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第一章 大剣使いの冒険者と小さな侍女ライリ
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第18話 迷わぬように

クレアと言うメイドの幽霊を目の当たりにした事で気が動転したアンナが卒倒してしまう。


「あそこの公園でタオルを濡らして来ますね」


アンナを心配したライリが近くの公園へと走って行くのを見た俺は素早く行動に出る。

話をつけるなら今の内だ!


「おい、アンナ! 目を覚ませ!」


気絶しているアンナの頬をビシビシ軽く叩きながら起こす自分自身を酷い奴だとは思う。

だが… またとないチャンスなんだよ。


「んっ… なっ! 何すんのよ!」


頬を叩かれている事に気付いたアンナの拳が俺の顔面を捉えていた。

鼻血が出そうなツーンとする感覚に襲われながらアンナの肩を力任せにガッチリと掴む。

まずは落ち着かせるのが先決だな。


「落ち着いて聞いてくれ。 アンナにも見えるようだから隠さずに話すが、そこにいるメイドの幽霊の名前はクレア。 ロイ・ガーランドって奴に拉致されて殺害されたらしい」


フウッ… フウッ… と興奮する気持ちを落ち着かせるかのように息を荒く吐きつつ、アンナが俺とクレアを睨みつける。


「で… 幽霊が何でアナタと仲良く歩いてたのよ」


別に仲良くしていたつもりは無いんだが…


「クレアから遺体を捜す依頼を受けたんだよ。 あと… 俺達と違ってライリにはクレアは見えないみたいでよ。 まぁ、それ以前にライリを危険な目に遭わせたくもないからな、この件をアイツには黙っておけよ!」


冒険者を生業にしている俺や元同業者のアンナとは違ってライリは一般市民だ。

ましてや子供だからな。

アンナもそれには同意のようで無言で頷く。

そんなアンナの目の前にスーッと宙を移動したクレアが笑みを浮かべながら手を振ると流石に怖いのかアンナの表情も引き攣っていた。

でもクレアの声が聞こえないのは痛いよな。 俺達の声は聞こえているみたいなんだがよ……


「アンナには冒険者ギルドでロイ・ガーランドって奴について調べて欲しい。 後はクレアと同様に拉致されたメイドの行方不明者の事件がどうなってるかとかも調べて貰えると助かる」


チラッとクレアを見たアンナが溜め息を吐く。


「仕方が無いわね。 協力してあげるわよ。 ライリちゃんも私が引きつけておくから、その間にアンタが何とかするのよ」


流石は元相棒だぜ。

俺が言わなくても、その先までお見通しかよ。


「済まねぇ、恩に着る! その… 悪かったな、引っ叩いたりしてよ、ライリがいない隙に話をつけようと焦っちまってな」


アンナが見せた悲しそうな顔は俺の気のせいだろうか…… それもホンの一瞬で呆れた表情に変わっていた。


「ホント… 愛されてるわね…… ライリちゃん。 それに対して私は頬を引っ叩かれるんだから割に合わないわよ」


「済まねぇ!」


俺はアンナに手を合わせて拝んでおいた。






「あっ! アンナ様、もう大丈夫なのですか?」


息を切らせて戻って来たライリが、倒れた筈のアンナが既に復活している事を驚いているようだった。


「ごめんなさいね、驚かせちゃったかしら? もう大丈夫よ」


アンナの言葉にライリも安堵の息を吐く。

そして何かを思い出したかのようにハッとして少し言いづらそうにしていたが、意を決して口を開く。


「あと…… さっきのメイドみたいな馴れ馴れしいのって…… やっぱり私の事なのでしょうか?」


アレが自分の事だったらどうしようって所か。

アッと言う感じでアンナの表情が固まる。

確かにクレアに対して声を荒げて言ってたけど、姿が見えないんだからライリに言ったようにも聞こえても仕方がないだろう。


「アレは…… 虫よ、白黒のメイド服みたいな色の大きな虫! アイツの腕に止まってるのを教えてやったら、よりによって虫が大嫌いな私の腕を掴んで触らせるんだもの。 気も失うわよ!」


ちょっと苦しいが流石だな…… 本当に頭も口も良く回る女だぜ。

それを聞いたライリが胸に手を当ててハァーと息を吐いてからホッとした表情に変わる。


「良かったです… もしかしたら私の事なのでは無いかと心配になってしまい…… アンナ様がそんな事を言う筈無いのに…… 馬鹿ですね私ったら」


瞳の端に光る物が見えたの事を俺とアンナは気付かないフリをしていた。

済まねぇなと心の中で詫びながら。






俺とライリは武器屋へ、アンナとクレアは冒険者ギルドでロイ・ガーランドを調べる事にして二手に分かれる。

アンナがクレアと一緒行動する事を告げられた途端に泣き出しそうな顔をしていたが… 悪いが我慢してくれ!

クレアの奴も調子に乗ってアンナを揶揄(からか)うように周囲をクルクルと飛んでやがる。

あんまり揶揄うとアンナは怖えからな…

教会で聖水とか買って頭から掛けられちまっても俺は知らねぞ。




王都に来たのは久しぶりだが、以前に俺が大剣を手に入れたヤツの店の場所だけはハッキリと覚えている。

なにせ王都のメインストリートにあるからな。

その道すがらライリは色々と珍しい物が多いらしく、辺りを見渡してキョロキョロしながら歩いていた。


「ホラッ! あんまり余所見ばかりしてると迷子になるぞ」


俺が差し出した手に最初は驚いた表情のライリだったが、軽く笑みを浮かべると嬉しそうに"ぎゅ〜"っと握り締めていた。

こんな人混みの中ではぐれたら面倒だからな。

ちょいと恰好悪いが仕方が無いだろ。


「そう言えば… ご主人様って寝相が悪いんですね。 今朝、目覚めたらご主人様の太い腕で抱き締められていて、そこから抜け出すのに大変だったんですよ」


ちょっと待て! 寝相が悪くて昨夜抱きついて来たのはライリの方だろうが…

大変だったと言う割には嬉しそうなのは俺の気のせいか?


「そりゃあ、済まなかったな……」


なんか納得が行かねぇがしょうがないか。

んっ、あの店で丁度いいのが売ってるじゃねぇか!


「ライリ! あの店でデカイぬいぐるみが売ってるぜ! あれがあれば王都にいる間も寂しく無いだろ? 好きなのを買ってやるから見て来いよ」


チラッと店を見ると俺の手を振り解いてスタスタと歩き出すライリ。


「おいっ、いらねぇのかよ?」


俺の言葉にピタッと立ち止まり不満気な表情で振り向いたライリが俺に告げる。


「あの店に私の好きなぬいぐるみは存在しません!」


……だとさ。


せっかく買ってやるって言ってるのに、ちょっと我が儘じゃねぇか?

そうなると今夜も川の字で寝なくちゃなんねぇのか…… 明日も睡眠不足確定だぜ。

先行するライリに俺が追いつくと、先程振り解かれた手を掴まれる。


「うふふっ、ご主人様が迷子になるといけないので手を繋いであげます」


本当に納得出来ねぇが…… まぁ、それもいいだろ。


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