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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第三章 大剣使いの冒険者と不思議な侍女ライリ
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第53話 愛してるぜ、お前達!

「あ〜 もう切りがねぇよ! 次から次へと沸いて出やがるし、一体どうなってやがる!」


やっぱりゴブリン退治だと甘くみてた俺がいけねぇのか…… これじゃ昔と変わらねぇぞ。

前と違うのは仲間が居らず、俺一人なのと天気は快晴って事か?

まぁ、お陰様で漆黒の大剣デスブリンカーを心置きなく振り回せるってもんだぜ。

仲間を殺された復讐に燃えているのか血を見て興奮しているのかは分からねぇが、俺に群がるゴブリンの数は一向に減る気配がねぇ。


「やっぱりアイツらを連れて来なくて正解だったぜ。 前みたいになっちまったら悔やんでも悔やみきれねぇからな……」


ゴブリンの死体が周囲に散乱してやがるから、たまに位置を変えねぇと血やら内臓とかで足元が滑っちまう。

それにしても今日って…… あの日なのか?

依頼を受けた時から感じていたのは既視感(デジャヴ)って奴だろ。

だとすると天気が崩れて来る前に片付けなきゃならねぇぞ。





王都で暮らし始める事になった俺達。

ライリに結婚指輪を買ってやった事が引き金になり、アンナやヴィッチ…… 当然ユナまでもが欲しがったのは言うまでも無い。

更にはそれを聞きつけたクレアまでも家に住み着き、王宮付きの侍女を通いで続けるようになっていた。

そして結婚年齢に満たないマリンを除く五人が既に俺の妻になっている。

マリンも周囲の女達を見て15歳になるのを待ちきれない様子だ。

結婚した訳だから、やる事はやってる訳で…… 俺も今や四児の父親だからな。

食べ盛りの子供を抱えて根気を入れて働かなきゃならねぇと気合いを入れ、次々と依頼を受けては熟す日々が続いていた。


「これで死んだら元も子もねぇからな…… おらぁ! 死にやがれ!!」


気合いを入れて数匹のゴブリンをまとめて斬り捨てる。

そんな最中に左脚に激痛が走った。


「クッ…… 油断してたなんて、只の言い訳だよな」


殺気を感じさせない矢だったから流れ矢だったんだろうが、俺の動きを止めるには十分な痛手には間違いねぇな。

これで年貢の納め時とは思いたくもねぇぞ。

勝機と見たのかジリジリと間を詰めて来るゴブリン達。

だが…… それも束の間。

何処からか飛来した矢が次々とゴブリンに刺さって行く。


「どうやら困ってるみたいだから手を貸すが、ちゃんと分け前は貰うぜ。 俺達は冒険者だからな」


その声を俺が聞き間違える筈はねぇ。

声が聞こえた方を横目に見ればカイルと一緒にいるのはダーナとウェールじゃねぇか!

やっぱりアイツらパーティを組みやがったんだな。

俺とアンナの前に現れた時も三人揃ってたから不思議じゃねぇ。


「ああ、構わねぇぜ! 酒も付けるから宜しく頼むわ!」


お前ら程頼りになる奴らは他にいねぇさ。


「酒か! 俺は底無したぜ? 後で後悔するなよ!」


良く知ってるぜ、ダーナ。


「私はワインを頼みます」


相変わらずスカした奴だな、ウェール。

いいぜ、ワインでもシャンパンでも何でも構わねぇ、お前らとまた酒を酌み交わせるならよ。

お前らの墓石と酒を酌み交わして何度思ったか知れねぇぜ。

新手が現れて動揺したようにゴブリン達がアイツらの勢いに押されて後退を始める。

これだ! 俺はコレに騙されたんだ。


「深追いはするなよ! これはアイツらの手だ、孤立させて囲むつもりだぜ!」


同じ失敗をするかよ、そうなると…… もうすぐ雨になる筈だ。

その前に勝負を決めてやる!

だが…… 矢傷を受けた左脚に力が入らねぇ……


「全く相変わらず無茶な戦い方をしてるのね!」


ちょっと待てよ! 何でお前がいるんだよ、アンナ!!

お前は二人目を妊娠して家で安静にしてる筈だろうが!


「身重の体で何しに来やがった! ……って、ちょっと待て! そのパタは…… お前はアッチのアンナか?」


何でいるんだ? 違う未来にいる筈だろうが。

しかも…… 最後に会った時よりも若返ってやがる。

そうなると、コイツも使ったのかよ。

世界樹の露を!


「アッチって何よ! 私は私よ。 勝利の女神のアンナ様が来てあげたんだから感謝なさい」


間違いねぇ! この生意気な口振りは俺の良く知ってるアンナだ。

これであの時のメンツが揃ったって事か。

だったら、やる事は一つだ。

今度こそは勝つ!


「この馬鹿がよりによって一番厄介な時に来やがって!」


俺はゴブリンを斬り捨てながら怒鳴るように言い放つ。

それにしても何でこのタイミングで来たんだよ?


「あんたのピンチの時に来れるようにって願ったからに決まってるじゃない。 その様子だとまだ来てないみたいだけど、いつかヴィッチさんやマリンちゃんも来るわよ。 みんな向こうで生き切ってから今際の際に行こうって話し合って決めたのよ」


な、何を! アイツらまで来るのかよ。


「おいおい、だったら婆さんになってから来たのかよ」


アンナ婆さんって想像も出来ねぇが……


「ええ、80歳で孫に囲まれて大往生だったわ。 お爺さん」


ま、孫だと! 信じられねぇ……


「コッチの俺はまだ父親だ!」


いきなり爺さんにされても困惑するだけだぜ。

俺の背中を狙うゴブリンをアンナが素早く斬り捨てながら背中合わせになり、俺との合流を果たす。


「約束した筈よね。 利き腕が使えなくなったって、あなたの背中を立派に守ってみせるって…… 今度こそ、その約束を果たせたわ!」


背中合わせで見えねぇが、きっと満足そうな顔をしてるんだろうぜ。


「ああ、頼むぜ相棒! これなら負ける気がしねぇ!」


完全にゴブリン達を圧倒する俺達。

こうなると勝負は見えている。

やがて俺達は遂にゴブリンの集団を討ち果たして、漸く一息吐く事になる。

まともにやれば俺達が負ける相手じゃねぇからな。

そして予想していた通りに激しい雨が降り出し始め、大きな木を見つけて雨宿りを始めた。

報酬は五当分って事になり、各人が冒険者ギルドで受け取るようにしておく約束をしておいたんだが、どうやらコイツらは別の依頼で他の町に行く途中だったらしい。


「何だよ、お前ら行っちまうのかよ? 酒を飲ませる約束はどうしたんだ?」


カイル達は雨が止んだら俺達とは別の依頼を受けた町に行くと言い出したから拍子抜けする。

お前らと飲むのを楽しみにしてたんだが……


「愛する嫁さんと一緒なんだろ? それを邪魔する程、俺達は野暮じゃない。 今度王都に寄った時にでも馳走になるさ」


そう言うことか…… 柄にもねぇ気を使いやがって。

俺が身重の身体だって言った事を心配そうにアンナを見てやがる。

大丈夫だ、コイツは妊娠してねぇよ……


「ああ、だったら王都に来たら俺の家に来てくれよ。 冒険者ギルドで聞けば分かる筈だ。 楽しみにしてるぜ!」


楽しみはお預けって事か…… そうだ!


「なぁ、カイル。 多分、途中で馬車を護衛している騎士の一団に出会うかも知れねぇ。 さっきのゴブリンの残党と戦ってたら助けてやってくれよ。 その馬車にはシャルロットって言うお前好みの天使みたいな女性が乗ってるぜ」


シャルロットを見て驚くお前の顔が思い浮かぶが、そのシャルロットに惚れちまったのはお前自身なんだからな。


「何やら分からないが…… 承知した。 天使とは楽しみだな」


真実を知っているアンナが苦笑いしてやがる。

もう一度お前らと戦えて本当に良かったよ。

俺はあの時の事をずっと後悔していたんだからな。


「じゃあな、お前ら!」


随分と賑やかだったが俺とアンナだけが木の下に残される。

アンナ、俺はお前に会いたかったんだぜ。


「な、何よ…… そんな顔して」


どんな顔してるのか分からねぇが…… 言う言葉は一つだけだ。


「愛してるぜ、アンナ」


「私もよ…… ずっと会いたかったんだから」


俺達は抱き合いながら熱い口付けを交わす。

失った時間を取り戻すかのように……

その後の事を聞くのはカイルじゃねぇが、野暮ってもんだぜ。






「お帰りなさいませ、旦那様! え、ええっ! 向こうの世界のアンナさんですか?」


俺の帰りを出迎えてくれたライリが驚くのも無理はねぇ。

俺だって驚いたんだからな。

そしてライリが大切そうに抱いているのが俺の長女になる。

目に入れても痛くないくらいに可愛らしい。

やっぱり俺には似ていないがな…… 全くどうなってやがる。


「あら、漸く来たのですか? 思っていたよりも随分と遅かったですの」


ユナの奴はニヤリとしてやがる…… コイツは世界樹の露をアンナ達に渡した事を、ずっと黙ってやがったからな。

確かに王都に買った屋敷を見た時に"更に人数が増えるから、もっと広い方が良かったですわ"とか言ってた意味が漸く分かったぜ。

俺はてっきり子供が増えるからだと思っていたが、増えるのは嫁さんの方じゃねぇか。


「久しぶりね、ライリちゃん。 またお世話になるから宜しくね」


嬉しそうな顔でライリに話しかけるアンナ。

アンナが二人になっちまって大丈夫なのか?

まぁ、既にライリも二人いるしな。

俺達の住む屋敷にはヨハン準男爵が連れて来たライリの両親が離れの家に住みながら、屋敷で使用人として働いている。

使用人って言っても家族同様の付き合いだ。

当然、生まれた娘の名前はライリだ。

アイツらの故郷の古い言葉で"幸せ"を意味するらしい。


済まねぇな、ライリ。

またお前に心配かける事になりそうだ。

でも仕方ねぇさ、これが俺の生き方だから勘弁してくれよ。

そしてお前らに贈る言葉は、やっぱり一つしかねぇ。


「愛してるぜ、お前達!」



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